05. 炎のゴブレット
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すっかり夜が明け、三人が急いで階段を下りてやって来ると玄関ホールは歓声に包まれた。
「いよーし!」
「やったぜ!」
フレッドとジョージは興奮気味に出来立ての“老け薬”をホールにいる生徒達に見せびらかして回る。特にグリフィンドール生からは大きな拍手と歓声が上がった。
「これ見ろよ」
「今朝完成したばっかり」
「そんなの効きっこなーい」
勝ち誇ったように言うフレッドとジョージに、ユリカの背後にいたハーマイオニーが呟いた。
「そうか?」
「どうしてだよ、グレンジャー」
「これ、見える?年齢線よ。ダンブルドアが自ら引いたの」
「だから?」
ハーマイオニーは呆れ顔で警告するように双子に言い聞かせる。
「だから!あれほどの人がかけた魔法を、そんなに簡単に誤魔化せると思う?“老け薬”なんかで」
この年齢線を越えるのに“特殊な力”は適応するだろうか。
何せ、ダンブルドアのお墨付きだ。二人には悪いが髭を生やさず、無事にエントリー出来るのではないかという根拠のない自信がユリカには少しあった。
「では、紹介いたしましょう。我らが姫、ユリカ!」
ハーマイオニーの忠告を聞き流した双子は、二人の横に突っ立っていたユリカを観衆の輪の中心に引っ張り出した。
「用意はいいか?」
「「『乾杯!!!』」」
三方の右腕を交差させ、試験管の中身に口をつける。両隣の二人は中身を飲み干した様子だが、ユリカは少し舐める程度に留めた。
ホールの全ての目が見守る中、三人は同時にジャンプして線の中に足を踏み入れた。
「「『いえーい!!!』」」
周囲が再び歓声に沸く。
三人はハイタッチをした後、一斉に名前と所属学校の書かれた羊皮紙をゴブレットに投げ込んだ。
上手く行ったと思った次の瞬間、ジュッっという大きな音と共にフレッドとジョージ、そしてユリカは、金色の円の外に放り出され、数メートル先の冷たい床に叩き付けられた。
ポンという大きな音と共に玄関ホールが大爆笑に沸く。そんな周囲の反応にユリカは冷や汗をかく手で自分の顎に触れたが、髭は生えて来なかった。
しかし、起き上がろうと身体を起こした瞬間ブチッという嫌な音が背中から聞こえた。
フレッドとジョージは、立ち上がって全く同じ互いの白く長い顎髭を見た途端、笑い出した。
ずっと突っ伏している訳にも行かないため、ユリカも立ち上がると、感じていた一部の生徒達からの視線の理由を理解し、慌てて双子の後ろに隠れた。
「忠告したはずじゃ」
深みのある声がして、皆が振り向くと、大広間からちょうどダンブルドアが出てくる所だった。
ユリカは今がチャンスと言わんばかりに近くにいたリーに声をかけた。
「三人共、マダム・ポンフリーのところへ行くがよい。既にレイブンクローのMs. フォーセット、ハッフルパフのMr. サマーズもお世話になっておる。二人とも少しばかり歳を取る決心をしたのでな。もっとも、あの二人の髭は君達ほど見事ではないがの」
目をキラキラさせてフレッドとジョージを観賞しながら、ダンブルドアが面白がっているような調子で言った。
双子を見てゲラゲラ笑うリーに付き添われて髭面のフレッドとジョージ、普段よりもだいぶ大人びた姿のユリカは医務室に向かった。
『近くにリーがいてくれて助かったよ』
リーから借りたローブを羽織り直してユリカは言った。
きっとダンブルドアも時間を稼いでくれたのだろう。
「まあ、あの一瞬でリーには敵が増えたけどな」
「確かに、今思うと奴らに睨まれてたな」
『来る日のために喧嘩用の呪文覚えておくよ。恩人の日常は私が必ず守ってみせる!』
「その覚悟を聞いて安心したよ……この美形な顔は大事にしてるんだ」
「姫と呼ぶべきはリーの方だったかもな」
『いつ何時でもお呼び下さいませ、姫?』
手を前に出してリーに紳士的にお辞儀してみせるユリカにフレッドとジョージ、リーは笑った。
「それにしても、一緒に医務室に来て良かったのか?男子生徒諸君を骨抜きにして、“服従の呪文”なんざ使わずに奴らを侍らす学校生活を送ることが出来ただろうに」
自身の白髭を撫でながら「もったいない」とフレッドは、五十センチほど伸びた手入れされた黒髪を歩きながら耳にかける最中のユリカを見て言った。
普段と比べて背も数センチ高く、数十年ほど大人びた姿は、胸の膨らみのせいで深呼吸でもしたものなら、セーターとシャツのボタンが弾け飛びそうだ。
『フレッドくん、君は自分の立場に立って考えたのかな?』
ユリカはフレッドのズボンを杖で示して言った。
『さあ御三方、想像してご覧なさい。フレッドを英雄として奉る男子生徒達、嫌悪の目で見る女性陣……そして、声をかけた途端に罵声を浴びせるアンジェリーナ────』
「ぶっ!」
堪えきれずにリーは吹き出した。それに続いてジョージ、フレッドもゲラゲラと笑い出す。
「あはははっ、凄い顔してるアンジェリーナ…!安易に想像出来る!」
「フレッド、次はダンブルドアにその呪文にして貰えるように抗議するべきだな!」
「違いない!」
フレッドは笑いながらもユリカの前に歩み出て、グリフィンドールのローブを羽織るレディの姿を隠すような陣形を作って医務室への歩を進めた。
『将来、気を付けよう…』
ユリカは、お尻の肉をつまみながら自分に言い聞かせるようにそう呟いた。