しかし決勝で、私は信じられない光景を見た。
今までチームは負けても、山道先輩がマンツーマンで押さえ込まれる光景は見た事がなかった。

先輩を抑えたのは沢北栄治さん。
相手のメンバー表を見たら、先輩と同じ3年だった。
先輩もそうだが、沢北さんのプレイは中学レベルを遥かに上回っていた。
高校のインターハイの選手と言ってもおかしくなかった。

結果、沢北さんに押さえ込まれて、チームも負けてしまった。
それでも学校からしたら歴代最高の記録だった。

試合が終わり、片付けをしていると先程の沢北さんに話しかけられた。
LINEを聞かれて、スマホを持ってないと話していたら、山道先輩がすぐに来て彼氏らしき動作をして沢北さんを追い払っていた。

試合などで他校の人に声をかけられたら、先輩は必ず来てくれた。
今も先輩は自分のジャージを着せて、そのまま着ていてと言う。
大きいジャージは明らかに男物と分かるので、声をかけられる事は無くなる。

ジャージから先輩の匂いがすると、先輩に抱きしめられている様で、凄くドキドキした。
悟られない様に、感情を顔に出さない様にするのに随分慣れたと思う。

先輩は優しい。
皆んなに。
たまにその優しさを独占したくなる。
結局先輩が近くにいるかぎり、この気持ちが無くなる事は無い。