04. 時間割
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医務室から無事帰還して昼食を摂った後、午後からの“闇の魔術に対する防衛術”の教室に向かった。
「さて、ムーディはどんな授業をするか」
「ぶっ飛んだ授業をしてしてくれることを祈るね」
後ろに座っているジョージの呟きにその隣の席のフレッドが呟いた。
ムーディはコツッコツッと音を立てて机に向かうや否や、教科書をしまうように生徒達に指示した。
「これは期待大だな」
背後でリーが双子に囁くのが聞こえる。
ムーディは出席簿を出し、傷痕だらけの歪んだ顔にかかる、たてがみのような長い灰色まだらの髪を振り払い、生徒の名前を読み上げ出した。普通の目は名簿を追って動いたが、“魔法の目”はぐるぐる回り、生徒が返事をする度に、その生徒をじっと見据えた。
出席簿の最後の生徒が返事をし終えると、原作とほぼ同じような大演説をムーディは語り出した。どうやら初回の授業内容は同じようだ。
「さて……魔法法律により最も厳しく罰せられる呪文は何か、知っている者はいるか?」
何人かの手が挙がる。
ユリカもアピールせねばと手を挙げた。
左右不揃いの足でぐいと立ち上がったムーディは最前列に座っていた生徒を指し、ガラス瓶から蜘蛛を一匹掴み出して、皆に見えるように「エンゴージオ!」と唱えた。
“拡大呪文”で膨れ上がった蜘蛛を前に隣に座っていたアンジェリーナを含め、女子達が身を引く。
「インペリオ!」
ムーディが杖を蜘蛛に向けてそう呟くと、蜘蛛は細い糸を垂らしながら、ムーディの手から飛び降りて空中ブランコのように前後に揺れ始めた。肢をピンと伸ばして宙返りしながら糸を切って机の上に着地したかと思うと、蜘蛛はくるくると円を描いて側転を始めた。ムーディが杖をぐいと上げると、蜘蛛は二本の後ろ肢で立ち上がり、どう見てもタップダンスとしか思えない動きを始めた。
芸達者な蜘蛛にムーディとユリカ以外、皆が笑った。
「面白いと思うか?わしがお前達に同じことをしたらをしたら喜ぶか?」
笑い声が一瞬にして消えた。
「完全な支配だ────わしはこいつを、思いのままに出来る。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさすことも、誰かの喉に飛び込ませることも……」
隣のアンジェリーナが思わず唾を飲んだのが聞こえた。
蜘蛛は丸くなって転がっている。
「“服従の呪文”と戦うことは出来る。これからそのやり方も教えて行こう。しかしこれには個人の持つ真の魔法が必要で、誰にでも出来る訳ではない。できれば呪文をかけられぬようにする方がよい。油断大敵!」
ムーディの大声に、皆が跳び上がった。
「他に呪文を知っている者は?」と尋ねるムーディにパラパラと中途半端に手が挙がる。
ユリカも高く手を挙げたが他の生徒が指名された。
「クルーシオ!」
ムーディが“磔の呪文”を唱えると、蜘蛛はたちまち肢を胴体に引き寄せるように内側に折り曲げてひっくり返り、わなわなと密攣し始めた。何の音も聞こえなかったが、ユリカには映画の時の蜘蛛の悲痛な叫び声が聞こえた。
ムーディは杖を蜘蛛から離さず、蜘蛛はますます激しく身をよじる。
生徒達は恐怖に満ちた目でその様子を見つめている。
ムーディは杖を離すと、「苦痛」と低い声で言った。
残る呪文はあと一つ。
「他の呪文を何か知っている者はいるか?」
皆は不安と恐怖の入り混じった顔をしている。手を挙げようとする者はもう誰もいなかった。
『アバダ ケダブラ。“死の呪い”です』
皆が一斉にユリカを見た。
不安げな表情をしている者がほとんどだ。
「ああ…。おまえは転入生のスズモリだな」
ひん曲がった口をさらに曲げて、ムーディは微笑んだ。魔法の目と合わせ、両方の目でスズモリを見据える。
「そうだ。最後にして最悪の呪文」
まるでこれから何が起こるのか知っているかのように逃げ惑う蜘蛛に向けてムーディは杖を振り上げた。
「アバダ ケダブラ!」
目も眩むような緑の閃光が走り、先程まで必死に逃げようとしていた蜘蛛は仰向けにひっくり返った。蜘蛛は何も外傷はないが、紛れもなく死んでいた。
あちこちで声にならない悲鳴が上がる。
「良くない。気持ちの良いものではない。反対呪文もなく、防ぎようがない────」
死の呪文は防ぎようがないのは分かっているが、何か対策を練らねばならない。
来年起きうる出来事のためにも…。
それにムーディの“気持ちの良いものではない”という発言。
心からの言葉なら父親を殺すだろうか。それほどまで抱いていた憎悪の念は大きなものだったということだろうか、などと考えながらユリカはムーディが“死の呪い”について話しているのを上の空で聞いていた。
「“アバダ ケダブラ”の呪いの裏には
、強力な魔力が必要だ。お前達がこぞって、わしに向けてこの呪文を唱えたところで、わしに鼻血すら出させることなど出来るものか。しかし、そんなことはどうでもよい。わしはお前達にそのやり方を教えに来ているわけではない」
そう言うと、ムーディはマントから携帯用酒瓶を取り出して飲んだ。
慌てて取り出したように見えたのは自分が結末を知っているからそう見えただけだろうか。
完璧な“闇の魔術に対する防衛術のムーディ先生”にユリカは“本物”か“偽物”かという二択の回答を出せずにいた。
「さて、反対呪文がないなら、なぜお前達に見せたりするのか?それはお前達が知っておかなければならないからだ────せいぜいそんなものと向き合うような目にあわぬようにするんだな。油断大敵!」
声が轟き、再び皆跳び上がった。
「この三つの呪文だが────これらは“許されざる呪文”と呼ばれる。同類である人に対して、このうちどれか一つの呪いをかけるだけで、アズカバンで終身刑を受けるに値する────お前達が立ち向かうのはそういうものなのだ。そういうものに対しての戦い方をわしはお前達に教えなければならない。備えも武装も必要だ。しかし、なによりもまず、常に、絶えず警戒することの訓練が必要だ。羽根ペンを出せ……これを書き取れ」
その後の授業は、“許されざる呪文”それぞれについてノートを取ることに終始した。
ベルが鳴ってムーディが授業の終わりを告げ、教室を出るとすぐに生徒達は口々に授業の出来事を語り出した。
「「超クールだぜ!」」
「間違いない!」
フレッド、ジョージ、リーは口をそろえてムーディを絶賛した。