7つのお題
セミダブルのベッドの上。
眠るルフィの隣にゾロは疲労した身体をムリヤリ起こし、ヘッドボードにもたれると彼へと視線を落とした。その目元に残る涙の跡をそっと指先で拭い、ゾロはひっそりため息を零す。
シーツから出ている肩は丸くなだらかで、男にしてはずいぶんと細く頼りない印象をゾロに与える。掌ですっぽり覆うことができるほどだ。
肩に限らず、彼はどこもかしこも細く薄い。肌などあますとこなく滑らかなのだ。
そのことをゾロがその大きな掌で感触として知ったのは、もう1ヵ月半ほど前になるだろうか……ルフィと初めて寝た夜だった。
「…自己嫌悪…」
ゾロは額を押さえがくりとうなだれた。ヤったことにではない。ルフィとの性交渉はもう数えきれないほどになる。そんなことに今更落ち込まない。なら何にかと言うと……ゾロがまた、ルフィを泣かせてしまったことにだった。
どうして。
なんで、自分は彼が泣くまで許してやれないのか。
紅潮した頬にぽろぽろ零れ落ちていく涙を見なければ気が済まないのか。
いつかきっと彼は、自分とはもう寝たくないと言いだすだろう。そうずっと思い続けているのに、抱けばどうしたって彼を攻め苛むしかできない。
「ごめんなルフィ」
ゾロが謝るのはいつもいつもルフィがくたくたになって泣き疲れて、眠ったあとだった。
ルフィは勝ち気で豪気でわがままで傲慢で、そしてあらゆる面で強い。そんなルフィがゾロに抱かれるときだけ、やけに恥ずかしがり屋な一面を見せる。
明るいところでは決して抱かせてくれないし、どんなに暑くてもシーツくらいは被るし、嬌声なんかは滅多に聞かせてくれない。
感じていないわけでないのは同じ男だから部分的現象で見て分かることだけれど……いつもの彼を知るゾロはそのギャップに、別の誰かを抱いてる気になることさえあった。
自分は物足りなく思っているのだろうか。彼ではないようで。
ゾロはルフィに対して恋愛感情はもっていない。ルフィもそうだと思う。
彼のことを気に入ったのはその大胆な性格にであり、ルフィもまたゾロのどこらかしらを気に入って自分を親友の位置に置いているのだろう。だからそういった面でこんな身体の関係になってしまったこともルフィが自分にだけ違う一面を見せることも、ルフィがゾロに泣かされっぱなしなことも、想定外であり本来ならあってはならない行為なのだ。
なのにゾロはやめられない。
ルフィを求めることを。
快楽だけを追っているとしか、今の自分を形容する言葉を思いつかない。
ルフィは……ルフィはいったいどう思っているのだろう?
「ん…」
ぴく、とルフィの眉根が寄った。うっすらと大きな目があけられ、二、三瞬きをしたのちパチッと開いた。
ルフィは隣にゾロを認めると、同じように起き上がって同じようにヘッドボードにもたれる。いったいどう思って彼は親友と素っ裸で肩を並べてそうするのだろうか。自分らはただの友達ではなかったか。
顔を覗き込んでみたが、ルフィはただ首を傾げただけだった。
ゾロはふかふかの枕をルフィの背に宛った。また抜かずに二度三度イった覚えがあり(いちいち数えてない)腰が辛いだろうからと、ゆったり座れるようにしてやったのだ。するとルフィはとても嬉しそうにして、屈託のない笑顔をゾロに見せた。
「平気か?」
「おう! ありがとゾロ。……おれ気ィ失ったんだ? 情けねぇ~!」
「んなことねぇだろ。おれがわりぃんだ」
「そう! そうだぞっ! ヤってる時に電気つけるのは反則だぞ!? しかも入ってるときにさぁ……おれめちゃくちゃ恥ずかしかったじゃんよ……」
恥ずかしかったと言う割に赤くなるでもない、セックスと言う名のクスリの効き目はどうやらすでに切れている。さっそく怒られた。
「ちゃんと見たかったんだつっただろ。お前一緒に銭湯行くくせに、ヤってる最中は見せないってどうなんだよ。お前ケチか」
「ケ、ケチ!? なんでそーなんの!?」
「見せしぶりやがって……」
閉じる足を開かせるのにはさすがに苦労した。しかも入ってるときに暴れられて締め付けられて、イイの通り越して痛いったらなかったのだ。
顔は隠してしまうし、ルフィのナニは萎えてしまうし、そこで怒声でも罵声でも浴びせてくれれば罪悪感など感じずにすんだものを……ルフィは「バカ!」と一言、あとはひたすら抵抗を試みた。
最終的に、手を焼いたゾロはルフィの両膝を掴むと足を折り畳む形で胸に押しつけ、早いスパンで動いて快感にルフィの思考を鈍らせることで彼の抵抗を封じた。そこを見越してルフィの足を左右に広げ、ゾロは初めてルフィのソコが自分のモノを穿っている様をハッキリ視界に収めたのだった。
……正直、むちゃくちゃ興奮した。
何度も何度も穿っては引き出し突き立てていた。そんなわけで抜かずに数回……ヒドイことをしたとは思ってる(反省)。
「でも……見たじゃんか、ゾロ……」
むっつりとルフィの唇が尖った。
キスしたことはないけれど憎らしくて塞いでやろうかと思う。
「ああ、全部見た。お前がなんで隠したがんのかわかんねぇよ、おれはびっくりしたからな」
「び、びっくり? …って??」
「だってお前、しろとかピンクばっかでなかなかキレ…むぐっ!」
枕で口を思い切り塞がれその加減のなさに窒息させられるかと思った。
「なんだよてめ……っ」
「お、お前なーっ!!」
さすがに真っ赤になってルフィが激怒した。いつものルフィと腕の中のルフィとが初めて交差したような気がゾロはして、ふっと我に返った。
「ごめん……」
「へ?」
「ごめんなルフィ。悪かったよ、今まで」
「…………」
「おい、聞いてたか人の話し」
「……うわァ…とうとう言われた」
「あ?」
「それ、言われたらもうゾロと寝るのはやめようって思ってた」
「ルフィ……おれは、」
「いいんだ、もうやんなったんだろ? おれとえっちすんの。結構シまくってたけどおれ全然ダメダメだったもんなァ。ゾロがシたくなくなんのは解るよ? おれ泣いてばっかだもん……だからえっと、おれもゴメン!!」
「……そんなアホな」
「ア、アホ!?」
「今の取り消すぞ、いいな」
「アホ?」
「ちげぇよ! ごめんって言った方だっつの!」
「取り消し?」
「そう取り消し」
「なんで?」
「なんでも。とにかくなんでも。ホントわりぃ……あ、今のは違うぞ」
「ぶはは、解ってる」
「もうちっと……おれに猶予くんねェか? そしたら解る気がする。いや解る、絶対ェだ」
「あーうん。おれはわかんねぇけど」
「おれが解ったら教えてやる」
「よし! それで手を打とう」
にししし、とルフィが笑う。その笑い方が好きだと思う。
「ありがとよ」
「おう! んじゃまたヤるんだよな?」
「ヤる。次も泣かせると思うが、謝んねぇぞ」
「いいよ。でも泣くかんな」
「ああ……そりゃいいな」
「いいんか!?」
「……だったみてぇだ……」
あーあ。
「へぇ~! ふーんそっか~! ゾロって好きな子は虐めるタイプだったんだ」
「…………はあ?」
こんな調子で、また何かに気付く時が来るんだろう。
ルフィを抱いて泣かせて自己嫌悪に陥りながら……いつかは。
そのとき二人の関係がどう変わるかなんて想像もつかないけれど、今日も隣に眠るルフィの、その存在こそが重要だったのだと取り敢えず気が付いた。
「……なぁルフィ」
「ん?」
「キスしていいか」
「……? いいよ?」
こんな調子で。
(END)