幼馴染二人の20題

これで美少女だったなら



ルフィには3つ上の兄がいる。
高校を卒業して今は『白ひげ商社』とか言うところで働いていて、その会社の寮に入ってしまったので、ルフィの隣の部屋はもっぱら物置状態である。
ルフィは兄の部屋がうらやましかった。
なぜなら、ルフィの部屋の窓を開けるとゾロの家の庭が見えるけど、兄の部屋の窓を開けると3メートルほど向こうに、ゾロの姉の部屋の窓が見えるのだ。それで勉強嫌いの兄はよく、窓越しに、同級生のゾロ姉に課題の答えや英訳を教えてもらっていたのを、羨ましいと思って見ていた過去がある。いや別に、宿題を教えて欲しいわけじゃなく、窓を開けたら幼馴染みの顔が見られていつでも話ができる、その状態がすごくいいなーと思っていたから。

「で? 兄貴の部屋へ移るからおれは荷物運びを手伝わされてると。お前がおれと窓越しに話をするために!」
「うんそうだ! 楽しみだろー?」
「今までとそう変わんねェだろうが……」
「んなことねェよ。今までだったら大声じゃねェと聞こえなかったから、おれ母ちゃんにしょっちゅう怒られてたじゃんか」
「あれは横着すんなって怒られてんであって、」
「部屋の引越し、手伝ってくれてありがとな、ゾロ!!」
&にっこり。
「へいへいどーいたしまして。たく、礼言えばいいかと思いやがって……」
実はゾロの姉が別の部屋に移ったとかで、もともと続き間だった姉と弟の部屋は、弟ゾロ一人のものになった。これを機に、ルフィも兄の部屋へ越すことにしたのだ。これでルフィの願いは叶う。
「でさー、おれ思い出したんだ」
「なにを」
「兄ちゃんがよく言ってたこと。中学んときだったかなァ? おれらは小6とかだったと思う」
「あ? なんか言ってたか?」
「ゾロんこと見て言ってたぞ。これで美少女だったらなーって」
「ぶっ!! ハァ!? 痛って……!!!」
見事、持っていた箱を落っことして足の上へ命中させてしまった。どうしてくれんだ。負傷者1だ。
「大丈夫か!?」
すぐに駆け寄ってきたルフィがゾロの足をつんつん突付くので、「ヤメロ」と手を払った。
「つーか、おれの姉貴じゃダメだったのかよ。あれでも女だぜ」
「うん、アレでも女かよ!ってよく言ってた。コワイから嫌なんだと」
「あっそ……。おれが女だったら狙われてたかもなァ、お前の兄貴に」
「ゾロは昔っからキレーな顔してるもんよ。くっきり二重だし、髪の毛ミドリだし」
「髪の色関係なくねェか……」
て言うか、自分は揶揄して言ったつもりだったのに、ルフィがクソ真面目にそう返してきてゾロは辟易した。
「今じゃ言わねェだろ」
「言わねェ」
「それに、どっちかっつーと……」
ルフィの方が、よっぽど女の子みたいな顔してるから、これで美少女だったなら……。
て、おい。
何じっと見つめちまってるんだ、おれは……。
ルフィの顔なんか。
「ゾロ?」
「……」
こいつ、結構まつ毛長いんだよな。ぱっちり一重だからみんな気付かねェけどよ。おれはなんべんも一緒に寝てるから知ってるし、ほっぺたやらけェのも知ってるし、見えねェとことかすげェ色白いし……。
これで――。
って、待て! だから待ておれ!
今更〝ルフィが女の子だったら〟なんて想像して一体何になるんだ!?
「おぉーいゾロってば! なんだよジッと見て」
「あ、いや~…。これ、どこにしまうんだっけ?」
落とした箱を慌てて拾い上げ、ゾロは咄嗟に取り繕った。

「ん~~でも、もしゾロが女の子だったらおれ、絶対彼女になってもらうなァ!!」
「……っ!?!」

同じところに箱を落としてゾロが悶絶するのは、それからすぐのことである。




(おわり)
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