私は家に入り、リビングのソファーに腰掛けると、すぐにスマホを出した。
そして交換したばかりの先輩の電話番号を押す。
『はい。』
ワンコールですぐに先輩は出た。

「‥今家に着きました‥。」
『おかえり。』
先輩は優しい声でそう言ってくれた。
きっと聞きたいことは沢山あるだろう、だけど先輩は何も聞かないでいてくれた。

来週のデートのプランを教えてくれる。
先輩とそんな話が出来るなんて嬉しくて、私は笑顔で先輩の話を聞く。
私は楓の手を払い、先輩とこれから過ごしていく。

もう涙は出なかった。
ただ、楓が今まで満たしてくれた心の隙間はずっと空いたままだろう。

「‥先輩、早く会いたいです。」
『‥俺も』
それでも先輩に会いたく、先輩の言葉に胸が熱くなるのは先輩がどうしようもなく好きだから。
今はその気持ちを大切に先輩と育んでいこう。

今日から私と楓は思い出に蓋をしながら生きていく。
それでもいつか願ってしまう。
あの漆黒の髪と目の男の子がまた私に笑いかけてくれるのを。