episode32『ケア』

episode32
『ケア』



[part1]


ソラ「(なにが起きたか理解できなかった。胸に生温かい感覚と鈍痛。
服の大きな白いリボンやフリルが赤く染まる。その赤色の中心部に……剣が挿入されていた。
状況を把握した時、最初に何故か白と赤色が不思議と『綺麗』と感じた。

刺した人はウミ君……彼が泣き叫び、発狂している。
何故か驚きも恐怖も憎しみもない。
むしろ心地良く感じた。
自分は盾になれた。彼を救えた。彼やnull君が生き続けているなら……このまま幕を閉じてもいい。そう思った。

傷口に深々と剣が突き刺さっている。そこから剣が暴れるように傷口を抉り、赤い液体が溢れて止まらない。いつもと違い、傷が再生せず、まるで生き物の如く体内を掻き乱す。

苦い味が口内に襲い、血が蛇口の水のように零れる。
そのまま身体は崩れ落ちる。赤い海に沈む。身体に異物を感じる。そして―――)」



ソラは喫茶店の自室で目覚めた。そこにはnull、ウミ、ナギ、recefiaがソラの近くに佇んでいた。

ウミ「ソラ……」

ウミは安堵の表情を浮かべて、肩の力を抜いた。その光景を見てrecefiaは無言でソラの部屋から去る。

null「目を覚ましたね。それじゃあナギは自室に戻ってくれない?ちょっと3人で話したいから」

ナギは頷く。

ナギ「うん、いいよ……」

ナギも続いて部屋から離れる。

null、ソラ、ウミの3人になる。ソラとウミは無言だったかnullが口を開いた。

内容はウミにしか見えない存在『影の女』に翻弄されて誤ってソラを攻撃したことと、その悩みをnullが寄り添う必要があったという話。そしてソラの傷口からカメラレンズが生えたということ。

null「なんで10……いや9割は僕の責任。ソラはウミを責めないで欲しい」

ウミ「ん?割合違くないか?」

null「良いんだよ」

ウミ「…………」

押し黙るウミにソラは声をかける。

ソラ「私も……ウミ君の悩みを聞かなかったことも原因の1つです。なので私も……」

ウミ「いや、悪くない……」

彼はすぐに否定した。しかし、nullが意見を述べる。

null「いや0.3割ぐらいはソラにも原因はある」

ウミ「数値細けーな」

null「事実なんだからしょうがない」

nullはあっさりと告げた。ソラとウミは気まずい空気になる。

null「それはともかく……今後についてを話したい」

ウミ「今後?」

null「同じ事を繰り返さないように……どう問題を解決するかなんだけど……」

nullは続ける。

null「ぶっちゃけた話、ウミの過去についてやトラウマについて僕達に話してくれると助かるかな」

ウミは俯いてしまう。

ウミ「それは……」

ソラはウミを見続ける。不安そうな顔だ。

ウミ「…………」

ウミはゆっくり口を開いて頭を下げる。

ウミ「……すまん」

null「……できないってコト?」

ウミ「…………」

ウミは答えない。苦渋の表情を浮かべている。

null「……厳しい返答だね。その行動はリスクを認めるという見解になるけど……」

するとソラが止めに入る。

ソラ「null君……やめましょうよ?」

null「僕は……ウミの行為はジャッジする立場でもないし、制裁にも興味はない。必要なのは確率を下げる行動を取ること……」

ソラ「null君!もう!大丈夫……ですから……」

ソラが声を上げてnullに説得をする。nullは少し長考して答える。

null「わかった」

null「……でも、いずれは話して欲しい……」

ウミ「…………」

null「……recefiaにソラの傷口からのレンズについて話した。結論から言うとアベンド化への侵食ではない」

ウミ「そうなのか……」

null「恐らく、ソラの身体が激しく損傷したことによる防衛反応ではないかと……」

ソラ「防衛反応……私達、赤い液体の詰まった魂ですよね?……私の身体に何が起きてるんですか?」

nullは首を横に振る。

null「現状はわからない……とにかく君達は今までのケースの中でも特異すぎる。この状況はウミの体内にも同様に発生すると思うよ」

ウミ「マジか……」

ウミはそう呟き言葉を失う。

ウミ「俺達、どうなっちまうんだ……」

null「…………」

nullは続ける。

null「グリッチ因子の適合……これから異常はより顕著に出る……」

ソラ、ウミ「…………」

null「……何があっても……自分が自分であるということを思い続けるしかない……」

nullからのシビアな返答がソラ達に響き渡った。



[part2]


nullはソラの部屋から去り、今度はソラとウミの2人きり。ソラはゲーミングチェアーに座り俯き、ウミはベッドに腰掛けていた。

開口一番にウミが発言。

ウミ「ごめん……」

ソラは俯いたまま。言葉を発しない。

ウミ「…………」

ウミは目線を逸らす。するとソラの窓に黒い人影がよぎった。

ウミ「……っ」

黒い人影はウミを一瞬見つめて、笑みを浮かべたようにも見える。

ソラ「ウミ君……」

急にソラが話しかける。

ウミ「…………」

ソラ「前にnull君が言ってましたよね?『自分の身を削ってでも誰かを救うという考えは捨てたほうがいい』って」

ウミ「……言ってたな……」

ソラ「……私が盾になることって……やっぱり間違ってるんでしょうか?」

ウミ「盾……」

ソラは自分の身体を自分で抱きしめる。

ソラ「もうわからない……です。何が正しいのか……間違ってるのか……」

ウミはすぐに意見を述べた。とても強い口調で。

ウミ「正しいも間違いもねぇよ……そんなの誰もジャッジする立場なんていない。nullもそう言ってたよ……」

ソラ「…………」

ウミ「ソラ、自分の信念を貫け。俺もそうする。今後、俺はソラを傷つけたりしない。例え迷い人が助けられなくても……な」

ソラ「それは……」

ウミ「すまん……極力全員が生き延びさせるようには協力するが……どんなことがあってもソラを第一で考える。俺はそう舵を取る」

ソラ「そう……ですか」

ソラはゲーミングチェアーから降りてウミに近づく。

ソラ「どうして……そこまで……」

ウミ「これは俺の問題だからだよ……俺が乗り越えるしかないんだ」

ウミは過去のトラウマと重ねる。決して話せない出来事を。

ウミは立ち上がり、部屋のドア開けながら言う。

ウミ「とにかく、無事でよかった」

ガチャン。



[part3]


recefia「void……DDS内の9割は占める無の空間。それが偶然にも喫茶店から落ちるとはね」

店主recefiaはカウンターに座り、コーヒーをすする。彼女はブラックコーヒー。

null「そこで『祝福の天使』らしき宗教画、それを崇拝する信者達。アベンドのDDの残滓(ざんし)、『祝福』というキーワードもその関連っぽいね」

recefia「『祝福の天使』、『しあわせさま』……これらを推測すると、人類が滅亡する前から『小規模汚染』という現象が発生している中で人々は神と接触した可能性もあるわ」

null「人類が『祝福』を願った結果、笑顔で滅亡……流石に笑えないよ」

砂糖入りコーヒーを深く口に入れるnull。recefiaはコーヒーを置く。

recefia「次にvoidに遭遇するなら情報はおさえてくれるとこちらも助かる。『しあわせさま』の糸口さえ見つかればソラ、ウミの彼らの境遇や帰還、人類の再建に大きく貢献できる」

null「…………」

nullはコーヒーを手に持ったまま、硬直する。

null「正直さ、君がどこまでが真実で……どこまでが嘘かどうか僕もわからない。なんなら君は全て知ってるという可能性も低くはない。喫茶店の存続、ソラ、ウミの帰還、人類の再建、『しあわせさま』の阻止……全部……君の手の内の計画だったとしたら……?」

recefia「…………」

recefia「私は……知らない……信じてくれないかしら?」

null「信じるよ」

再びコーヒーをすする。

null「それしかルート(攻略)がないからね」

どこか諦めた口調のnull。

recefia「あなたの目的は?成し遂げたいことは何?」

recefiaはnullに問う。

null「自分の正体を知りたい……それだけだと思うよ」

recefia「……そう」

するとカウンター席から離れて厨房に戻るrecefia。



[part4]


数日後、ナギ以外のメンバーが店内に集合した。

recefia「引き続き調査をお願いしたいけど……1つ緊急の依頼が入ったわ」

ウミ「なんだ?」

recefia「この数日、ツカサが店内に訪れなくなったの……」

null「それはバームクーヘンの味が星1だったからじゃない?」

recefia「…………」

recefiaはnullの発言を躱して続ける。

recefia「彼女は侵食が進んでいる。単独行動は侵食の悪化の元。正直に言うわ……彼女はアベンドのリスクが限りなく高いの」

ソラ「……ツカサちゃん」

ソラは俯く。ウミも苦い顔をしている。nullは淡々と返答。

null「濃度の高いグリッチ因子所持者のアベンド化はサヤや双子のような厄介者になるってことだよね?」

recefiaは頷く。nullは質問。

null「喫茶店に戻してもどうするの?現世に帰れるの?」

recefia「わからない……でも『全ての記憶を思い出さなくても現世には帰れる』。彼女の記憶次第で帰還はできるわ」

するとソラはカメラを所持する。

ソラ「助けましょう!!」

ウミ「ソラ……」

recefia「nullは?」

nullは即答する。

null「彼女の痕跡から跡を追い、喫茶店へ強制送還させる。魔女ごっこはおしまいにするよ」

recefia「なら、『3人』で彼女を探し出して?」

ウミは勘づく。

ウミ「3人?……あ!ナギは?あいつは連れて行かないのか?」

recefia「…………彼はずっと自室に籠もってる。彼の好物のメロンクリームソーダも最近は飲んでない」

ウミは不安そうな表情になる。

ウミ「大丈夫か?ちょっと部屋行って………」

null「いや、控えたほうがいい……って……」

ウミはnullの発言を無視して階段を上る。ソラもウミの後ろについていった。

ウミ「ナギ!!」

ドアをノックする。しかし、反応はない。

ソラ「ナギ君……」

ウミ「大丈夫か!!?おい!!」

ウミはドアノブに触れるが……開きそうにない。

ウミ「ナギ!!ナギ!!」

ガチャ。

数cmだけドアが開いた。

ナギ「…………」

ウミ「ナギ?」

ナギは虚ろの表情で不敵な笑みを浮かべる。

ウミ「だ、大丈夫か?」

ナギ「……大丈夫」

ナギは明らかに空返事だ。

ウミ「大丈夫じゃねーだろ!?なんだよ?悩みなら……!」

ナギ「……大丈夫だよ」

ガチャン!

強くドアを閉めて鍵をかけるナギ。

ソラ「ナギ君……!」

ウミ「……どうしちまったんだよ……」

ウミは放心状態になる。するとドアから微かに声が。


ナギ「メロンクリームソーダより……ずっと……甘いや……ははは」



episode32
END
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