幼馴染二人の20題


引き続きゾロの部屋。翌朝の一幕である。
ゾロはシャッとカーテンの開く音で意識を浮かばせた。が、目は開けない。と言うか開けられない。まだまだ寝ててェ……。
「ゾロ、朝だよ起きて」
頭上から鈴が転がるような高い声がした。可愛らしい、若い女の……?
いやいやいや。姉貴の声じゃねェし、よその女が勝手に入ってくるわけもねェ。
それにこの声、どこかで聞き覚えがあるような……?
そう言えば昨日、久しぶりに裏の幼馴染み、ルフィが泊まりにきたのだった。結局ルフィはゾロの布団でそのまま眠った。ゾロも、隣の布団に移す気にはなれなかった。なんとなく離し難くて……。
こんな日もたまにはあるさ、と自分を納得させる。ルフィは男だが、幼馴染みだからか気持ち悪くないのだ。
そのルフィのぬくもりを捜そうとゾロは隣の体温をあさってみる。そして、ようやっとルフィがいない事実に気づいたのだった。
「あ? ルフィどこ行った……?」
「うん? いるぞ?」
やはりさっきの声はルフィだったのだ。だったら何だよ、さっきの――、
「朝だよ起きて?」
そうその女の子みたいな優しげな物言いは!?
ゾロはばちっと切れ長の目を開けた。と同時に脇にいた気配に顔を向けたが、さっとルフィが立ち上がったのでその顔は見られなかった。
そして目に入ったものは。
「足……?」
足首、だ。それと紺。紺色の靴下。
もう少し、目線を上へ。
ルフィが紺のハイソックスを履いていた。いつも素足の彼が靴下を履くなんて、今日は雪か……。
さらに上へ。
小さなふたつの膝小僧。ルフィはガキの頃からさんざん転びまくっているハズなのに、なぜかその体には左目の下の傷以外、特に目立った傷痕はない。たいがい不思議だ。
いやそれより、アングルをもうちょっと上へ……。
太ももが見えた。そりゃもう細くてすらーっといい足……ってちょっと待て!!
何で生太もも!? ルフィの奴、何も履いてねェのか!?
ゾロは脳内パニックを起こしかけ、目をしばたたきながら目線を一気に上へ持っていった。
「白……?」
「こらっ、スカートん中覗くな!」
「!?!」
ルフィが、間違いなくあのルフィが、チェックのミニスカートのすそを押さえ、ゾロを睨みつけてきたのである。しかもぷくーっと頬を膨らませて。
「ルフィ!?」
「おっはよ♪ 似合うか~?」
「お、おま、それっ……姉貴の制服じゃねェか!!」
姉の通っていた私立高校のブレザー制服だった。胸元には真っ赤なふわふわリボン。デザインのよさは定評だった筈。
それをルフィが着てたってわけで……。
なんのために!?
「ぴったしだろ。すごくねェ? 朝起きてさー、便所行こうと思ったら寝ぼけてゾロの姉ちゃんの部屋入っちまったんだよおれ。そんで話し込んでたらいつの間にかこれ着てゾロを起こす、ってことになってたわけだァ!!」
どーん。
さっきは「覗くな」と膨れてみせたわりに、ルフィはくるくる~んと景気よく回ってみせた。短いひだスカートが見事にふくらんで……。
例の白パンツも丸見えで……。
いや、男のパンツなんか見たって嬉しくもなんともねェけど。
「何がわけだァ、だ。さも当然のように言うな。最悪の寝覚めだぜ」
「なんだそれ! 失敬だな!! ちっとはドキドキしただろー?」
「するかっ」
「つまんねェの」
今度は口をとんがらせる。ルフィの表情は山の天気だ。

「そうだなァ、けど、せっかくだから……」
ちょいちょい、とゾロはルフィを手招きした。そして、
「ん? ――うわっ!!」
ルフィの細っこい腕を掴んで強引に引っ張ると、布団の中へ逆戻りさせるなり、遠慮なくその上へ跨った。
「ゾ、ゾロ!?」
「脱がす練習しとくっての、いい手だと思わねェ?」
しゅるるんっとリボンを解いて。
「ええええっ!? おれ脱がされんの!?」
「今後、彼女もできるわけだし、エロいこともしてェし、学校帰りにラブホ行くかもしんねェし」
「あ、あ~~なるほど!(ポン) それもそーだなっ!」
「だろ?」
言いつつ、ゾロの手は上着のボタンを外し、ブラウスのボタンを外し……。
ルフィが大人しく脱がされている。しかし、
「じゃ、後で交代な、ゾロ」
「……今なんと?」
「後でおれと交代! ゾロがこれ着て、おれが脱がす」
「練習台にしてすいませんでした……」
もぞもぞゾロは体を起こして畳の上に胡坐を掻いた。ついでに頭も掻く。
クソ、天然にしてやられるとは……。
「ゾロ?」
ついでに寝転んだままのルフィも引っ張り起こすと、捲れたスカートを直してやった。ボタンはまぁ、これからまた着替えるからいいかそのままで。
「そもそもルフィ、おれが女とそんなことになったら、お前やきもち妬かねェ?」
彼女作ったおれに。
「やきもちィ!? んっん~~。んー妬くかも……」
「そうだろ、抜け駆けナシにしとかねェと女がらみは後が――」
「ゾロ取られんのはイヤだ」
「そっちかよ……」

逆の立場でゾロは考えてみた。
やっぱり、ルフィと同じことを思った。



(おわり)
6/10ページ