振り返った楓の顔を見て私は言葉を呑んだ。
たくさん傷付けた自覚はあった。
そんな楓の顔を見るのが怖かった。
だけど振り返って私を見た楓はとても穏やかな顔をしていた。

楓はそれ以上何も言わないで、体育館の中に戻っていった。
私は高鳴る胸がおさまるまで、しばらくその背中を見送った。

「おっお帰りー。」
戻って来た私に、水戸君はからかうように笑った。
どうやら私を追いかけて行った楓を見た様だ。
私は赤面して、そのからかいに耐えるしかなかった。

部活に戻った楓はすでにプレイに集中していた。
楓のプレイを見るのは久しぶりだ。
ボールがこちらに転がってきて、楓が私に気が付いた。
戻った私を見て、楓は満足そうに笑った。

そのいつもの楓の笑顔に、私は泣きそうになるのを耐えた。
隣に水戸君が居なかったら確実に泣いていただろう。

「っ驚いた。あの能面キツネがあんな顔するんだ。」
隣に居た水戸君も楓の貴重な笑顔を見たのだろう、凄く驚いていた。
けど、言い方。
「楓だって普通に笑ったり、たくさん話したりするから」

少しムッとしてしまい、強めに反撃してしまった。
まぁ、貴重ではあるが。
ムキになる私を見て、ニヤニヤしながら水戸君は言った。