「仁美。海に行きたい。」
「海ですか？修羅様…。」

仁美が戸惑うのは当たり前だ。
魔界の海と言ったら…。
あの真っ赤な色の水に、多分今修羅が目をキラキラさせて言っている様な需要は無かった。

「魔界の海に行っても、修羅様が望んでいる様な楽しみ方は無いと思いますけど……。」

むしろ、魔界の海に連れて行ったら、その海水の中にどんな生物が居るのか……。

目を輝かせて仁美におねだりをする修羅の背後で黄泉の鋭い目線が仁美をロックオンしている。

大切な修羅を傷付ける事は許さないと。

無言の圧力が仁美に降りかかっていた。

いや…。
まずあの親バカをどうにかしようか…。

「…うう…修羅様……。」

仁美が何故こうして黄泉の領域で無事で居れるかと言うと、一重に修羅の采配だった。

魔界トーナメントで、進行を務めた仁美ではあったが、修羅との接点はその時が初めてで。

何故か仁美は、その時から修羅に気に入られていた。

修羅が気に入った仁美だから、こうして黄泉の領域に入っていても、黄泉から咎めを受ける事は無かった。

「仁美。俺は仁美と一緒に海で遊びたいんだ。」



……可愛い……。


無邪気に仁美に抱き付いて、上目遣いで仁美におねだりをする。

それだけで仁美は彼の望みを叶えたくなる。


「人間界では、夏には海で遊ぶと聞いたんだ。俺は仁美と人間界に行きたい。」

人間界か…。
確かに人間界に通じる魔界トンネルが放されて、人間界と魔界は行き来がし易くなっていた。

「……人間界ですか……。」

仁美はチラッと修羅の後ろに居る黄泉の様子を伺った。


（アレ？何故か黄泉様が安堵の笑みを浮かべてる…。）

柔軟性に特化している仁美はすぐにその黄泉の心境を読んだ。

（蔵馬だ！！人間界には蔵馬が居る！！）

黄泉の心情を読むと、仁美もまたその理由に納得した。