幼馴染二人の20題
「いっただきます!!!」
ぱちん、とお行儀よく手を合わせたルフィは、カップケーキを両手に1個ずつ持つなりすごい早さで食べ始めた。
むぐむぐむぐ。ガツガツガツ。
5つあったカップケーキは早くも残り一個。
「おれの分はねェのかよ」
最後の一個に手を伸ばそうとしたルフィに、ぽそりとゾロの言葉が降ってきた。そこで初めてルフィは「お前いたんだっけ」的なびっくり顔を上げたのだ。
「ゾロも、食べんの……?」
おそるおそる、聞いてみる。「食べる」という言葉は聞きたくない。
「つーかそれ、おれが貰ったんだよな。料理部の女子に」
「あ、うん。そうだったな。ゾロが5つも貰ったんだよな。5つも……」
「お前が4つ食ったけどな」
「だって……!!」
今更なんだよ、とルフィは思った。
放課後、お互い部活が終わってさぁ帰るかと落ち合ったころ、料理部の女子5人がカップケーキを手に手にゾロとルフィを校門前で呼び止めたのだ。
彼女らは全員、ゾロに「食べてください!」とそれを差し出した。隣でルフィが指をくわえて見ているにも関わらず。ゾロは大変モテ男なのだ。
そして有無を言わせずケーキ5つをゾロに押し付けると、ゾロが一応は「サンキュ」と受け取ったのをキャーキャー言いながら喜びあい、あっという間に去って行ったのだった。
ケーキを抱えたゾロが、ニヤリ、とルフィを振り返る。
『食いたいか?』
『く、食いたい!!』
『欲しいですと言え』
『欲しいです!!!』
しゃあねェな食って帰るか、と言ってくれたゾロにルフィは飛びついて、あまりの嬉しさにほっぺたにキスした。
もちろん、殴られたけれども。
そんなこんなで二人は屋上にいたりする。
向かい合わせに座って残り一個をルフィは睨みつける。
これはおれんだ。おれのおれのおれの……。
「食いたいか?」
「食いたい!!」
さっきと同じやり取りだ。
ゾロは別段、甘いものがどうしてもダメ、というわけではない。アイスとか大好きだ。夏はよくルフィとアイスを買いにスーパーへ行く(5個398円とかで売ってるから)。
しかし同じものを5個もいらないだろう。でも1個くらいは食べてみたいと思ったのかもしれなくて……。
「そうか。食いてェのかルフィ?」
「うぅ~…。ゾロぉ~~」
「じゃ、お手」
シュビ!(手を乗せる)
「おまわり」
ぐるぐるぐる!(その辺を回る)
「ちんちん」
カチャカチャ、ジジィ~…(ベルトを外してファスナーを……)。
「そっちじゃねェよ!!!」
「ん!?」
「しまえ」
「御意」
「待て」
「? やっぱちんちん?」
「違ェよアホ!! 『待て』っつったらお座りしておれが『よし』って言うまで待つ!」
「おおっ」
焦ったルフィが急いでベルトを共に戻し、ぺたんと正座した。
ゾロはその様子に満足いったのか、男前の顔でシニカルに笑った。某料理部の部長みたいな笑顔だ、とルフィは思ってまたよだれが出そうになる。あいつの顔を思い浮かべるとこれはもう条件反射なのだ(失礼な話しだ)。ちなみにいつもならソイツが作ったお菓子なりをルフィにおすそ分けしてくれるのだが、今日はデートだそうだ。
ちぇっ、ゾロばっかりズリィ。
いつ「よし」が掛かるのかと思ってじぃっとゾロの顔を上目遣いに見ていたら、あろうことか、ゾロはルフィの目の前で残り一個を食べ始めたのである。
「ああ――っ!!! く、食った! 食べた! おれのカップケーキ~~~っ!!」
「お前のじゃねェし」
あむあむ。
「あああああああ」
「そんなに羨ましいか?」
コクコクコク。頷く。
「じゃあ一口だけな」
差し出された食いかけに、ルフィが一口でかぶりついたのは言うまでもない。
「ゾロまだ痛い?」
「痛ェに決まってんだろ」
ルフィに噛まれた指を眺めながら、ゾロが顔を顰めた。そして手をぷるぷる振る。
「でも美味かったよなっ! カップケーキ!」
「ったく、ホントお前はめでてェよなァ、こんな菓子ひとつで……」
「そんなに羨ましいか。しししし!!」
「羨ましいわけあるかっ!!」
反省しろバカ!とは言うも、もうやらねェ!とは言わない幼馴染みはやっぱり優しいよな~と、ルフィは思った。
(おわり)