episode4 『部屋』

episode4
『部屋』

[part1]


現在、喫茶店『Point nemo』にてソラ、ウミは新たな迷い人(来客)を接客中。サヤは2階の個室で待機。nullは相変わらずカウンターで砂糖入りコーヒーを嗜んでいる。

迷い人「あのぅ……僕って帰れるんでしょうか?」

null「あのさ、僕は別に運命様でもなんでもないんだから……人にばっか聞いてないでもう少し自分で考えたら?」

迷い人「……そんな〜!!ひどい!!」

ウミ「だーー!!申し訳ございませーーん!!おいnull!!もっと手心というのがないのか!!?」

null「僕接客下手だし。君達人間の方が得意でしょ?バイト経験ある?」

一方、ソラはテーブルの掃除に専念しているが……。

ソラ「null君……その少女寄りな華奢な中性的フォルム……とても良いです……写真撮っていいですか?」

null「別に」

ウミ「ソラ!掃除を止めるな!てか随分アグレッシブだな!?」

ソラ「あの……私……女の子好きなんです……null君は美少女ですね!(パシャパシャ)」

null「僕を撮るメリットあるの?その時間でテーブル拭いてよ?」

recefia「随分賑やかになったわね。特にソラ、前より積極的ね」

ソラ「大人しいのは……陰キャを隠す為の擬態ですよ……普段はこんな感じです」

ウミ「オタクなんだな……しかも同性愛者かよ……」

ソラ「そうです。でも私恋愛は苦手でして」

null「仕事止まってるよ?ほら、客が困惑してるし……」

ウミ「いや、困惑はお前が原因だろ」


初の調査から数日が経過し、新たに迷い込む客を接客するソラとウミ。迷い人達はコーヒーとフードを渡して相談に乗れば大抵は記憶を思い出して現世に帰還してくれる……サヤを覗いて。

recefia「サヤの容態は?」

null「別に。至ってノーマル。今頃、部屋でミックスナッツを頬張っているだろうね」

recefia「そう」

ソラ「サヤさんは本当に眩しいくらい陽キャですね……」

ウミ「やかましすぎるわアイツ……しかも探偵ごっことか。さっきも俺達が接客中に外出しようとしたから止めたしな!どんだけオカルト好きだよ……」

null「彼女は未知がアイデンティティなんだろうねー」


[part2]

この世界は時間の概念がない為、閉店は任意で行われる。現在、閉店中。 

recefia「今日は店じまいよ。ソラ、ウミ……部屋に戻って」

ソラ「わかりました」

nullはテーブル席の窓を覗き黄昏ている。

ウミ「…………」

ソラとウミは2階に上がる。

ウミ「ソラ……ちょっと来い……」

ソラ「ウミ君?(目を細めて)何か目論んでます……?異性は解釈違いですよ?」

ウミ「バカ!そーじゃねーよ!?」

ソラはウミの部屋に入る。この喫茶店の個室は自身の記憶の一部が具現化される。

部屋は木製を基調とした清潔感のある内装だった。テレビや冷蔵庫など、現代社会の家具はほぼ揃っている。

ウミ「(部屋を整理しながら)……ここ最近、変なことばかりだな……」

ソラ「そうですね……でも現世に戻る方法を探さないと。でも私達、そもそも肉体はどうなったのでしょうか?」

ウミ「…………さあな。帰ってもゾンビだったして……それより……」

ウミはベッドに腰掛ける。

ウミ「俺はnullを信用してない」

ソラ「ウミ君……」

ウミ「アイツは黒い化け物と同じようなアベンドだぞ?recefiaだって人間じゃないだろ……」

ソラ「それは……」

ウミ「利用されてるんだよ。俺達は……グリッチ因子やグリッチ因子耐性とかの為に……」

ソラは椅子に座り、考え込む。

ソラ「お客さんを現世に返したり、アベンドを倒したりすると私達、活力が湧きますよね?」

ウミ「それだ。俺達を明らかにこの世界に順応させようとしている。俺達は何かの為のコマなんだ」

ソラ「その何か……」

ウミ「それを知るまでは迂闊には行動できない……だからあの野郎を信用できねぇ」

ソラはウミから視線をそらす。

ソラ「もしかして、私達が知られてはいけない程の情報を彼らは持ってるんじゃないですか?」

ウミ「だろうな……だからソラ、nullをただの女の子として捉えるなよ?あいつは性別もない化け物だ」

ソラ「でも……」

ウミ「……まあ、気をつけろよ?」

そう言ってウミはソラを帰した。

ソラは自室に戻る。




彼女の部屋は……大きめの水色のベッド、黒いデスク、そして大きなモニターが3つに近くにキーボード(虹色)。この光景はクラシカルロリィタ服の彼女には不釣り合いすぎる部屋だった。

ソラはすぐにゲーミングチェアに座り、インターネットを開く。snsや動画サイトなどに繋がるが一切の更新はない。つまり、リアルタイムではなく、ネットが過去の産物になっている。

ソラ「◯◯、更新してない……」

snsを開き、好きなアカウントを調べるが最新情報は途絶えている。その他、スクロールをするがおすすめから幸せそうな女子達やカップルなどの写真が写りこむ。

ソラ「……私って必要な存在……なんでしょうか……」

スクロールを続けるととあるコメントが。

『今日も学校……でも私は家の中……ずっと多分これからも……』

プロフィールを辿ると不登校のアカウント。

ソラ「私も……帰った所で……」

コンコン。

彼女の部屋のドアならノックが。ドアを開ける。

ソラ「サヤさん?」

サヤ「……しー!……脱走……するぞ!」

ソラ「え?……だ、ダメですよ?」

サヤ「ちょっと……散歩だけ!」

こっそり、喫茶店(2階の窓から)を出る。幸い、身体能力が向上しており、着地に支障はない。




辺りは暗く、草原に満天の星空にオーロラが現れていた。

ソラ「凄い……シャッタースピードを遅くして……」

サヤ「まーたカメラの話!!すごいねぇ!!」

サヤはケラケラ笑ってる。

ソラ「す、すみません……」

いつもの癖で卑屈になる。

サヤ「あははー!謝る癖ダメだってー!私達、同じ学校だったら仲良くなれそー。アレ?学校どこだっけ?」

ソラ「覚えてないです……」

サヤ「まあ私もだよ〜」

ソラ「……そもそも、不登校なので……」

するとサヤはハンチング帽を被り直す。

サヤ「あーー……ま、ドンマイ!」

ソラは無理矢理話を逸らす。

ソラ「サヤさんがオカルト好きなのは何故ですか?」

サヤ「……んー刺激があるから?昔っから好きだったからなー」

ソラ「オカルトオタクなんですね……」

サヤ「オタク?確かにそうかも……」



ソラとサヤはしばらく草原を歩く。夜風が2人の髪をなびかせる。

空にはオーロラが流れていた。現実ではありえないほど近く、ゆっくりと歪んでいる。

ソラ「……すごいですね」

カメラを構える。

シャッター音が静寂に溶ける。

カシャ。

ソラ「こんな空……初めて見ました」

サヤ「でしょでしょ!?やっぱ外って最高だよねー!」

サヤはくるくると回る。草を蹴り上げながら笑っている。

サヤ「閉じこもってたらさ、こういうの全部見逃しちゃうじゃん?」

ソラ「……そうですね」

ソラはファインダー越しにサヤを見る。

楽しそうに笑っている――はずなのに。

ソラ「……」

わずかな違和感。言葉にできないズレ。

サヤ「なにー?そんなじっと見て」

ソラ「あ、いえ……」

サヤ「もしかして私かわいかった?モデルいける?」

ソラ「……はい、可愛いです」

サヤ「え、即答!?ノリ良すぎでしょ!」

ソラ「いえ……本心です」

サヤ「……そっか」

ほんの一瞬だけ、サヤの表情が止まる。すぐにいつもの笑顔に戻る。

サヤ「じゃあさ!いっぱい撮ってよ!証拠残さないと!」

ソラ「証拠……?」

サヤ「そ!だってここで見たものってさ、全部なくなりそうじゃない?」

ソラ「……え?」

サヤ「この世界って変でしょ?急に場所変わるし、変なの出てくるし」

サヤ「だからさ、見たって証明しないと」

ソラは無言でシャッターを切る。

カシャ。

サヤ「……ねえ」

ソラ「はい?」

サヤ「止まるとさ」

風が吹く。

サヤ「考えちゃうんだよね」

ソラ「……何をですか?」

サヤ「いろいろ」

少しだけ声が落ちる。

サヤ「ちゃんとやれてるかなー、とか」

サヤ「ちゃんと生きてるかなー、とか」

サヤ「ちゃんと……お姉ちゃんできてるかなー、とか」

ソラ「……」

ソラの指が止まる。

サヤ「あ、変なこと言った!」

すぐに笑う。

サヤ「忘れて忘れて!はい次!」

ソラ「……サヤさん」

サヤ「んー?」

ソラ「……誰か、探してるんですか?」


一瞬の沈黙。



オーロラが揺れる。



サヤ「……なんでそう思うの?」

ソラ「……なんとなくです」

サヤ「ふーん……鋭いね」

少しだけ視線を逸らす。



サヤ「うん、探してるよ」

ソラ「……」

サヤ「でもさ、見つかる保証なんてないんだよ?」

サヤは草を踏みしめながら歩く。

サヤ「もういないかもしれないし」

サヤ「そもそも最初からいなかったかもしれないし」

サヤ「それでも――」

振り返る。笑顔。でもどこか歪んでいる。

サヤ「探さないとダメでしょ?」

ソラ「……」

サヤ「だって私――」

一瞬だけ言葉を飲み込む。そして無理やり明るくする。

サヤ「リーダーだから!」



サヤ「みんなを引っ張る係なんだよ?責任重大!」

ソラ「……はい」

カシャ。

少しだけブレた写真。



ソラとサヤはしばらく草原を歩く。夜風が2人の髪をなびかせる。

ソラ「サヤさんは帰ったらどうします?」

サヤはぐいぐいと前へ進む。地面を見ながら歩く。
彼女は少し低いトーンで呟いた。

サヤ「私って…………本当に……」




サヤ「本当に……ちゃんとリーダーやれてるかな?」

ソラ「え?」



しばらくの沈黙。そしてソラが沈黙を破る。




ソラ「あの!サヤさん!必ず帰りましょう!!」



サヤは足を止める。そしてこちらを振り向く。彼女の顔はいつもと違う表情……悲しげな表情を見せたがすぐに笑顔になる。



サヤ「そうね……!必ず帰ろう!!」

サヤ「でも……!」

サヤ「真実を見つけたらね!!」



[part3]

窓から月明かり。

ソラは自室のベッドに寝そべっていた。服はフリルとリボン、スカートの中にはペチコート、ボリュームのあるパニエ、膝下丈ドロワーズのクラシカルロリィタ服。魂と一体化しているので質量は殆どなく、汚れも生地の破損も元の綺麗な服に戻る。この世界では餓えの概念はない。食事は可能だが意図的必要かと言うとNOだ。ソラは起き上がり、部屋の隅にある鏡の前に立つ。151cmの小柄で華奢な少女が写る。地毛の白銀髪と純白のロリィタ服の少女はまるで人形のよう。

この服は親と相談して買い与えてくれた大切な物。

ソラ「20万の服と25万のカメラ……重いです……」

自己否定しがちで同性愛者の彼女にはこの服は武装のようなもの。少女服全開で性からかけ離れた服。スカートの中の大量のパニエとガードの固い膝下丈ドロワーズは彼女の強い意志を具現化したもの。


2階の廊下を歩いているとシャワー室からウミが出てくる。シャワーを終えて服は着ている。

ソラ「シャワー、必要あります?この世界では汚れはすぐ消えますよ?」

ウミ「習慣だよ。ルーティンがないと不安になる」

ソラ「そうですか……」

ウミは気怠げに自室に入ろうとする。

ソラ「あの……」

ウミは振り向く。

ソラ「……学校って行ってました?」 

ウミはだるそうに答える。

ウミ「行ってねーよ。行ったフリしてさぼってた」

ソラは少し安心感を覚える。

ソラ「どうして……ですか?」

ウミ「……つまんねーし。汚ねーし。そもそも大人なんてゴミのくせに偉そうに先生ぶってよ……あー大人になりたくねー」

ソラ「(少し微笑む)……ウミ君って平成男子ですか!?」

ウミ「?なんで?」

ソラ「今風じゃないですね。なんか古そうです」

ウミ「はー?同じ年だろ……」

ウミは文句を言いながら部屋に入った。


木製を基調としたシックな部屋。彼はベッドで仰向けになり、部屋にあったスマホで動画を見ていた。

ウミ「はぁ……」

動画内容は……不健全だった。

動機は特にない。何となくだった。しかし、彼は確実に違和感を感じていた。

ウミ「チッ」

彼には何も響かなかったのだ。この世界では生理的欲求は殆ど皆無に等しい。ウミは下品な行為は苦手だった。だから今の行動も苛立ちを抑えきれない。しかし、八つ当たりする程、彼は子供ではなかった。結局、不貞腐れながら寝ることにした。

ウミ「社会なんて……クソくらえだ」




ソラとウミが自室にいる中、nullは喫茶店のカウンターでコーヒーに砂糖を入れている。カウンターの前にはrecefiaが。

recefia「null、彼らに伝えないのかしら?」

null「主語が足りない」

recefia「…………」

nullはコーヒーの水面を見つめる。

null「……伝えても……変わらない……なら、コストの無駄だよ」

recefia「そう……賑やかになったと思ったのにね」

2人はどこか諦めたような表情をしている。




月すら沈んだ深夜。といっても時間の概念はないが。サヤは何かの運命なのか、目が覚める。寝ぼけた状態でレースのカーテン越しの窓を見る。



そこには6歳程の少年がこちらを覗いていた。



サヤ「!!?」

サヤは瞬時に目覚め、それと同時に青ざめる。この世の終わりのような表情をして思考が停止した。そして反射的に口を開いた。

サヤ「………………ヒカル?」

驚愕の表情のサヤと満面な笑顔の少年。




少年「お姉ちゃん……」




episode4
END
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