ルーン25
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ピエールが話し終えた後もローズは何と言葉を発すれば良いのか分からなかった。
時が止まったかのように森には静寂だけが流れる。
「それに触れた時、母さんに叱られたのかもな。約束を守ると…妹を守ると誓ったのに………すまない」
先に口を開いたピエールはローズの首元を指しながら静かに言った。
そうなると私は拐われた子と言った所だろうか。
「……許して貰おうとは思わない。今まで酷い事をした自覚はあるし、これからもローズとは敵対関係にあるだろうから…」
ピエールは時折、物思いに深ける様子で続けた。
「今更こんな事言われても、不愉快なだけだろうけど……それでも、思い出した事は全てローズに話すべきだと思っ───」
『嬉しい』
ローズはピエールの言葉を遮って抱き着いた。
せっかく会えたのに。
やっと真実を知れたのに。
またどこかに消えて行ってしまいそうで…。
『嬉しい!ピエールと“兄妹”だったって知れて…!私の方こそ……何も知らなかったわ。ごめんなさい』
「ローズ………でも本当の“兄妹”じゃないし、まだ思い出せないことも多───」
『そんなのどうだって良い!だから……行かないで』
“忘れられた通路”で見たあの記憶に映っていた幸せそうな“家族”。
血の繋がりがなかったとしても胸に黒が宿っていたとしても関係ない。
ピエールは私にとって大切な“家族”だ。
私の憧れていた“温もり”。
もう失いたくない。
それに、王国とオグルとの争いが終わったら、これまでの分も含めて思い出をたくさん作れば良い。
『行こう!』
「行くってどこに…」
『“洞窟の店”よ。そこに行けば人間界に戻る通路があるって名付け親に教えて貰ったの。シフォン山まではこの子が連れて行ってくれる』
「名付け親?……僕が一緒だとローズもそいつも力が弱まるよ、黒で…」
ピエールはローズの横に座っているシルーズを一瞥して弱々しく呟いた。
「それに……バレたらローズもオグルだと思われる」
『私、シルーズがここに連れて来てくれて良かったと思っているわ』
ローズはシルーズを撫でながら言った。
シルーズは気持ち良さそうにローズに甘える。
『だって…この森に来なかったら真実を知る事もなかったし、ピエールを見つける事も出来なかったから』
ローズはピエールの瞳をまっすぐ見つめて言った。
“忘れられた通路”に落ちてから本当のピエールの姿を知る事が出来た。
今の話が真実ならピエールは生まれた時からオグルではなかったのだ。
連れ去られた日、私達は予め敷かれた平穏という名のレールから、ほんの少しだけ脱線してしまった。ただそれだけ。
だって、今こうして一緒にいるのも“運命”なんだから。
『それに、何かあったら守ってくれるんでしょ?それなら一緒にいないと』
「ローズ……分かった…」
『…!?』
「静かに」
遠くから近づいてくる声に二人とシルーズは木の影に隠れて息を潜める。
「本当に女の子と犬っころがこっちに来たのか?お前の見間違いじゃろ」
「間違いない!この目で見たんだ!───それにしても酷い枯れようだな…」
「こりゃ本当に奴らが来とるのかもしれん。ワシらじゃ手に負えん、警備隊に通報しよう」
ジンジャー村の住民だろうか。老人二人は森の異変を見ると、急いで村の方へ引き返して行った。
「急ごう」
『ええ』
老人達の姿が見えなくなるとローズとシルーズ、ピエールは森を発った。