延長戦の末にホイッスルが鳴った瞬間、やっと息が出来るような感覚になった。
仙道が負ける試合は何度か見た事はある。
それはマネージャーとしてで、個人的に声をかける事は出来なかった。

魚住ほどではないが、少し肩を落としているように見えた。
仁美はどうしようかと思ったが、待っていると仙道にLINEを送る。
送った後はドキドキした。
会いたくないと言われたら、少しへこみそうだ。
負けはしたけどこの試合を見た感動を仙道にどうしても伝えたかった。

LINEはすぐ来て、仁美はまた駅のスタバで待つことになった。
1時間ほどで、仙道が店に入ってくるのが見えた。
先ほどより肩は落としていない様に見えた。
仁美は席を立ち、仙道の元に行った。

仙道は笑顔で仁美を迎えると、その手を取って外に出る。
今日の勝利で海南は確実にインターハイへの切符を手にした事になる。
明日は最後の1枠をかけて、湘北と陵南が試合する。
仙道に少し海を見ようと言われて2人は電車に乗った。

電車の中で仙道は外の景色を見ながら何かしゃべろうとはしなかった。
それでも隣に座っている仁美の手をしっかり握っていたので、仁美はその沈黙が嫌ではなかった。
同じように、同じ景色を眺めていた。

仙道の家の近く海に着くと、浜辺があり2人はそこを歩いていた。
まだ海水浴のシーズンでは無かったが、サーファーが何人か海に入っていた。
それを見ながら歩いていた。

「…先輩」
「ん？」
仁美の声に仙道は振り向く。
「明日絶対勝って下さい。」
仁美はにっこり笑いそういった。