「‥インターハイは一緒に行きたい。」
楓に言われて、私の心は揺らいだ。
「‥もちろん応援には行くよ。」
楓の顔を見ないで答えた。
楓は納得していなさそうだ。

楓は私の手を取り、自分の方に私を引いた。
「ずっと、その為にバスケをやってきた。今さらあの約束を無かった事にするの？」
昔お父さんのインターハイのビデオを見ながら、楓と高校生になったら一緒にこの舞台へ行こうと約束していた。

今まで、楓の私への気持ちは気が付かないふりをしていた。
先延ばしにしていた夢が現実に追いつき、私と楓は１つの答えを出す時になっていた。

楓は優しい。
それはきっと私にだけだ。
楓のこの優しさも、笑顔も、不機嫌な顔も全部知っているのは私だけだ。
楓に応える事が出来なくて、その気持ちに気が付かない振りをして、楓を約束に拘束させていた。

決断する時が来たのだ。
楓の気持ちに応えるか、楓の拘束を解いてあげるか。

目を閉じて、楓との今までの思い出を思い浮かべる。
どんな場面でもずっと一緒にいてくれた。
小さい頃からバスケが出来なくなった時までの楓の笑顔が駆け巡る。

ー来年は絶対全国に連れて行くから。

「‼︎」

急に思い出された先輩の言葉が頭の中で響き渡った。
瞬間楓の手を払った。

びっくりした楓の顔を見ながら、頭の中を駆け巡っているのは、先輩の笑顔だけだった。
自分のその気持ちを知った瞬間、私はその場で泣き崩れた。