ルーン22
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重い瞼を開くと辺り一面に鍾乳洞が広がっていた。ここは洞窟だろうか。
確かバニラを助けた後、気が遠くなって…。
びしょびしょに濡れた自身の姿を見て溺れた事を思い出す。すると横目に岩の上で座る人影が映った。
『…ピエール……もしかして助けてくれたの…?』
「やっと目覚めたか。人間界に来て泳ぎを忘れたのか、人魚姫」
『なっ…』
その言葉にローズの眉間に皺が寄る。
確かに魔界では褒められた生活をしていなかったが、そんな癇に障るような言い方しなくても良いじゃない。
『私が人魚姫なら、貴方は囚われの姫って所かしら』
「…………環境のせいか…お互いに」
『え…?』
「……はぁ…うるさいって言ったんだ。君を助けた事、後悔してるんだ。頼むから黙っててくれ」
『後悔って…』
吐き捨てるようにそう言った彼の表情は岩場の下からでは読み取れなかった。
「それより、ここが何処か分かってるのか。“忘れられた通路”だぞ」
人間界と魔界を繋ぐいくつかの通路は“大鍋”や“月の扉”のように固定されたものと、気まぐれに移動しどこに通じるか分からない不安定なものがある。
話には聞いた事があるが、まさかここが“忘れられた通路”だなんて…。
『……でも、どこかには通じているのよね…?』
「地の底や遠い星に通じているか、辿り着けるのが明日か百年後かは分からない」
出口が見つかるのが先か息絶えるのが先か、確率で言えば圧倒的に後者の可能性が高い。
それに、それまではピエールと二人きり。
『くしゅ…!』
水流に流された身体は徐々に冷えてくる。腕を擦りながらまさかと思い唱えてみたが、やはりこの中では魔法は使えないようだ。
「僕も何度か試したけど駄目だった。あるのは水と空気……無駄に輝く水晶達だけさ。僕達は…この中で彷徨い続けて死ぬしかないんだ」
どこか遠くを見つめながらピエールは言った。
大失態だ。
ローズを助けた上にこんな所に閉じ込められて…。
自分でも分からない。溺れかけているのを見た瞬間に、ほとんど反射的に飛び込んでいた。
『………ありがとう…助けてくれて』
「………」
ローズは顔を隠すようにそっぽを向く。
嫌味な奴だけど、命懸けで救ってくれたのには変わりない。
『…………じっとしてても帰れないし、出口探しましょ!』
照れくささと、何より長い沈黙に耐えられなかったローズは先に口を開いた。
ピエールに背を向けて歩き出すと、ふわりと肩に布がかけられる。
「着てれば乾くから」
『……!い、いや!これはピエールが…!』
「こんな所で風邪引かれても困る」
先程まで見上げる高さにいたピエールが目の前に降り立つと途端にローズはしどろもどろになる。目の前にいる彼の上裸姿に目を泳がせ、顔を赤くする。
これ以上迷惑かける訳にもいかない。それに気まぐれかもしれないが、彼の好意を踏みにじる事は出来ないと、ローズは葛藤した末、渋々シャツに袖を通した。
いつも冷たくて油断出来ないはずなのに、これが本当のピエールなのだろうか。それともこれも演技…。
シャツをかけてくれた際の表情は普段とは異なり、ローズにはとても優しく見えた。