ボールをわざとバックから出して感触を確かめながら流川は歩いて駅まで向かう。
ホームに入ると辺りを見渡した。
仁美が居ないか確認したのだ。
仁美の姿が見えないのを確認して、流川は少し残念そうにホームに並んだ。

目的の電車に乗ると、流川はいつものドアの横に立って窓の外を見ていた。
結局大会が始まってから仁美と話したのはあの屋上だけだ。
会場で見かけてもいつも遠くで手を伸ばしても届かない距離だ。

それでも翔陽戦で決勝を決めた時は、仁美は今までに無いくらい喜んでくれていた。
二階席にいる仁美を見た時、真っ直ぐこちらを見て喜んで泣いていた仁美がとても愛おしくて、どうしても触れたくて流川は走り出したい気持ちを抑えるのに必死だった。

目を瞑りながら、その時の光景を思い出す。
今日また、王者と呼ばれる高校を倒して、仁美にあの笑顔をさせたい。
そう決意しながらゆっくりと目を開ける。

試合会場に着くと、決勝リーグだけあってギャラリーの人数が凄かった。
人混みの中から仁美を探す。
普段は探すのに苦労しない仁美が、今日はどうしても見つからなかった。

その理由はすぐに分かった。
湘北チームと合流して、この会場では海南と湘北、別の会場で陵南と武里が試合をしているのを知った。
仁美は陵南の応援に行っているのだろう。
流川は大きくため息を吐く。

ー絶対今日勝ってやる。