episode6『それぞれの目的』

episode6
『それぞれの目的』

[part1]

喫茶店『Point nemo』にて。

null「(新たな迷い人に対して)メニューは?頼むの?頼まないの?一応さ、お金は取らないけどこっちも仕事なんでね。黙っていたら何も進展しないけど?」

迷い人「うう……うう!!(泣き始める)」

null「泣いて騒いてわめいて発狂するのはエモーショナルだけど実際どうするの?それ、意味ある?」

ウミ「まーたかよ……お客さん、コイツのこと気にしなくていいんでゆっくりしてください!」

ソラ「(カフェオレを持ってくる)相変わらずnull君はロジカルですねぇ……お客さん、温かい飲み物を置いときますね」

そうやって迷い人を相談、現世に帰還させる。迷い人は総じて若い子供が多い。

ソラ「(窓を掃除しながら)どうして若い人がやってくるんですか?大人は来ないですよね?」

null「(コーヒーを飲みながら)彼ら、迷い人は少なからずグリッチ因子を持っている。大人になるとそれを活性化できないんだよ」

ソラ「どうしてですか?」

null「子供は知識が少ないからエモーショナルに考える。グリッチ因子は感情……想いに左右されるからグリッチ因子の量が多い。つまり、グリッチ因子が多い程、この世界に迷い込む。子供が落ちやすい(訪れやすい)理由はそれ」

ウミ「ほーん。反抗期ほど落とされるんだな……」

null「反抗期、いい例えだね」

nullは笑みを浮かべそうで浮かべなかった。でも別に機嫌が悪いわけではない。彼は続ける。

null「ちなみにグリッチ因子って理解できてる?」

ソラ「うーん、魔法と違うんですか?」

null「なんでもできるという点には魔法に近いね。でももっとエラーやバグ的なモンだよ?ゲームとかやったことある?」

ウミ「あるに決まってるだろ?」

ソラ「私は……かじる程度ですね。あまり深くはハマらないタイプです」

null「例えば勇者が魔王を倒す場合、どうする?」

ウミ「どうするって……そりゃ戦うだろ?」

null「でも勇者の剣が魔王に通りづらい……その時は?」

ソラ「うーん、剣じゃなくて魔法とか……ですかね」

null「そう。んで魔法や時には仲間を駆使して魔王を倒してハッピーエンド、ゲームクリア。ゲームってそーゆーものでしょ?」

ウミ「そうだな」

null「じゃあ、ゲームスタートした瞬間エンドロールが流れる、もしくは魔王が居る城にワープする、魔王へ攻撃したら敵のHPが0になる……この方法を生み出したら?」

ウミ「ゲームのバグ行為、またはチート行為だな」

null「グリッチ行為だよね?ゲームのルール外から設定をバグらせて無理矢理クリアなどルールを改変する……この権限が使える因子がグリッチ因子だよ」

ウミ「すげぇチートじゃん……でも俺達は願ったり設定を変えて即エンディングみたいな行為はできねーぜ?」

null「そりゃそうだよ。この世界の敵、アベンドもグリッチ因子を持ってるから。つまり、ルール改変とルール改変のぶつかり合い……単にお互いが切り刻んでるんじゃなくて事象、運命力を削り合っているんだよ」

ウミ「壮大な戦いだな……」

null「それぐらいの力じゃないとアベンドは倒せない。奴らは現代兵器も中学生が憧れる異能力でも傷一つつけられない。現世に出没したら滅亡間違いなしだね」

ここでウミはnullに問い詰める。

ウミ「なあ、結局俺達に何をさせたいんだ?俺達は帰還することが目的だよな?」

nullは少し黙るがrecefiaにアイコンタクトをする。

recefia「わかったわ。みんな、これを見て」

recefiaは手から巨大なホログラムを生み出し、ソラやウミに見せつける。ホログラムには文字が浮かび上がっている。


『しあわせさま、
20xx年、現世に降臨。人類に笑顔を与える』


ソラ「これ、なんですか?」

recefia「以前回収した破損DDを復元した内容よ」

null「そうそう。どうやら『しあわせさま』という存在が現世に訪れていたみたい」

ウミ「ちょっと待て……20xx年って今じゃねーか!?」

ソラ「確かに……今ですね」

null「現世ではそうだね。そして実は君達も含めて迷い人がこのDDS世界に迷い込んできたのもここ最近なんだ。つまり、この『しあわせさま』って存在が君達の存在や原因のキーになるかもしれない……」

null「どう?モチベーション……上がった?」

ウミ「上がるどころかより難題になってるじゃねーか……」

ソラ「『しあわせさま』……人類を笑顔……」

ソラはとあるアベンドを思い出す。ファインダー越しに写し出された笑顔のアベンドだ。

ソラ「……笑顔……」

更に記憶をさかのぼる。

ソラ「家族が怯えて机に隠れていたDDの動画……」

null「これは調査を進めなきゃいけないと思わない?君達もまだ帰れなさそうだしね」

ソラやウミは黙り込む。ソラは口を開いた。

ソラ「……私は協力します。約束しましたから……サヤ彼女と……いえ、彼女が……必ず帰れると……言ってましたから」

ソラは俯いて呟く。

ソラ「それしか……できないんです……それがないと……私……」

ウミ「ソラ……」

ウミは頭をかく。

ウミ「俺は……俺は……このままじゃ……良くねぇってわかってる……でも、nullコイツに利用されてるのが嫌でしょうがないんだ……」

ソラ「私は行きますよ。戦います……約束を守りたいんです……叶わないかもしれません。それでも……!」

nullはため息をついた。彼は一瞬だけ視線を逸らす。

null「その思考はリスクを生じるけど?」

ソラ「いいんです。誰かを救えれば……」

nullはソラをじっと見つめてから話す。それは真剣な表情であった。

null「誰かを救う?世界を救う?例え身を滅ぼしても?」

ソラは黙って聞いている。

null「そんなナイーブな考えは今すぐ捨てたほうがいいよ?どーせ助けられた人は1週間後には食べ物の話しかしてないから」

ソラ「…………」


するとnullはため息をしてから話す。

null「まあ構わないけどね。君の意志を踏みにじるまではしないよ」

ソラ「え?」

null「だって試行錯誤は必要でしょ?」

彼は再びコーヒーをすする。

null「僕がハルシネーション屁理屈クソ野郎と思うならぶん殴ってくれればいいよ」

ウミ「お前……言ったな?もし、ロジカルじゃなかったら……」

null「まあ、上手く躱して逃げるね」

ウミ「おい!フェアじゃねーぞ!?」

null「僕は良いんだよ。僕、最強だから」

ウミ「殴れる理由がもう一つ増えたな」

ウミは少しだけ気を緩めた。


[part2]

recefia「落ち着いたかしら?」

null「まぁね」

recefia「そう。なら有益なDDを回収してちょうだい。特にしあわせさまに関連するものよ」

null「それって深度2じゃないと見つからない?」

recefia「なんで?」

null「また発狂するじゃん?2人が……」

ウミ「赤子じゃねーんだよ!?」

ウミの顔が赤くなる。

recefia「それをまとめるのがあなたの仕事でしょう?」

null「そうだけど……」

recefia「ソラとウミ、彼らは貴重な存在かつ人員よ。彼らのへそを曲げるようならあなたの居場所は無くなるわ」

null「それはガチでやめて……」

ソラ「null君が脅されてます……貴重ですね(カシャ)」

ウミ「日頃の行いだな」


[part3]

『深度1・寂れた駅』

夕焼けの空が見える無人駅。3人はホームの椅子に腰をかける。全体的に錆が侵食しており、駅名の看板はもう字が剥げて読めない。

ソラ「なんかきさらぎ駅に似てますね……」

null「きさらぎ駅、ナニソレ?」

ウミ「都市伝説だよ。ある人間がトンネルに入ってからずっと電車に乗ったら終点が謎の駅で……とか……そういうやつ」

ソラ「色々ありますが、まぁ要はあり得ない駅なんです。怪奇的な話ですよ」

null「ふーん。都市伝説もこの世界ではDDとして保存されるからね。『伝承型』として。有益な情報だね」

ウミ「そういえばお前は元は人間だったのか?」

nullは夕焼けを黄昏ながら語る。

null「自我が芽生えた時にはすでにアベンド。だからDDSここ生まれ」

ソラ「いつ頃、生まれたんですか?」

null「1ヶ月前」

ウミ「は!?1ヶ月前!!?たった1ヶ月でスカしロジカル野郎が誕生したのか!?うぇーーー!」

null「だから僕はガキだから、あまりイジメないでね?」

ウミ「クソガキの間違いだろ……」

カンカンカンカン

踏切の甲高い音が鳴り響く。地鳴りのような駅メロディーが流れる。曲は『埴生の宿』だ。



しばらくすると赤い古風な電車が近づいてくる。

ソラ「どこに行くんでしょうね……」

ウミ「あの世だけはゴメンだ」

null「あの世のほうがこの世界よりマシじゃない?知らないけど」

3人は電車に乗る。対面席に座り、景色を眺める。夕日が山に沈み込み、空全体が黄金色に輝いている。

ソラ「え、エモい……です(カシャ)」

ウミ「そういえばさ、お前不登校時代もカメラとか撮ってたの?」

ソラ「はい。よく、両親に許可を貰って夜に外出していました」

ウミ「一人で?」

ソラ「そうです」

ウミ「……まさか、その格好で?」

ソラ「……そうです」

ガタンゴトン、ガタンゴトン

ウミは更に質問を続ける。

ウミ「周りの目、気にならねーの?」

ソラ「……うーん……私はこの服で体型が隠せるので。シンプルの服よりかはマシでした。あと、好きなモノをまとうって凄く楽しくなりますよ?」

ウミ「いやでも、お前小柄じゃん。変な奴寄ってくるだろ?」

ソラの声が大きくなる。

ソラ「寄ります!寄ります!ナンパもよくありました……!でも躱したり逃げるのは得意なので……」

ウミ「その服で?よく動けるな」

ソラ「私って動体視力良いんですよ?だからウミ君、ラッキースケベとか期待しないでくださいね?」

ウミはハハッと笑う。

ウミ「俺はそんなムッツリじゃねぇから……ていうかnull?さっきから反応ねーぞ?」

null「zzz」

ソラ「え?」

ソラはnullに近づく。

ソラ「(小声で)てぇてぇ……これは、シャッターチャンスです!」

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

電車は長いトンネルに入る。そして……照明が落ちた。

ウミ「は?停電……」

ガタンゴトン、ガタンゴトン!

ゴォォォォ!!

トンネルの中なのか風を切るような轟音が聴こえる。

ウミ「null……停電だぞ?起きろ」

null「…………」

ウミはnullを揺らすが反応がない。

ソラ「え……撮り放題……ですね……」

ウミ「バカ!そんな場合か……!」


くすくす。


ソラ「ウミ君!笑わないでくださいよ!」

ウミ「なんだよ?笑ってねーよ」


くすくす。


ソラ「ウミ君!」

ウミ「笑うか!こんな所で!」


くすくす、くすくす、くすくす。


ソラ「あれ?……これ、違います?……え?……」

ウミ「んー?」


くすくす、くすくす、くすくす、くすくす。


ソラ「……!」

ソラの頭の中からささやくような小声……そして過去の記憶が呼び覚ます。

中学時代、いや小学校時代から続いていた人とは違う違和感、ソラが人と繋がれないたった1つの理由……それは疎外感だった。

周りに合わせる、感情の共有が苦手かつ独自の感性を持つ彼女は人との距離を置き、また人からも距離を置かれていた。とにかく、自分は人並みと同じ人間ではない何かを感じていた。


くすくす。


ソラは感受性と洞察力が鋭く、相手の微かな動作で言動が予測できた。つまり、恐らく彼女への悪口、陰口も……。


くすくす。


ソラ「また……」

彼女は俯き、心を閉ざそうとしたその時。

ウミ「いや、俺にも聞こえる」

ソラ「……ウミ君もですか?」

ウミ「ああ」

ソラは考え込み、ある決断をしてカメラのファインダーを覗く。



ソラ「誰も……いない」

ウミ「いねーのか?」

ソラ「はい」

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

ウミは複雑の表情をしながらソラに提案する。

ウミ「撮影したらわかるかもな。でも何かよくない……『こーゆー勘って当たるんだよな』」


くすくす、くすくす、くすくす。


nullはまだ眠っているようだ。

ウミ「null、起きろよ?……なんなんだ一体」

ソラは震えている。これは何かの影響を受けたのかそれとも自身のトラウマか。そして、彼女はシャッターを切った。

カシャ。

すぐに撮影データを確認する。

ソラ「!!?」

写真には画面全体に『赤く大きな女の顔が歪んだ表情で写り、こちらを睨んでいる』。


ソラ「あ……あ……!!」

ウミ「それ消せ!!」

ウミは大きな声で叫ぶ。慌ててデータを削除しようとするが誤動作なのか画像一覧データを開いてしまう。

ソラ「(画像一覧データを見て)ぜ、全部、赤い顔が……!!?」

ウミ「null!!null!!」

ウミはnullを叩いて起こそうとする。しかし、微動だにしない。

ウミ「クソ!……ソラ!!?その顔はどこに写った!?」

ソラ「……窓です!!」

ウミは窓を剣で叩き割る。しかし、ソラの震えは止まらない。

ウミ「他は!!他!!」

ウミは闇雲に空間を斬る。


くすくす、くすくす。


さえずるような笑い声が止まらない。

暗闇の車内で呪いのような悪夢が終わらない。やがてウミも動機が止まらなくなる。

ウミ「なんか方法……!」

ソラも必死に模索する。

ソラ「…………私が撮影したから呪いに感染したのかも……」

ウミ「は!?じゃあどうする!?」

ソラは混乱しながら割れた窓ガラスの大きな破片を見る。そして破片を手に取る。

ソラ「……大丈夫……大丈夫!!」

ウミ「ソラ!!?」


暗闇の中でソラは……破片を自身の両目に突き刺した。


ウミ「やめろ!!」

ソラの顔面から鮮血が溢れる。

ソラ「……うぅ……!!これで、顔は……見えないです……」

ウミ「ソラ……!!」

ソラ「大丈夫です……私達、再生しますから……もし……それで呪いが消えれば……」

ソラ「勝ちです!!」


ウミは動揺しているが、徐々に精神が安定していく。

ウミ「落ち着いて……きた?」

ソラの目の傷が再生される。

すると、電車は暗闇から光に包まれる。トンネルを抜け出したのだ。窓からの景色は田園風景。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

ソラはカメラの画像データを閲覧する。

ソラ「やっぱり、もう写ってません」

ウミ「……はぁ……勘弁してくれよ……」

夕闇に映る田園風景は美しかった。

episode6
END
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