幼馴染二人の20題
遅刻ダッシュ
『んじゃ、おれが明日っから迎えに行ってやるからな!』
と、裏に引っ越してきたルフィがゾロに言ったのは、二人が小学校3年のときである。
現在高校1年。
家から一番近いという理由で二人して普通科の公立高等学校へ進学した。レベルは中の中。
ルフィを迎えに行くのは今やゾロの役目になっている。
自分ちの裏、と言ってもルフィ宅から見てもゾロ宅は裏だ。つまり玄関が背中合わせということ。玄関から玄関までは、実は歩くと3分ほどかかる。
ゾロはルフィの家の玄関先ででっかい犬小屋に凭れながら、腕を組んでルフィが出てくるのを待っていた。ちなみに犬小屋には老犬シュシュが寝ている。
ここ1週間、ルフィは家を出てくるのがやたらと遅い。別に彼女ができて身なりに時間を掛けてるとか、そういった事情ではないので念のため。
通学はチャリ通で、脚力に自信のある二人がぶっ飛ばして行っても遅刻ギリギリの時間。
玄関口からルフィのおふくろさんが顔を出したので、ゾロはぺこりとお辞儀した。
「おはようロロノア君。ごめんね、ルフィったら部屋から出て来ないのよ。ルフィ~~!! 早く用意しなさい!!」
もーちっとー、とルフィの高い声が2階から聞こえる。ルフィの変声期がいつだったか、ゾロには記憶がない。もしかしたらなかったかもしれないが、生物学上それはどうなんだろう。余談だがルフィは歌がとても上手い。
ちなみに玄関ドアは開けっ放しだ。田舎の一軒家なんてどこもそうだ。ルフィの家はまだ新しい方だけれど。
ゾロの家はずいぶんと古いが同じく一軒家で、出かけても鍵さえ掛けたことがない。
「あ、別にいいっすよ」
ゾロ的にはさほど「遅刻」はスゴイ問題ではなかった。落第するような遅刻では困るが、だからギリギリセーフなのだ。まだ遅刻に至ったことは幸いない。
しかし日ごとルフィの出てくる時間が遅くなってきたことを鑑みると、初の遅刻も近いかもしれない。それでも、ゾロはルフィを置いて行こうとか、いさめようとか、そんな気はさらさら起きなかった。
ま、中学のころもたまにあったし。
朝飯食い足りないとかで。
幼馴染みのルフィはものすっごく細い体をしている。なのに、あのぺったんこの腹のどこに収まっていくのやら、人の10倍は食すのに、ちょっと動けばまた腹へったー腹へったーとうるさくなるのだ。たいへん、燃費の悪い体質をしている。小学校のころなど、よくおやつを毟り取られたものだ。
そんなことを考えながらゾロがぷっと噴出していたら、ルフィが玄関から飛び出してきた。
「ゾロお待たせ――っ!! おっはよう!」
やっぱりというか、ルフィのぴょんぴょん跳ねた黒髪はいつも通り跳ねていた。
「おはようさん」
「ごめんなァ、ゾロォ。おれど~~しても朝やってる『ペリ犬物語』が最後まで見たくってさァ!! この間までは学校行く時間だし、途中までで我慢してたんだけど、もう最終回近くて見逃せねェんだよっ!!」
朝から力説。
「ペリカン……? なんだそりゃ」
「ペリ犬物語。アニメの再放送。毎朝やってんの」
「へー…。で、朝飯はちゃんと食ったか?」
「うん! 食った食った!! つーかさ、」
「あ?」
「今日もカッコいいなー、おれの幼馴染みは!」
&にんまり。
「はぁ……食ったならいいよ」
これも最近のルフィの変化だ、とゾロは思う。高校に上がってからというものやたらルフィに「カッコいい」と言われる。ま、悪い気しねェからいいけど(他の男だったら気色悪くて張り倒す)。
出会った小1のころは同じくらいの身長で、ルフィが裏に引っ越してきた小3のときもそう変わらなくて、しかし小6で一気にゾロの方が大きくなって以来、その差は開くばかり。ルフィから見れば多少カッコよく見えるのかもしれない。でもそれだけだと思う。
裏からチャリンコを引っ張ってきたルフィが自分の顔をマジマジ見下ろすゾロを不審に思ってか、上目遣いにことんと首をかしげた。
「いや、お前もカッコよくなったぜ? ケンカも強ェしな」
「マジで!? でもおれドーランらしいよ。女子に言われた。『ロロノア君と並んでると不憫よねー』って。プンプン!」
「ドーラン……? あぁ童顔な。そうか? ちっと目がデカイくらいだろ。それよかなんでお前が不憫になるんだ」
いかな幼馴染みと言えど始終一緒にいなきゃいけないわけではない。なのに好んでツルんでいるのは、ルフィといる時間が居心地よく面白いからで、他人にそんな風に思われていることが少なからずショックだった。余計な世話だ、と気分が悪くなる。
「ゾロの顔ってさ、外人みたいじゃん? 掘りが深いっつーかくっきりしてるっつーか、こうやって睨んだら迫力あるし……『お、朝か』」
「顔マネしなくていいから」
「んーつまり、おれのドーランが目立つから可哀想なんだと」
「だから童顔な。なんだそういう意味か」
容姿の違いは今に始まったことじゃなし、どうやらルフィは同情されてるだけみたいなので、ひとまずよしだ。ルフィを卑下したくて言うのであれば黙っちゃいないが。
「わわ、喋ってる場合じゃねェぞゾロ! 今日も全速力で行くぜ、ガッコー!!」
「誰のせいで毎日遅刻ダッシュしてると……」
さっそうと二人、自転車に跨った。
『んじゃ、おれが明日っから迎えに行ってやるからな!』
『あ、いいよ別に。来なくても』
『何で!? 小学校はゾロんち寄りだから、おれが迎えに行けばいいじゃん』
『いやそういう意味じゃなくて……』
『ガッコ一緒に行こうぜ! な、ゾロ!!』
『……まぁいいけど』
この3年後、中学に上がった二人は、ルフィの家側に中学があるという理由でゾロが迎えに行くようになるのだけれど、高校生になり、高校がゾロの家側にあるにもかかわらず、引き続きゾロがルフィをお迎えに行くシステムは変わらないようである。
(おわり)
幼馴染みゾロルです。なんつーことない日常話です。ずっと同じ二人で20題書きます。今んとこ健全ですね!でもくっつけますよ!
『んじゃ、おれが明日っから迎えに行ってやるからな!』
と、裏に引っ越してきたルフィがゾロに言ったのは、二人が小学校3年のときである。
現在高校1年。
家から一番近いという理由で二人して普通科の公立高等学校へ進学した。レベルは中の中。
ルフィを迎えに行くのは今やゾロの役目になっている。
自分ちの裏、と言ってもルフィ宅から見てもゾロ宅は裏だ。つまり玄関が背中合わせということ。玄関から玄関までは、実は歩くと3分ほどかかる。
ゾロはルフィの家の玄関先ででっかい犬小屋に凭れながら、腕を組んでルフィが出てくるのを待っていた。ちなみに犬小屋には老犬シュシュが寝ている。
ここ1週間、ルフィは家を出てくるのがやたらと遅い。別に彼女ができて身なりに時間を掛けてるとか、そういった事情ではないので念のため。
通学はチャリ通で、脚力に自信のある二人がぶっ飛ばして行っても遅刻ギリギリの時間。
玄関口からルフィのおふくろさんが顔を出したので、ゾロはぺこりとお辞儀した。
「おはようロロノア君。ごめんね、ルフィったら部屋から出て来ないのよ。ルフィ~~!! 早く用意しなさい!!」
もーちっとー、とルフィの高い声が2階から聞こえる。ルフィの変声期がいつだったか、ゾロには記憶がない。もしかしたらなかったかもしれないが、生物学上それはどうなんだろう。余談だがルフィは歌がとても上手い。
ちなみに玄関ドアは開けっ放しだ。田舎の一軒家なんてどこもそうだ。ルフィの家はまだ新しい方だけれど。
ゾロの家はずいぶんと古いが同じく一軒家で、出かけても鍵さえ掛けたことがない。
「あ、別にいいっすよ」
ゾロ的にはさほど「遅刻」はスゴイ問題ではなかった。落第するような遅刻では困るが、だからギリギリセーフなのだ。まだ遅刻に至ったことは幸いない。
しかし日ごとルフィの出てくる時間が遅くなってきたことを鑑みると、初の遅刻も近いかもしれない。それでも、ゾロはルフィを置いて行こうとか、いさめようとか、そんな気はさらさら起きなかった。
ま、中学のころもたまにあったし。
朝飯食い足りないとかで。
幼馴染みのルフィはものすっごく細い体をしている。なのに、あのぺったんこの腹のどこに収まっていくのやら、人の10倍は食すのに、ちょっと動けばまた腹へったー腹へったーとうるさくなるのだ。たいへん、燃費の悪い体質をしている。小学校のころなど、よくおやつを毟り取られたものだ。
そんなことを考えながらゾロがぷっと噴出していたら、ルフィが玄関から飛び出してきた。
「ゾロお待たせ――っ!! おっはよう!」
やっぱりというか、ルフィのぴょんぴょん跳ねた黒髪はいつも通り跳ねていた。
「おはようさん」
「ごめんなァ、ゾロォ。おれど~~しても朝やってる『ペリ犬物語』が最後まで見たくってさァ!! この間までは学校行く時間だし、途中までで我慢してたんだけど、もう最終回近くて見逃せねェんだよっ!!」
朝から力説。
「ペリカン……? なんだそりゃ」
「ペリ犬物語。アニメの再放送。毎朝やってんの」
「へー…。で、朝飯はちゃんと食ったか?」
「うん! 食った食った!! つーかさ、」
「あ?」
「今日もカッコいいなー、おれの幼馴染みは!」
&にんまり。
「はぁ……食ったならいいよ」
これも最近のルフィの変化だ、とゾロは思う。高校に上がってからというものやたらルフィに「カッコいい」と言われる。ま、悪い気しねェからいいけど(他の男だったら気色悪くて張り倒す)。
出会った小1のころは同じくらいの身長で、ルフィが裏に引っ越してきた小3のときもそう変わらなくて、しかし小6で一気にゾロの方が大きくなって以来、その差は開くばかり。ルフィから見れば多少カッコよく見えるのかもしれない。でもそれだけだと思う。
裏からチャリンコを引っ張ってきたルフィが自分の顔をマジマジ見下ろすゾロを不審に思ってか、上目遣いにことんと首をかしげた。
「いや、お前もカッコよくなったぜ? ケンカも強ェしな」
「マジで!? でもおれドーランらしいよ。女子に言われた。『ロロノア君と並んでると不憫よねー』って。プンプン!」
「ドーラン……? あぁ童顔な。そうか? ちっと目がデカイくらいだろ。それよかなんでお前が不憫になるんだ」
いかな幼馴染みと言えど始終一緒にいなきゃいけないわけではない。なのに好んでツルんでいるのは、ルフィといる時間が居心地よく面白いからで、他人にそんな風に思われていることが少なからずショックだった。余計な世話だ、と気分が悪くなる。
「ゾロの顔ってさ、外人みたいじゃん? 掘りが深いっつーかくっきりしてるっつーか、こうやって睨んだら迫力あるし……『お、朝か』」
「顔マネしなくていいから」
「んーつまり、おれのドーランが目立つから可哀想なんだと」
「だから童顔な。なんだそういう意味か」
容姿の違いは今に始まったことじゃなし、どうやらルフィは同情されてるだけみたいなので、ひとまずよしだ。ルフィを卑下したくて言うのであれば黙っちゃいないが。
「わわ、喋ってる場合じゃねェぞゾロ! 今日も全速力で行くぜ、ガッコー!!」
「誰のせいで毎日遅刻ダッシュしてると……」
さっそうと二人、自転車に跨った。
『んじゃ、おれが明日っから迎えに行ってやるからな!』
『あ、いいよ別に。来なくても』
『何で!? 小学校はゾロんち寄りだから、おれが迎えに行けばいいじゃん』
『いやそういう意味じゃなくて……』
『ガッコ一緒に行こうぜ! な、ゾロ!!』
『……まぁいいけど』
この3年後、中学に上がった二人は、ルフィの家側に中学があるという理由でゾロが迎えに行くようになるのだけれど、高校生になり、高校がゾロの家側にあるにもかかわらず、引き続きゾロがルフィをお迎えに行くシステムは変わらないようである。
(おわり)
幼馴染みゾロルです。なんつーことない日常話です。ずっと同じ二人で20題書きます。今んとこ健全ですね!でもくっつけますよ!