「仕方ないでしょ！楓ってば大きくなって男の子みたいなんだから！」
そう言って仁美は流川の手を払って、屋台に飲み物を買いに行った。
（なんだそれ、初めから男だろ）

今までは何て思われていたのか、不満の眼差しで仁美が買い物をしているのを見ていた。
戻って来た仁美はやっぱり顔がまだ赤く、流川と目を合わせようとしない。

流川は今度は当たり前の様に仁美の手を握って、そのまま歩き出した。
今度は仁美は何も言わなかった。

きっと仁美は学校でモテるだろう。
告白もされたかもしれない。
そう考えたら、神奈川と東京の距離はすごく遠かった。
子供の自分ではどうにも出来ない距離だ。

それでも、仁美との今までの時間は、仁美にとっても特別だったと思いたい。
神奈川でバスケをしている時でも、流川は仁美を思い出す。
寝る前に、2人でバスケをした思い出を思いながら眠りにつく。

仁美が毎日自分とは知らない人と過ごしていても、同じ様にバスケを見れば、自分を思い出してくれる。
仁美の中で自分以上の存在がいないで欲しいと、流川は繋いだ手に力を入れながらそう願った。