ドアを叩く音と、楓の声がした。
返事をしなかったら、楓は勝手に入ってきた。
楓の手が肩に触れた。

この大きくなった手に触れられたく無かった。
男の人に頼るのが、最近は怖かった。
結局勝手に近づいてきて、勝手に居なくなる。
もう、そんな繰り返しはしんどいのだ。
今は慰めなんて要らないから、放っておいて欲しかった。

楓の顔を見たく無かったので、あからさまに顔は下を向き、身体だけ強引に楓の方を向かえさせられた。
そのまま楓に抱きしめられた。
瞬間身体が強張って、引き裂こうとしたが、楓の肩が震えているのが分かった。

楓も悲しんでいるんだ。
抱きしめられているのが慰めで無く、悲しみをぶつけられているのだと分かり、胸が温かくなりまた涙が出た。

同じ思いで抱き合うのが、こんなにも暖かい物だと、初めて知った。
私は楓にしがみつき思いきり泣いた。

楓は変わらないで、勝手に離れないで。
ずっとこのまま側にいて。
楓が居てくれるなら、他は何も要らない。
恋愛も、この先輩への気持ちも。
楓が居てくれるなら、この煩わしい学校の関係も全部捨てる。

だからお願い。
変わらないでずっと側に居て。
そんな勝手な気持ちが人を傷付けると気がつかないほど、幼稚で、けれども懸命に願った。