03. 組分け帽子

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組分け前になんとか床を拭き終えたユリカは大理石の階段で下に小さな水溜まりを作って待機している一年生に加わった。
湖をボートで渡って来たと言うよりは、泳いで来たと言う方がしっくり来るほどびしょ濡れで、寒さと緊張とで皆震えていた。

『マクゴナガル先生が来るまでに間に合うか分からないけど、みんな順番に並んで』

ブルブルと震えている小さな一年生達を見て居られずユリカはローブの内ポケットから杖を取り出した。杖を振ると杖先から暖かい風が吹き出し、ずぶ濡れの一年生の服がみるみる乾いていく。
寒さに耐えかねた一年生達が乾かし終えたら列の後ろに行くように協力してくれたこともあり、夏の間嫌というほど使った呪文はスムーズに唱えられていった。
最後のハグリッドの厚手木綿のオーバーに包まれた一番小さい薄茶色の髪の子が感謝の言葉を述べたと同時にマクゴナガルがやって来た。

『ギリギリセーフ…!』
「僕、スズモリさんみたいになれるように頑張ります!」
『それは……嬉しいけど、止めた方が良いかも。それに、私もみんなと同じホグワーツ一年生だし』

目を輝かせて話すデニス・クリービーに、先程の騒動を思い出してユリカは苦笑いした。

嵐に波打つ底知れない湖に投げ込まれ、大イカにボートに押し戻され、仕舞いに“クリーニング屋”に出会ったのが相当嬉しかったのか、「将来はクリーニング屋になります!」と言わんばかりに興奮気味に見つめてくるデニスに「ホグワーツには凄い先生がたくさんいるよ」と話して大広間へと向かう列に続いた。


マクゴナガルを先頭に一列に並んだ一年生の長い列の後ろについて大広間に入ると、在校生たちから歓迎の拍手で迎えられた。
だが各々に内緒話とは言い難い声量で会話しているのが分かった。

────「ホグワーツに転入生だなんて…」
────「驚いたよ、ピーブズとのやりとり見たかい?」
────「どうりで見たことない顔だと思ったわ」

歩く度にふわりと揺れる艶のある黒髪、潤いのある澄んだ瞳、なんといったってホグワーツには珍しい東洋からの転入生とあって、皆メインの一年生を差し置いて釘付けになった。また、いくら小柄だと言っても小さな一年生達の中に一人交ざっている六年生はやはり目を引いた。


組分け帽子が歌い終わるとマクゴナガルが羊皮紙の太い巻紙を広げ始めた。

「名前を呼ばれたら“帽子”を被ってこの椅子にお座りなさい。“帽子”が寮の名を発表したら、それぞれの寮のテーブルにお着きなさい」

次々と新一年生達は名前を呼ばれて決まった寮のテーブルに向かって行く。

「ブランストーン、エレノア───ハッフルパフ」
「コールドウェル、オーエン───ハッフルパフ」
「クリービー、デニス───グリフィンドール」

デニス・クリービーはグリフィンドールに選ばれると同じ寮のテーブルにいる兄のもとへと駆けて行った。


一年生の組分けが全て終わり、いよいよユリカの番になった。

スズモリユリカ!」

マクゴナガルに名前を呼ばれると、大広間は静寂に包まれた。
ユリカは唾を飲み込み丸椅子に向かう。座る前に目が合ったダンブルドアはこちらに微笑みかけてくれた。

ユリカの頭に帽子が乗る。

「うーむ」

「退学!」と言われなかったことにまずは安堵しつつ、友達にはよくユリカはハッフルパフだと言われていたことを思い出した。無論、よくある組分け診断でもそうだ。
だがいつまで経っても組分け帽子は寮の名前を言わない。時間が止まったように長く感じる。

『あの、何で迷われてるんでしょうか…』
「ふむ、難しい。君には膨大な数の知識を吸収しようする覚悟が見える。それに努力家だ、物覚えも良い。君はホグワーツで多くの知識を得ることが出来るだろう…………ほう…いや、面白い。誰にでも手を差し伸べる献身的な人間でもある。それを決して主張しない謙虚さも持ち合わせておる」

組分け帽子は終始唸り声を上げながら話し続けた。

「おう、なんと。なるほど………それと大胆不敵ではないが、何かとても強い意志を持っているようだ────うーむ、難しい。非常に難しい……さて、どこに入れたものかな」

耳を疑った。まさか、鷲と穴熊、そして獅子とで決めかねているのではなかろうか。

四分の三で組分け帽子が悩むとは、余程この世界に馴染めていないと見た。
インターネット上の組分け帽子さん、私はハッフルパフだったのではないのか。
ドラコのように即決されるのは気が進まないが、ハッフルパフの温厚な雰囲気は大好きだ。今年はセドリックも活躍する。
「ハッフルパフ!」と組分け帽子が叫び、暖かい歓声のもと、ハッフルパフの席に着く。そんなイメージトレーニング通りに行くはずだったのに。

となるとスリザリンの素質は完全にないようだ。嬉しいような悲しいような複雑な心境だ。

「おや、スリザリンがいいのかね?」
『いいえ、お任せします。私の向いている寮に』
「うむ、本心は違うように見えるが………これは憧れかな?」
『そう、ですかね……でもないものねだりと適性は違う』

“自身にいかなる素質が備わっているか”ではなく、“何を重んじているか”が重要であることは分かっている。

「好きな寮は?」と聞かれたら断然スリザリンだ。
しかし、スリザリンに入るとスネイプ先生がもれなく寮監だ。寮監となると会う回数が増えて心底嬉しいのだが、吃りを正そうとしている真っ最中の自分にはとてもじゃないが心臓が持たない。

それに、これは“野心”ではない。
“絶対的な決意”なのだ。


「よろしい。それならば────グリフィンドール!」
『え…?』

組分け帽子は大広間全体に向かって叫び、グリフィンドールのテーブルから一段と歓声が上がった。

まさかグリフィンドールになるとは思っても見なかったユリカは目を見開く。

帽子はハッフルパフかレイブンクローかで悩んでいるに違いないと会話していた、常に礼儀正しく、知識を欲し勤勉な姿のみを知る教師陣からは驚きの声が上がった。
特に自身の寮だと期待していたフリットウィックは肩を落とした。

『マクゴナガル先生、お世話になります』

スプラウト先生に媚びたのになと思いながらユリカは帽子を脱ぎ、寮監に深々と一礼した。

グリフィンドール寮のテーブルに向かい、双子のどちらだか見分けがつかなかったが、片割れが開けてくれた隣の席に座った。

「こりゃまた随分と組分け帽子を困らせたみたいだな!」
「ようこそ、我がグリフィンドールへ!」
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