ケース12『秋のお菓子と今日だけの恋人』

当事者の名前は数字に置き換える。以下レポート内容。


ケース12
『秋のお菓子と今日だけの恋人』

23:17。
秋の夜風は少し冷たい。

20歳の女性、12はコンビニの自動ドアをくぐった。

ウィーン。

店内は季節商品の侵略を受けていた。

栗。さつまいも。かぼちゃ。秋限定。期間限定。数量限定。

12「やっぱり、秋が一番好き……」

カゴに商品を放り込む。

さつまいもチップス。

栗チョコ。

かぼちゃクッキー。

大学芋風スナック。

ついでに秋限定の濃厚ビール(←ここ重要)

缶には赤や黄色のもみじが描かれていた。

12「秋、食べよ」

セルフレジで会計。レジ袋を片手に、夜道を歩き始めた。外は静かだった。雲も少なく月も見える。虫の鳴き声だけが響いている。

12は歩きながら大学芋風スナックを開封した。

ザク。甘い。再現度は65%ぐらい。

歩きながら食べる。

それだけで少し楽しい。

スマホが震えた。

ピコン。

エリアメール。12は画面を見る。

『落ち着いて行動してください』

『決して外に出ないでください』

12「外だけど」

そう呟いて通知を閉じた。

別に慌てなかった。


栗チョコを一粒。

甘い、秋の味がする。この味が涼しく、いや肌寒くなる味。

少し歩いて公園のベンチ。誰かいる。

12「あ」

見覚えがあった。

小柄で童顔な女性。コーラ缶を並べている。

10だった。

10「あ」

12「あ」

沈黙。

10は珍しく酔っていなかった。

10「こ、こんばんは……」

敬語だった。12は少し驚く。

12「え?10ちゃん!?……どうしたの!?なんかいつもより暗い気が……」

10「今日は禁酒日なので……」

そう言いながらコーラを飲んでいる。

12は袋から秋限定ビールを取り出した。

10の目が一瞬だけ光った。

12「飲む?」

10は目を逸らす。

10「……飲みません」

即答だった。

10「今日は我慢の日です」

12「偉いね」

10「えへへ……」

酔ってないと妙に大人しい。

12はベンチへ座った。

レジ袋を開くと秋のお菓子が大量に出現する。

10「うわ」

12「食べる?」

10「食べます」

こっちも即答だった。

かぼちゃクッキー。栗チョコ。さつまいもチップス。

2人で分ける。

ポリポリ。サクサク。モグモグ。

静かな時間だった。味わい深い。夜が長い秋にジャスト。

10「おいしい……」

12「うん」

10「秋って全部うまいですよね。パッケージも可愛いらしいし」

12「分かる」

少しだけ笑う。

虫の鳴き声が聞こえて風が吹く。

スマホがまた震えた。

エリアメール。

誰も見なかった。

10は栗チョコを食べながら空を見る。

10「彼氏ほしいなぁ……」

12「まだ言ってる」

10「だって欲しいんですもん」

10は膝を抱える。少し寂しそうだった。

10「私、そんなに魅力ないですかね……」

12は少し考えた。そして。

12「……恋人」

10「はい?」

12「私じゃダメ?」

沈黙。風だけが吹いた。

10の思考が停止する。

10「え?」

12「今日だけ」

10はしばらく固まっていた。

そして。

12の腕を両手でぎゅっと抱きしめた。

10「今日だけ……お願いできますか!?」

12「うん」

10の手は温かかった。12は少しだけ笑う。

12「でも」

10「?」

12「ずっと……居てほしい……かな」

10は何も言えなかった。顔だけ真っ赤だった。

栗チョコだけが静かに減っていった。

秋限定ビールはフタすら開けてなかった。


ケース12
END
1/1ページ
スキ