幼馴染二人の20題
幼馴染みのゾロが剣道を始めたのは、確か小学校のころだとルフィは記憶している。
それから中学も高校も、ゾロは剣道部だ。
小学校のころは姉貴に敗け倒していたが、中学で勝ってからというもの、ゾロは一度も敗けたことがない。きっと高校でもそうだろうな~とルフィはあっけらかんと思っている。
ちなみに自分は高校に入学して初めて部活というものに入った。中学では必須だったのに、長鼻の友達に誘われて美術部に入ったものの、一度も顔を出さなかったのだ。
しかしあちこちの運動部をひやかして回っていた。ルフィは運動神経は抜群だがなにかひとつをずっと続けることが出来ないタチだった。
今回もいつまで持つやら、自分でも謎だ。
とりあえず、陸上は何も考えずに走ればいいので向いてると思う。と、ゾロに言ったらたいそう軽蔑の眼差しを送られた。なんで!?
そんなルフィはさっそく部活をサボって武道場を訪れている。恰好だけはランニングに短パンと、いかにも「走れます」的ないでたちで。
パシ、パシン、と竹刀同士がはじける音が聞こえてきた。
中では数人、道場の端っこで正座して何組かの手合いを見学している。ルフィは正座が嫌いなので、入口で拝見することにした。
「お、ゾロだ。姿勢いいよな。背高いし足なげーから様んなるよな~。やーっぱかっけーなァ、おれの幼馴染みは!!」
実は一日一度はゾロを見ては惚れ惚れしている幼馴染みバカのルフィである。
ルフィと同じように女子の応援も多く、その辺は気に食わない。
「ほんっとおれ、ゾロに彼女できたらどーすんだろ……」
絶対ェムカつくから先につくろっかな?
この辺がルフィらしい極論思考だと言えるが、ゾロに言ったらまた呆れられるだろう。
休憩時間になったのか、真っ先にルフィを見つけたゾロが道着姿で傍までやってきた。
「ゾロ!! おつかれ~。カッコよかったぞ!」
「部活は」
「第一声からソレ!? サボった。だってさ、高校入ってからゾロの練習見てねェんだもん」
「お前も部活してんだから当然だろうが。今からでも出ろ」
「やーだね」
「お前は…ったく、ほんっと言うこと聞かねェな、昔っから!」
ま、そう言うと思ったけど、と続けたゾロはそれ以上の説得をするつもりはないらしい。
「そいやゾロってさ、なんで剣道始めたんだ? 姉貴がやってたから?」
「それはきっかけだな。続けようと思ったのは……」
「ん?」
「ま、そんな必要ぜんぜんなかったんだが」
「は?」
「原因は、お前の兄貴だ」
「兄ちゃん!? なんでそこで兄ちゃん?」
「中学に上がった奴がおれに言ったんだ。――ゾロよ、今日からお前がルフィを守れ! アイツは弱虫だからな、と……」
「失敬だな! おれは弱虫じゃねェ!! けど未だに言われるよそれ……。なはははっ!」
「笑いごとじゃねェよ。イタイケな小4のおれはそれ信じて、お前を守れるくらい強い男になるんだ!って誓っちまったんだからなァ! どうしてくれるよ」
フタを開ければルフィはめちゃくちゃケンカが強くて、今ではどっちかのケンカにどっちかが助っ人に入ることなどざらだった。多勢に無勢、の場合に限るが。
思えば、ゾロは体よく兄貴に弟を押し付けられただけの話しだったのだ。
「もう守ってくんねェの?」
ルフィは上目遣いで問うてみる。
「その必要あんのか?」
訝しむ視線が返ってきた。
「ない、と思うけど……」
でも、そうしたら、なんとなくだけど、当分ゾロは彼女作らねェと思ったんだよ。
どうだ? いい手じゃねェ!?
「つーことは、この国で最強くらいにはならねェとなァ」
「……へ?」
「そのくらいじゃねェと、お前守らしてくんねェだろ?」
「おお!! いいねェ国一番の剣士!!」
「それまでも敗けるつもりねェし、また誓ってやるよ」
生涯で二度目。
今日は、ルフィを守ってやろうと誓った日。
(おわり)