先輩はびっくりした様にこっみを見たと思う。
だけど恥ずかしすぎて先輩の方を見る余裕なんて無かった。
私はうちわで顔を隠しながら、俯いていた。
それでも応えたくて、手の力だけは緩めなかった。

先輩も分かってくれたのか、私の手を更に優しく握り返してくれた。

ー涙が出るかと思った。
幸せで、恥ずかしくて‥切なくて。
来年の今頃はきっとこうして一瞬に居られる事は無い。
そう分かっていたから、距離を置こうとしていたのに、どうして今だけと分かりながらこの手はこんなにも優しいのだろう。

泣きたくなるのを堪えて、空を見上げた。
打上げ花火がとても綺麗で、この時間がこのまま止まればよいと切に願った。
この光景を一生忘れないと心に誓った。

派手な連続花火が打ち上がった。
その瞬間盛り上がり、周りの歓声と共に隣に居たマネージャーに声を掛けられた。
びっくりして、思わず先輩の手を離してしまった。

すぐに後悔したが、振り払う様に離してしまった為、どうすればよいか分からず何も出来なかった。
先輩に申し訳ないと思って、チラッと先輩を見たが、先輩も隣の部員と話していて、気にしていない様だった。

先輩はもう、私を見なかった。
手が離れてしまって、悲しく思っていたのは自分だけと気が付いた。
やっぱり気まぐれだったのかもしれない。

花火が終わり会場から出るまで、また先輩達の後ろを着いて行った。
もう先輩と顔を合わせる事は無かった。
先輩の背中を見ながら、それでもさっきの花火の光景を思い出し、例え気まぐれであっても私は十分幸せな時間だった。