ルーン26
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『流石に高過ぎない?』
25万エクルなんて異常な値段だ。それに言い直したのが気になる。
他の商品はいくらで取引されているのだと辺りの商品を見渡すと、どれも高額な値札が付いていた。目の前にあるこの本は42万エクルもする。
今の所持額は6650エクルしかないのに。
「25万エクル出せるのか、出せないのか」
「10万でどうだ」
「25万」
「じゃあ15万」
「25万だ!禁じられた裏通路を使うのは命懸けなんだよ、それなりの価は払って貰わないと」
高値を請求する店主にピエールはなるべく安くして貰おうと値切る。
『ん?』
本を棚に戻してピエールの方に行こうとするローズの目の前を何かが一瞬横切った。
ローズが辺りを見回すと足元には箒が落ちていた。何かの拍子に落ちてしまったのだと、壁に立て掛けようとその箒に手を伸ばす。しかし、軽く触れた途端に箒は忙しく動き出し、ローズの前後左右クルクルと回って床を掃き始めた。
『ちょっと、なに?』
箒が動く度に埃が舞い、ローズは咽る。
「その箒は非売品。うちの物を誘惑しないでくれるかな、お嬢ちゃん?」
『私、箒は好きじゃないのでご心配なく』
埃を払いながらローズは言った。
店主が指を振ると箒はピクリとも動かなくなり、店の奥へと飛んで行った。
『ごうつくばりさん、せめて二人同じ値段にはならないの?』
「ごうつくばりの名前はアルシミー。覚えておけ」
アルシミーは“この顔を覚えておけ”とでも言うようにローズに顔を近づけ、不敵な笑みを向けてそう言った。
「ふむ、珍しい物を着けているな。そのチョーカーをくれたら5万エクルで二人通してやっても良い」
『これは────』
「それは駄目だ!」
ピエールはローズを庇うように前に出る。
「それに…さっきから古いバラの香りがする。お前の黒は上等のようだな」
「20万でどうだ?」
そんな大金持っていない。
この“ごうつくばり”な店主と交渉なんて、初めから不可能なことが目に見えているのに、先程からどうしてピエールはそんなに必死なのだろう。
ローズは目の前のピエールを見つめた。
「いいだろう、20万エクルで手を打つ。ただし出せるのならな」
「……今は手元にない…」
「アハハハ!アハハハハ!…それじゃあ話になんねぇよ。なめやがって。捻り殺すぞ、このガキ共」
急に大声で狂ったように笑い出したアルシミーに驚いていると、視界が真っ白になり気づいた時には、魔法で床に突き飛ばされていた。
「メテオール、そいつらを追い出せ」
その主人の言葉に先程の箒はせっせとピエールとローズを店の外に掃き出した。
「覚えてるんだろ?道は一つだ。他に方法はない」
バタン!
「大丈夫か?」
大きな音を立てて店の扉を閉められた後、ピエールは地面と向かい合っていたローズに手を差し伸べた。
ローズはその手を取って立ち上がり、自身の服を叩く。
『………』
「………」
通路は近くに二つ以上存在しない。
この辺りでは恐らくここ一つだけだ。
王国に戻れば通路はあるだろうが、ピエールが捕らえられてしまう危険性がある。
でも、20万エクルもの大金どうすれば…。
「何としてでも今日中に20万エクル集めるから心配するな」
黙り込んでいたローズの様子を察したピエールは言った。
魔界に来てもう十三日経過している。
今日中に帰らなければ、女王候補失格。
もしかして、必死に交渉してくれていた理由は、私のため。
そんなにピエールが心配してくれていたなんて。
『ごめん……ありがとう』
「はぁ…なんで謝るんだよ」
『私……ピエールがそんなに気にかけてくれてるなんて…思わなくて……』
「まるで僕が冷徹な奴みたいな言い方だな」
『……だって…そうだったじゃん』
「う、うるさい!ほら、行くぞ」
そう小さく言ったローズの言葉にピエールは頬を赤く染め、ローズの手を取って大通りの方へ足を進める。
そんな兄の背中を見つめながらローズはクスッと笑った。