奈美からは仙道と中々進展しない愚痴が増えてくるようになった。
仙道は奈美にも周りの女子にも同じ扱いをする。
その理由を知っているのは自分だけだ。
そして奈美を慰めながら、奈美がもう少し、少しでも仙道に留まるように祈る。

入学の緊張感が薄れてきたのか、仙道は部活に来なかったり、一人でふらっと居なくなる時があった。
教室の移動中に、教室に向かわずにボーとしている仙道を見かけた。
無防備のように見えて、決して人を寄せ付けないその空間は、仙道の心のように思えた。

仙道は目の前の景色を見ているのだろうか。
それとも今仙道に見えているのは浴衣姿の彼女なのだろうか。
間抜けな顔をして欠伸をしたので、そんな大層なものじゃないかもしれない。
仙道は私に気が付き、笑顔で手を上げる。

やっぱりそんなに深刻な話ではないのかもしれない。
私の嫌いなへらへらした顔だったので、そのまま背を向けた。
仙道はずっとバスケをしていればいいのに、そしたらいい男だ。
奈美も厄介な男に惹かれたものだ。

「奈美ちゃんが最近鬼気迫ってる。」
ぼそりと仙道が言った。
うん、確かに余裕無くなってはきてる。
全部仙道のせいだが。
「もう好きな人が居ますって言っちゃたら？」
「…別に好きじゃないし。」

買ってきた紙パックのジュースを飲みながら、仙道は頭を抱えていた。
好きじゃない人の写メをずっと持っているかね。
たまに写メを見ているのを私は知っている。
「仙道って意外に受け身なんだね。」

からかう様に言ってみたが、仙道は答える事が出来ないほど悩んでいる様だった。
奈美みたいな可愛い子言い寄られて何がそんなに不満なのか分からない。