仁美がドアを開けた時には、一瞬一斉に目がいった。
すぐに目を逸らして、周りは気にしない様に振る舞うのだった。
異様な空気は充満していたが。

そんな中、仁美はキリっとした顔立ちで、真っ直ぐ仙道と隣に座っている洋子を横切って、仙道の反対側に座った。

仁美のその行動に、仙道自身も驚いたが、周りはもっと驚いた。
慌てて小野寺が仁美を追って隣に座る。
「上條、俺余ってる学ラン持って来たから。」
そう言って仁美に渡そうとする小野寺を仁美は遮った。
「仙道先輩に借りるから大丈夫。」
仁美は一言そう言った。

怒っている様な仁美の顔に、その言葉に仙道は嬉しくなって笑ってしまった。
そんな仙道を仁美は睨んだ。
まるで誰のせいだと言わんばかりだ。

「悪い悪い、これ着て。」
仁美が睨んできたのが分かったので、仙道は謝って紙袋を渡した。
仁美は諦めた様な顔で紙袋を受けとった。

勝気な仁美の事だ、周りにとやかくいわれて嫌気がさしたのだろう。
何をしても干渉してくるなら、自分がやりたいように動く方がよいと決めたのだろう。
仙道のせいで要らぬ恨みを買っている事に、まだ釈然としていない仁美を仙道は励ます。

笑い事じゃないと睨む仁美に、仙道は嬉しさが勝ってしまって、余計にやけてしまうのだった。
そんな2人を見て、もう干渉してくる者はいなかった。

しかし学園祭当日、仁美はこの学ランを着ることはなかった。