そのまま荷物を持って学校裏の焼却炉に向かう。
この荷物を捨てれば終わりだ。
荷物を置いて戻る時に校庭にある体育倉庫の前に立っている長髪の男が目に入った。

何処かで見た事があると仁美はその男を目に止めた。
その男はつい昨日宮城を囲んでいた3年生の1人だった。
気が付いたらすぐ目を逸らし、その場を離れようとした。

しかし、その男が立って見ている物が分かると仁美の足が止まった。
その男は体育の授業で使う、外用のバスケットボールだった。
その人は瞬きする事なく、そのボールを見ていた。

その表情に仁美は目を奪われた。
同じ目で、自分も昔よくバスケットボールを見ていた。
怪我でバスケが出来なくなり、しばらくボールを触る事も出来なく、ただボールを見つめていた日々があった。

仁美はその男と、当時の自分が被った。
ーあの人バスケしたいかな。
そう思いながら、仁美は焼却炉を後にした。

その男があの事件を起こすとは、その時は想像つかなかった。
彼が不良仲間を学校内に入れた事は、目撃した生徒によってすぐ生徒会に報告が来た。