月飼い
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昼間とは打って変わって静まり返る城内に一人の生徒の小さな足音が響く。
図書室の禁書の棚で借りた本に夢中になっていたせいで、就寝時間はとっくに過ぎてしまっている。フィルチに見つかったら大騒ぎだ。
渡り廊下に出ると前進速度を早めていた足元を突如照らされ、驚いて見上げるとその主は周囲の暗闇に呑み込まれんと煌々と照らしていた。その月は瞳にいつもよりも一段と大きく輝いて映った。
それを眺めながら急ぎ足に歩いていると、先方の壁際でなにやらうずくまる人影があった。不審を抱きつつ気付かぬ振りをして通り過ぎようと決め、足を進めるとその人影は自分のよく知る人物であることが近づくにつれて発覚した。
「……なにやってるんだ」
「あら、セブ。見りゃ分かるでしょ?」
ため息混じりに聞いた自身に対して若干興奮気味に話すナマエは対照的だ。
「分からないから聞いているんだ」
時間も時間だ。ナマエは自分の知る限り校則を破るやつではないはずだ。
「そう…月を捕らえようと思って」
「は?」
自分の耳を疑い、思わず聞き返してしまった。意味が分からない。いや、分かりたくない気もする。
頭を悩ます目の前の男をさて置きナマエは「まあ見てて」と自信満々に言い、窓際に置いてあった金魚鉢らしきものに“アグアメンティ”を唱えて水を注いだ。すると、綺麗な満月が水面に浮かび上がりあっという間に金魚鉢に捕獲された。その少々小ぶりな月をうっとりと眺める。
「いつもこうしてるのか?」
「たまにね。太陽は見たくないものまで鮮明に映し出すから」
「………」
ナマエは「綺麗でしょ?」と言うと頬ずえをついて何をするでもなく自分の月を見つめる。スネイプはその一点を見つめる彼女をただ眺めていた。
それから暫くすると唐突にナマエが静寂を破った。
「ねえ、セブ?この前の話なんだけど……」
「ああ…」
「私、あなたの誘いは受けられない…。私を思って言ってくれたんだろうけど、ごめんなさい」
てっきり承諾の返答だと思っていたスネイプは不意を突かれる。加えて、面と向かって頭を下げるものだから戸惑いを隠せずにいた。
「考えたんだけど、やっぱり私───“闇払い”になろうと思うの」
「正気か?」
「もちろん!だって“死喰い人”になったら闇の帝王と一騎打ちなんてできないじゃない?」
そう笑いながらふざけて言う言葉は冗談で一番の目的はもっと別にあるのだろう。だが意志の揺ぎ無い瞳を見る限りこの決断は紛れもない本心だ。またもや目の前の状況を疑いたくなった。
この月が彼女を狂わせてせているのではないだろうか。そう思った途端に月が憎らしくなり、こちらの気など知らずに優雅に水面に揺れる満月を睨みつけた。
今隣で金魚鉢を眺めて微笑んでいる彼女とじきに対峙する時が来るのだろうか。そう考えるだけで胸が締め付けられ意識が遠くなりそうだ。心做しか遠くから猫の鳴き声まで聞こえてきた。
「ミセス・ノリスだ!」
ナマエの声で我に返ったスネイプは、水の入った鉢を抱えようとしているナマエの腕を掴む。
「待って!ムーちゃんが…!」
「後にしろよ!」
いくら言っても聞かないため、仕方なく鉢に透明呪文をかけて大急ぎでその場を後にした。
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