「だからって傷付けていい理由なんてないと思ってます。ごめんなさい。」
私は奈美に頭を下げた。
しばらく沈黙が続いた。

やっぱり奈美が好きだとは言えない。
もし友達に戻れるなら、それだけで十分幸せだ。
それ以上は何も望まない。

「‥山道君も真帆が好きだったの？」
私は奈美のその言葉に顔を上げた。
「山道が好きなのは今もあの子だと思う。」
私がそう言うと、奈美は顔を覆った。

奈美は頭のいい子だ。
恋愛で馬鹿になったりしない。
本当は山道が気持ちがない事を、奈美はよく分かっていた。
「いっそ山道君が好きなのが真帆なら良かった。」
そう言って奈美は私にしがみ付いてきた。

奈美が言った言葉がよく分かる。
私も山道が奈美を好きになってくれたなら、それで良かった。
なのに山道はあの子をずっと好きなままだった。

悔しいよ。
あの子がどんな子か知らない。
今山道の側には、奈美も私も居るのに、山道の心は結局あの子から離せなかった。

2人で抱き合って泣いた。
まるで2人で山道に振られた様に。
その後は奈美がうちに来てくれて、これまでの事を話してくれた。

山道と付き合っていて、寂しい思いもしたが、それでも付き合えてよかったと言った。
山道は奈美の気持ちには応えなかったが、とても優しく接してくれて、いい夢を見ていた様だと奈美は言った。