ケース09『りんご飴と言えなかった隠し事』

当事者の名前は数字に置き換える。以下レポート内容。


ケース09
『りんご飴と言えなかった隠し事』


19:02。

夏祭りの会場は、まだ完全には夜になりきっていなかった。空は青と黒のあいだで、屋台の灯りだけがやけに強く見える。

09「うわ、すごい人!」

浴衣姿の09は、はしゃぐように歩く。

ポケットには小さな財布。右手にFFの青色ハンディファン。

その隣を、少し遅れて歩く友人。

友人「……うん。多いね」

09「りんご飴あるかな?絶対食べたいんだけど!」

友人「……あると思う」

返事はいつもより短い。

でも09は気づかない。

焼きそばの匂い、イカの焦げた香り、甘いカラメルの煙。全部が混ざって、夏祭りの音みたいになっている。まるでサマーオーケストラと言ってもいいだろう。

09「ねえ見て!金魚すくいある!」

友人「金魚はちょっと……」

09「えー!!?いーじゃん!!」

友人「まあ、後でね」

笑いながら、09は人混みに紛れていく。


『少し前の出来事』

18:37。

友人は、屋台の影に立っていた。09との待ち合わせ。

手にはスマホ。画面はずっと同じ内容を表示している。

『明日、世界が終わる夢を見た』

それは、ただの夢のメモ。

でも友人は、今まで何度も当たってしまったことを知っている。

だから消せない。

でも、言えない。

友人「……今日、言うべきなのかな」

屋台の声がうるさすぎて、答えは返ってこない。


『回想終わり』


09「友人ー!(本名は伏す)りんご飴あったよ!!」

赤い飴を光にかざして、嬉しそうに笑う。

09「ほら、めっちゃすごいツヤ!かったそー!!」

友人「……うん」

友人は少しだけ目を逸らす。

その赤が、妙に強く見えた。


19:21。

花火が始まった。

ドーン!ドーン!ドーン!パラパラパラ!

ドン、と低い音が腹の奥に響く。

夜空が一瞬だけ昼みたいに明るくなる。

09「うわ……すご……!」

09は完全に空を見ている。

口にはりんご飴。思ってた以上に硬い。歯を心配するレベルだ。べたつく赤い光が、花火の色と混ざっていく。

友人は隣で、それを見ていた。

ヒューーーン!ドーーン!パラパラパラ!!

友人「ねえ」

09「ん?」

友人「……もし、明日が何かあってもさ」

09「うん?」

友人はそこで一度止まる。

花火の音が、その空白を埋める。

友人「……まあ、今日楽しいなら、それでいいのかもね」

09「なにそれー」

09は笑う。りんご飴をかじる音が小さく響く。

甘酸っぱいくて……うまい。

花火は続く。終わりがあることを誰も疑っていないみたいに。

09「来年も来れるかなー」

友人「……来れるよ」

09「ほんとに?」

友人「たぶん……でも」

09「でも……?」

友人「遊ぶからには昼から遊びたいね……」

09はまた笑う。

09「昼あっついじゃーーん」

友人「………………確かに」

最後の花火が上がる。フィナーレだ。数えてはないが数千発は上がっているんじゃないかと09は思った。夜空いっぱいに広がって、少し遅れて消える。

09はそれを見ながら、りんご飴の棒を舐める。

09「……おいしい」

友人は空を見上げたまま、小さく息を吐く。

何も言わない。 

言えないままでも、夜は終わっていく。でも人生全てをその瞬間に捧げたように煙まみれの空を眺めていた。

そして、花火は終わる。

09「かえろっかー」

友人「まだ……いたいな」

09「あー……まぁ人多いからねー」

友人の頭の中は洪水状態だった。全てを言えば09はどうなってしまうのか……。だから言えない。言えるわけない。とりあえず人混みがいなくなるまでずっとそこで待機している2人。

それでも訪れる……人混みはなくなり、屋台は片付けの作業を始める。

友人は09の顔を直視できず、空をずっと眺める。

09「友人ー?帰るよー?」

友人は09に近づき、心の整理がつき、覚悟を決めた。

友人「アタマおかしい友人からの一言……」

友人「09…………」

09「…………?」

友人「…………好きだよ?」



友人「恋人になって……ください……」


09の手からベタベタになったりんご飴の残り香が付着した棒がアスファルトにキスをした。


ケース09
END
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