06. 第一の課題
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最初のホイッスルが鳴り、それからはあっという間だった。
ドラゴンとの対決はどの代表選手も手に汗握るものだったが、特にハリーがファイアボルトに跨がり、ハンガリー・ホーンテールと格闘する様は、終始迫力満点で結果を知っている身でもハラハラした。
その日の晩、談話室に仲直りしたロンとハーマイオニーと一緒に英雄が入ってきた途端、歓声と叫び声が爆発した。
厨房から双子と共にくすねて来た、大瓶入りのかぼちゃジュースやバタービール、山のようなケーキなど大量の食べ物がどこもかしこもびっしりと並び、リーが“ドクター・フィリバスターのヒヤヒヤ花火”を破裂させると辺り一面に星や火花が散った。端でディーン・トーマスが、新しい旗を何枚か作っていたが、完成して掲げられた物のほとんどが、ファイアボルトでホーンテールの頭上をブンブン飛び回るハリーを描いたもので、内の二、三枚だけ、頭に火のついたセドリックの絵があった。
クリービー兄弟は凝りもせずに“セドリックを応援しよう”バッジを魔法で“ハリー・ポッターを応援しよう”に変えようとしていた。数日前からその魔法を試みている様子だったが、未だ“汚いぞ、ポッター”で文字の動きを止めるのが精一杯のようだ。
あの日以来“このバッジは突然蜘蛛へと変わる不良品だ”という噂が広まったのか、つけている生徒を見かけなくなった。
「開けてみろよハリー、さあ!中に何があるか見ようぜ!」
金の卵を持ち上げ、手で重みを計りながらリーが言った言葉に「そうだそうだ」と何人かが同調した。
リーから卵を渡されたハリーは卵の頂点に付いている留め金に手をかけたため、ユリカは急いで耳を塞いだ。
ハリーが開けた途端、世にも恐ろしい、大きなキーキー声の咽び泣きのような声が部屋中に響き渡る。
「黙らせろ!」
フレッドが両手で耳を覆って叫んだ。
「今のは何だ?」
ハリーがバチンと閉めた卵をまじまじと見つめながら、シェーマス・フィネガンが言った。
それを皮切りに皆が口々に意見を述べ始める。
「バンシー妖怪の声みたいだったな……もしかしたら、次にやっつけなきゃいけないのはそれだぞ、ハリー!」
「誰かが拷問を受けてた!」
ネビルはソーセージ・ロールをバラバラと床に落として、真っ青になっている。
「君は“磔の呪文”と戦わなくちゃならないんだ!」
「馬鹿言うなよ、ネビル。あれは違法だぜ」
ジョージがネビルの肩をポンポンと叩きながら言った。
「代表選手に“磔の呪文”をかけたりするもんか。俺が思うに、ありゃパーシーの歌声にちょっと似てたな……もしかしたら、奴がシャワーを浴びてる時に襲わないといけないのかもしれないぜ、ハリー」
神妙な顔でそう言うジョージにユリカは思わず、口に含んだばかりのかぼちゃジュースを噴き出してしまった。
「おい!大丈夫かよ」
『っ、ごめん…想像したら面白くてつい…ンっ!』
「ユリカはパーシーのこと知ってるの?」
『う、うん…会ったことはないけど、フレッドとジョージの話に良く出てくるから────』
頭の中にシャワーを浴びながら歌うパーシーが鮮明に現れているユリカは、それを頭の片隅に慌てて追いやって、ハリーの問いかけに一瞬焦りながらも事実を述べた。
「ほらよ、これで拭きな」
『ん?……ぷっ…あはははっ!誰の!?自分のハンカチだけで足りるからっ、良いよ!』
突然消えたと思ったジョージが再び現れ、何かと思えば笑顔で持ち主不明のシャツを差し出して来る、目の前の光景にユリカは涙を拭いながら笑い転げる。
「ユリカって────」
「フレッシュだろ?反応良いから弄り甲斐があるんだよな、これが」
『おい、聞こえてるよ!』
「そんなに怒るなよ。採れたて新鮮は良いことだぜ、フレッシュガール」
『ハリー、鬱憤が溜まったらファイアボルトで黒い湖の上まで行ってジョージを落としていいよ』
「参ったぜ。こりゃ、ハリーの腹の虫にでも気に入られるしかないな」
そう真顔で言うと、ジョージはハリーにマフィンやチキンなど食べ物を掻き集めて押し付け始めた。
『そういえば、前にムーディ先生に呼び出されたって聞いたけど、どうしたの?』
同じく双子の片割れであるフレッドに先程までからかわれていたネビルにユリカは尋ねた。
「ん?ああ、授業の後、僕が調子悪そうにしてたからムーディ先生がお茶に誘ってくれたんだ。その時この本もくれたんだよ!」
ネビルは隣に置いていた“地中海の水生魔法植物とその特性”と書かれた本を見せて言った。
「スプラウト先生が僕は“薬草学”がとっても良く出来るって言ったらしいんだ。ムーディ先生は僕がきっとこの本を気に入るだろうって思ったんだよ」
『そうなんだ、すごいね!意外と辛口なスプラウト先生がそこまで言うんだから、将来は薬草学教授のロングボトム先生だね』
「……そっ、そこまでではないよっ!」
ユリカはネビルに微笑んだ。
褒められたのがよっぽど嬉しかったのだろう、ネビルはパァーという効果音と共に周囲に花が咲く幻覚が見えるくらい満面の笑みを見せた後、慌てて否定した。
「きっ、君もどう?」
『ありがとう』
ネビルに差し出されたビスケットを礼を言って手に取り、一口食べる。するとユリカは、たちまちカナリアに変身してしまった。
「わあっ!ユリカ、ごめん!」
「引っかかったー!良くやった、ネビル!」
「唯一、勝者予想を的中させたユリカでもこれは予想外だっただろ?」
皆がゲラゲラ笑う中、フレッドとジョージが叫んだ。
「おいおい、鳥になってもお転婆なお嬢ちゃんだな」
黄色い鳥はソファーからフレッドの頭へと飛び移り、ピーピー鳴きながら頭をつつき始めた。
『うわぁっ!』
「……っと」
フレッドの頭の上で鳴いていたカナリアは一分も経たないうちに羽が抜け始め、全部抜け落ちるといつもの姿のユリカが再び現れた。それをフレッドは軽々とお姫様抱っこで抱き留める。
「カナリア・クリーム!」
悪びれもなく生徒達に宣伝を始めた双子に頬を膨らませるも、こんな時間が一生続けば良いのにと思いながらユリカは皆と一緒に笑った。