幼馴染二人の20題

置いてくぞ、と言いつつも


じっとしていられないタチのルフィは、短い休み時間もグラウンドに仲間を引き連れてはサッカーに勤しんだりするので、もっぱら居眠りをしているゾロはいつでも置いてけぼりである。別に、一緒に行きたいわけではないのでいいのだが、問題はとある授業の前にあった。

「ルフィはまだか?」
「おう、あと一回ドライブシュートが決まらねェと納得できねェとか言って、まだグラウンド。奴らしいよなァ~」
長鼻のクラスメイトが鼻を掻き掻き、教科書を持つとそそくさ教室を出て行った。
予鈴はとっくに鳴っている。
次は移動教室なのだ。
こんなとき、次の授業に備えて教科書を準備しておいたり早めに教室に戻ったりするものなのに、その配慮がゾロの幼馴染みには全くない。
「たく、またかよ……」
仕方ないので待ってやることにする。実はひとりじゃ迷って教室にたどり着けないゾロなので、結果は同じことだ、と自分を割り切って。
数分経ったころ、バタバタと廊下を駆けてくる足音が近づいてきた。
――ルフィだ。
「やっと戻ってきたか……」
「ゾロごめーんっ!!!」
そこにゾロが待っていることを疑ってもいない即詫びに、ゾロは少々頭が痛くなるものの、教科書を用意してやる義理などないのでさっさと席を立つ。
物でわやくちゃな机を漁りながらルフィが「あれー」とか「どこだー」とか言いながら物理の本を探している。それを尻目に、ゾロは教室を先に出た。
「わーっこらゾロちょっと待て!!」
「置いてくぞ」
と言いつつも、いつも足は自然と止まった。右へ行くのか左へ行くのか解らないからだ、と己に言い訳をして。
「お待たせ。ゾロこっちだぞ?」
ゾロが向かおうとしていた正反対をルフィが指さした。
「知ってる」
スタスタ歩き出す。
「ししし、ゾロは誰かいてもすーぐ迷子になるからな~。おれがいねェとダメなんだよな昔っから。でもありがとう、いつも待っててくれて!」
慌てて追いついてきたルフィがゾロと肩を並べながら、ニコニコそんなことを言うので、ゾロはあからさまにため息をついてみせた。
「迷子になるからじゃねェよ」
「へ?」
「お前、待ってんのは」
ぽつりと告げたら、ルフィはそりゃあもうきれいに笑って、
「うん!!」
と頷いた。
とりあえず、明日は居眠りしないでサッカーに参加してみようか、と初めてゾロは思った。


「置いてくぞ、ゾロ!!」
「お、朝か」
「昼だ。そしてメシだ! 今日は学食に行く約束しただろっ!!」
「あー、そうだったな」
昔から約束を破ったことのないゾロなので、どんなに億劫だろうが眠かろうが、ルフィと学食へ行くと言ったら絶対一緒に行ってくれるのだ。ゾロのそういうところもルフィは大好きだ。
「ゾロはA定とB定、どっちにする? Aは肉でBは魚」
「今から決めんのか?」
「両方がいいと思う? A2つがいいと思う? おれ、今月こづかいピンチなんだよォ……」
ちっともゾロの話は聞いていない。
「はいはい、金貸してくれと言いたいんだよな」
「何でわかんの!?」
「何年付き合ってると思ってんだ。あ、幼馴染みとしてな」
最近ヘンな勘繰りを周りにされるので、一応注釈。
「んじゃ貸してくれ! そんで急げ!!」
「わーったわーった」
とか言うわりに、ゾロはいっこうに腰を上げてくれずにでっかいあくびを一つ。
寝起きのゾロはなんだか可愛い、とルフィは思う。
いやニヤけてる場合じゃない。
「置いてくぞってば!!」
「いいのかよ、そんなこと言って。もう待っててやんねェぞ、移動教室の前」
「わーごめんなさい!! ゾロ大好きっ!!」
「そういう誤解を招く発言はヤメロ……」
がたん、と椅子を引いて立ち上がったゾロが両手をズボンのポッケに突っ込み、スタスタと戸口へ向かった。こうなるとゾロのコンパスにルフィが追いつくのは大変だ。自然、早足にならざる得ない。
「キビキビ歩け。置いてくぞ」
と言いつつも、やっぱり歩みを止めて待ってくれるゾロが、自分と同じく二人でいたいから、と言う事実をルフィはもう知っている。



(おわり)
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