仙道はよく何かをする訳でもなく、こうやって他の人を観察していたり、ぼーっとしたりしていた。
バスケをやっている時だけ、生き生きとしている。

ドアが開いて、仁美の母親が2人の飲み物を持って来てくれた。
仁美は立ち上がり、母親からトレイを受け取る。
そんな2人を見て、仙道は仁美はお母さん似なんだなと思った。
母親もとても綺麗な人だった。

仁美に飲み物を渡すと、母親は仙道を見てごゆっくりと言い部屋を出た。
仙道は軽く会釈した。
仁美は飲み物ご乗ったトレーを2人の前に置いた。
この部屋にはテーブルが無かった。

「先輩‥この間の新人戦、高校のスカウトの人も沢山来てましたね。」
仁美は全国に行った時の話をした。
そういえば、何人かに声をかけられたなと仙道は思い出していた。
「先輩は高校とかもう決めているんですか？」
「高校なんて、まだ全然考えて無いよ。」
仙道は笑いながら言った。

先の事なんか分からないが、今はバスケと仁美が居ればそれでいいと、仙道は本気で思っていた。

「ねぇ！楓は仁美が彼氏居るの知ってるの？」

ゲームのローディングの最中に、いきなり兄が2人に聞いた。
「何で楓が出てくるのよ。」
仁美がそう言うと、男の子は苦笑いしながらテレビに目線を戻した。

その男の子のやり取りで、『楓』が間違いなく仁美を好きなのだと確信出来た。
しかし、仙道の気持ちも『楓』の気持ちにも全然気が付かない仁美の鈍さに、仙道は『楓』にも同情した。