「先輩‥私、楓と話しなきゃ。」
不安そうな顔で言った私の頭を先輩が撫でてくれた。
「‥送らせて。」
一緒に行くとは言わない先輩の優しさに、私は嬉しくなった。

ー上條のその顔を見て、自分の選択が正しかったと納得する様に自分に言い聞かせる。
俺は上條の手を握り一緒に階段を上がった。

本当は焦っていた。
あの頃も、流川が上條を好きだとは分かっていたが、そんな雰囲気では無かった。
一度見かけた花火大会の2人を思い出す。
その時の上條の顔は、今の俺に向けているような顔だった。

その2人が目の前に現れた。
流川ははっきりと上條に好意と、上條は流川のそれを受け止めていた。
このまま流川に渡したら、もうこっちに来ないのではないかそんな不安がよぎる。

俺は手を繋いで電車を待っている上條を見た。
上條は俺に気が付いて、また微笑んでくれる。
胸が締め付けられて、不安と止まらない衝動で、俺は上條にキスをした。

上條の身体が一瞬強張ったが、受け入れてくれた。
その瞬間全てが愛おしくて、このまま連れ去りたい衝動に侵される。
必死で我慢する様に、俺は上條を抱きしめた。