仁美は花火が終わってもずっとその空を見上げていた。
周りに人が居なくなり、ボランティアの人がゴミの片付けを始めてた。
仁美はようやく巾着の中のスマホが鳴っている事に気が付いた。

もう何度めかの着信かは知る由も無く、流川の名前を確認して通話を押した。

「今何処？」
やっと通じた電話に、流川は安心した声を出す。
「まだ、会場。」
ポツリと聞こえた仁美に声に、流川は小さな違和感を覚えて、思わずそれには応えないで仁美の次の言葉を待った。

「‥楓‥。
会いたい、会って伝えたい事がある。」
仁美のその言葉を聞いた時、流川はそっと目を伏せた。
そしてしばらくそのまま言葉は出なかった。
仁美も流川の言葉を待って、沈黙がしばらく続いた。

そして流川は意を決した様に大きく息を吸った。
「‥いや、電話でいい。そっち行って話聞いたら花火がトラウマになりそう。」
流川のその言葉を聞いて、我慢していた涙が溢れた。
仁美の鼻をすする音がスマホから漏れる。

「楓っ‥ごめんね。」
嗚咽と一緒に仁美の声が流川に届いた。
その言葉を聞いて流川はゆっくりと目を閉じる。
仁美の返事は予想出来ていた。
やっぱりと思っていても、胸が苦しいのは変わらない。