学園祭ー。
その言葉で当時の思い出が蘇る。
あの時は中学で初めてムキになって仙道の気持ちに応えようとした。
後にも先にも中学時代に自分の気持ちを出したのはあの時だけだった。

「‥よく覚えてますね‥。」
仁美は両手で顔を覆いながら言った。
思い出しただけでも恥ずかしくなる。
「忘れた事なんて無いよ。」
仙道はそう言うと、仁美の手を取って顔を覗き込む。

ニッコリ笑った仙道に、それだけで仁美は昇天しそうだ。
「さぁ、行こうか。」
そう言うと仙道はそのまま仁美の手を握り立ち上がった。
その仙道の行動を見ながら、やっと会えた喜びを噛み締める。

「‥先輩。」
「うん？」
「今日は本当に練習ない日ですよね、サボってないですよね。」
一瞬ビクッとなったが、仙道はすぐに大丈夫と言った。
怪しいと思ったが、サボりなら誰からか連絡がくるだろう。

何かマネージャー時代みたいだね、苦笑いしながら仙道は言う。
仁美はバスケをやる仙道の一ファンでもある。
仙道が常にバスケに集中出来る様にするのは当たり前の感情だった。

こうして歩いて話をしていると、空白だった時間があった事が嘘の様に2人の時間を埋めてくれる。
卒業式のあの日、1年かけて先輩と後輩にしかなれなかったと思っていたが、思い出はちゃんとあった。
無駄な時間なんて無かったと、思い直せた事が仁美は嬉しかった。