「仁美ちゃんにだけだろう。愛されてるね〜」
そう言われて、私は赤面した。
「愛されてる！？」
焦ってオウム返しをしてしまう。
「分かってる癖に。」
そんな私に水戸君は悪戯っぽく言った。

ー分かってるから。
恥ずかしさに耐えられなくなり、私は顔を覆った。
「うわっすっげぇ睨まれてる。」
私をからかって遊んでいた水戸君が焦って言った。
見ると楓が凄い顔でこちらを睨んでいた。

怖い怖いと、水戸君は少し私から離れた。
それから私はずっと楓から目を離さなかった。
しばらくして部活が終わり、着替えるから玄関で待っていてと楓に言われた。

楓を待っている間、2年の先輩が先に帰って行った。
私も軽く挨拶をして、これこら話さないといけない事を頭の中で整理する。
先輩の事を楓に話そう。‥聞いて欲しい。
今まで通りは無理でも仕方ない、それでも楓のプレーを見る事は許して欲しい。

他の1年と一緒に楓が出てきた。
石井君達に挨拶して、楓と一緒に自転車置き場に向かう。
私は自転車に脚をかけて、いつもの様に楓は自転車を走り出した。

正門あたりで桜木君と水戸君を追い抜いた。
私は2人に挨拶するが、楓はしない。いつもの光景だ。
今日はいつも通り過ぎて、これから楓と話す事が余計怖くなった。