陵南高校の文化祭があると知り、私は1人で行った。
声をかけるつもりは無かった、一目だけでも先輩を見たかったから。
なので出来るだけ目立たないように賑やかな校舎を探していた。

とりあえず、パンフレットの1年生の教室に向かった。
ドキドキしながら辺りを見回し、先輩を探した。

先輩はすぐ見つかった。
同級生達と廊下を歩いていた。
久しぶりに見た先輩に、胸が高鳴った。
先輩は更に身長が伸びていて、大人っぽくなっている。

胸がいっぱいになり帰ろうとしたその時、1人の女生徒が先輩の腕に絡みついていった。
胸が締め付けられるのに目が離せない。
先輩はその人を確認すると、とても優しい笑顔でその人の頭を撫でていた。
それを嬉しそうに見返す彼女を見て、先輩達が付き合っているとすぐ分かった。

私は先輩達に背中を向け、元来た道を走って戻った。
正門まで一目散な走ると、やっと足を止めた。
そして先程の光景を鮮明に思い返す。
頭が理解に追いつき、私は涙が出た。

先輩はとっくに彼女が出来ていて、自分だけが未練のある現実に苦しかった。
私は先輩に何もしなかった。
この現実は当たり前の結果なのに、どうして胸がこんなにも痛いのだろう。
どうしてこんなに辛いのに、先輩への気持ちは無くなってくれないのだろう。

その日から先輩を忘れようとするたびに、その光景を思い出す作業を毎日していた。
なのに胸が痛くなるだけで、先輩への気持ちは何も変わっていなかったのだ。