04. 時間割
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ドラコ・マルフォイの一件が済んだというのに、目の前のマッド・アイは今もなお居座り続けて脅しの言葉を吐いている。
コンッコンッコンッ
研究室の扉を控えめにノックする音がした。
「入れ」と言う言葉に扉が開くと、黒髪のグリフィンドールの制服を着た少女が姿を現した。
少女は目に飛び込んできた光景に一瞬だけ目を見開く。
『あ、あの、罰則で来ました。その…お邪魔でしたら退散します……』
「それは無用だ。既に話は済んだ」
「初日から生徒に罰則を与えて楽しんでいるようだな、スネイプ。ダンブルドアを信じさせることが出来ても、わしは騙されんぞ」
強く言い返したい気持ちを抑えて、予期せぬ邪魔が入って緩んだ、胸ぐらを掴んでいた手を跳ね除ける。
ムーディはユリカを一瞥した後、スネイプに「見張っているぞ」と吐き捨てて出て行った。
『あ、あの…何をすれ、ば良いでしょうか?』
呆然と突っ立っていたユリカは我に返って口を開いた。
不機嫌オーラだだ漏れのスネイプは吃りながら話すユリカに舌打ちをした。
「そこの大鍋を洗え」
とんだ来訪者のせいで手付かずとなっていた机の上の書類を整理しながらスネイプは大鍋の山を顎でしゃくる。
それにユリカは「分かりました」と一言呟き、嫌な顔一つせずに腕まくりをして大鍋の山に向き合った。
ユリカはいくつも重なる大鍋の山から二つの鍋を取り、一方の鍋に杖を構えた。
しかし、すぐハッとして杖をポケットに閉まい、たわしを手にして一つずつ大鍋をゴシゴシ擦るという仕事に取り掛かった。
暫く経つと、シャカシャカという一定のリズムを刻んでいた音が止んでいることに気付き、スネイプは怠けているのではと、静かなユリカの方に目をやった。だが、その期待も虚しくユリカはこびり付いた汚れを取ろうと必死に鍋の底を擦っている最中だった。
呪文も使わずに素手で。
その様子に、昼間の授業での出来事が頭を過ぎる。
────『グリフィンドール生の皆がスリザリンを嫌っている訳ではないだろうし、私は好きだよ』
なぜ、あんなことを言えるのだ。疑う余地も与えぬほどに澄んだ瞳で。
あれは間違いなく本心のようだった。
今までただ一人を除き、心の底からの意思でスリザリンを庇う生徒を見たことがない。
他寮生からは嫌われていると認識している自分に、他の教員達と交流する様とは別人のように吃って焦りはするが嫌な顔一つ見せない。むしろ以前、楽しかったと…感謝された。
────『交流関係を構築するのに寮の間で壁を作るなんておかしな話だと思わない?』
あの時、不覚にも一瞬漆黒の瞳が緑の瞳と重なってしまった。
その彼女はもうこの世にはいない。
ダンブルドアは両親が亡くなり親族がいないと言っていたが、親は良くぞここまで世間知らずのお人好しに育て上げたものだ。
魔法薬学の出来も悪く、“スコージファイ”さえも知らない子供に諭されるなんてこと、あるはずがない。連日の三大魔法学校対抗試合の準備に加えて、新学期の準備に追われていたのも相まって相当疲れているようだ。
早く今日の分の仕事を片付けて休もうと、スネイプは机の上に広がる羊皮紙の採点に戻った。
仕事が一区切り付いたスネイプが顔を上げると時計の針は十時を遥かに過ぎていた。スネイプはユリカの存在を忘れるほど、集中していて時間に気付かなかった。不可解なくらいに。
「もう終わりにしろ」
『あ、はい!す、みません!も、もう少しで終わります』
「違う。もう寮に戻れ」
『じゃ、じゃあ…あ、あと二つ洗ってから……』
いつもペースを持って行かれると思いながらも、見事に全ての鍋を洗い終え、清々しい顔で一礼して出て行く姿を一瞥した。