ルーン24
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「うん、そう…あたしんとこ………え?タダじゃ帰さないよ。……大丈夫、キャンディは知ってるから───」
『た、ただぃま……やっと着いた…』
ふらつきながらゲルに入ってきたローズを見て、シルーズは大きなしっぽを振りながら駆け寄る。
『はい、結晶…瓶いっぱいに集めました』
「あら、魔法使わなかったの?えらいえらい」
『魔法使うと光が消えるので…』
絶対知っていただろうにそんな事を言うアンブルに、この調子では家族皆意地が悪いに違いないと眉間に皺を寄せるローズは思った。
「この結晶はね、大昔の木や葉っぱが地中で熱や圧力を受けて何億年をかけて固まったものなんだ。魔法なんかで簡単には集められないように出来てる」
何億年もの長い時間をかけて固まった結晶。
私が取ったハートにはそれと同等の“価値”がある。
そう考えると皆の“想い”がとても重く、そしてかげがえない物に感じた。
「はい、夕食。ココアリゾットとトゲトゲ草のサラダ……」
リゾットをお皿によそいながら、ローズの方を見ると床でシルーズにもたれかかり眠りについていた。
「“忘れられた通路”に落ちて、記憶のスクリーンまで見て、その上結晶まで集めればそりゃくたくたね。あんたの娘は強い子に育ったみたいだよ、ミント」
*
久しぶりに昔の夢を見た。
毎日必死に生きていた時の夢を。
店の外でいつもの様に掃除をしていると突然白いもふもふが飛びかかってきて───。
『ううぅ…重い……』
「あんた本当にその子が好きね」
魘されて瞼を開くと、シルーズが自身の上に乗っていた。頭を撫でてやると頬をベロンと舐められ、「おはよう」と挨拶する。
『ねぇ、シルーズ。もしかして……あなたあの時の………』
シルーズはプルーッと元気に返事をすると、ベッドから起こした上半身に擦り寄る。
『じゃあ……』
「やっと気づいたのかい」
『ごめんなさい!』
「ん?」
『あの時、すごくすごーくお腹空いてて…誰かへの贈り物だったはずなのに!バスケットの中身全部食べちゃいました!…それも定期的に何度か……』
指をもじもじと弄りバツが悪そうにそう言うローズに、アンブルは「そっち!?」と前のめりにコケる。
『シルーズも食べて良いって言ってたし…たしか』
「あれはあんたへのものだよ!」
『…え……なんで…?』
「はぁ…なんでって………名付け親だから」
『…!?……な、な、名付け親!?』
「良い名前だろ?ローズ=フローラ」
得意げにそう言うアンブルに対してローズは、金魚のように口をパクパクさせることしか出来なかった。
「……あんたの母さんはお節介な良い奴だったよ」
『……あ、あのっ………』
「さっ、それ食べたら仕事場へ行くよ!着いてきな」
そう呟いた後、アンブルは背を向けて先に出ていってしまった。
*
「ローズがアンブルの所に!?」
「ああ」
「………無事でよかった…」
グラシエの言葉にロビンは胸を撫で下ろす。
安堵から身体の力が抜けたのか、腕を組んで柱にもたれ掛かるグラシエと同じようにフラフラと隣の柱に背中を預けた。
「会いに行くか…」
「…………いや、いい。………オレ達に会いたくないだろうからな。会いに行ったところでローズを困らせるだけさ」
「…………」
ヴァルプルギスの夜以降、避けられている事をロビンは話した。
グラシエは隣を横目で見た後は、それを何も言わずにただ聞いていた。
「しばらく預かりたいと行ってきた…が、事故とはいえ、人間界を二週間以上離れると完全に失格だぞ」
「……今は奴を信じるしかない、か…」
そうロビンが言った後、少しの沈黙後にグラシエは口を開いた。
「………お前、それは正気か?」
「…………」
「情が移ったか?」
「……それだけだったら良かったかもな」
気のせいだったら、単なる情の移ろいだけだったらどんなに良かったか。
「安心しろ。身分は弁えてる」
ロビンはヘラヘラと笑ってそう言うとその場を離れた。
この感情、もう気づかないふりは出来ない。