幼馴染二人の20題

懐かしのおもちゃ



「ゾロ! 見ろよこれ!!!」
「あ? …へェ、懐かしいモン見つけてきたじゃねェか。まだあったんだなァ」
ルフィが自分の部屋のクローゼットの前にぺたんと座り込んだまま、奥から発掘した物をしげしげ眺めて「そうなんだよォ~。懐かしいよなっ」と大きな瞳をキラキラさせている。たかが古いおもちゃ一つに、こんなに喜ぶ高校生も珍しいのではないだろうか。
その高校生は胸にぎゅっとそれを抱きしめ、ゾロに満面笑みを向けてきた。
「ししし!」
「まだ動くのかよ、それ」
動くというか、使えるというか、聞こえるというか。
「どうかな? 電池換えてみる!」
ルフィが一旦階下へ降り、電池を入れ替えると一目散に戻ってきた。
両手で大事そうに抱えながら、ベッドに座っているゾロの目の前までやってきて、
「ん」
〝片方〟を差し出してくる。
「じゃ、まぁ、距離はねェけど……」
二人は頷きあい、ルフィの6畳ほどの部屋の対角線上の角と角、なるべく離れて立った。
「いっせーのな、ゾロ。いっせーのでスイッチオンな!?」
「おう」
「いっせーの、で!」
カチッ。
途端、ザーっとスピーカーから流れ始めた砂嵐の音。
ルフィがドラ○もんの手の部分をぎゅっと押すと、鼻の部分のマイクに喋りかけた。
「こちらルフィ! ゾロ応答せよ!」
「そっからでも聞こえてんだろ、自分の声。なんとか使えてんなァ」
ゾロが持っている同じくドラ○もん型の、おなか部分のスピーカーからは、ちょっと雑音が混じっているもののルフィ独特のテノールが聞こえてきたから。

懐かしのおもちゃ、それはドラ○もん型「トランシーバー」なのだった。

二人が小5のとき、ルフィが自分の誕生日に「ゾロと遊べるおもちゃがいい」と言って買って貰ったのがコレだった。他に遊べるものは山ほどあったと思うのに、この頃のルフィはゾロとヒミツを持つことが特別だったように思う。
ルフィの部屋の窓を開けると、右斜め10メートル前方にはゾロの部屋の窓。ルフィの家とゾロの家は共用の塀を挟んで、逆L字型に並んでいるのだ。
ルフィは当時、片方をゾロに持たせ、こう約束させたのだった。
『夜の8時になったらおれと交信すること!!』
それが守られた期間はたったの2週間ほどで、実は最後となった日、タクシーの無線に割り込んで運転手に怒られてビビってやめた。それ以来、どっちかの家の中で使っていたのだが、電池代がバカにならないとルフィの親に嫌がられ、お蔵入りしてしまったのだった。

「おーい、ゾロー」
「聞こえてるし」
「もう、ゾロもなんか言え!!」
「ルフィ、」
「?」
ゾロは自分の耳を指差し、そこをスピーカーに当てる仕草をした。幼馴染みは首をかしげたが、すぐ合点がいったようで、素直に耳をドラ○もんの腹に当てる。
ワクワクワク。ゾロは一体、自分に何を喋ってくれるだろう……?
そんな感情が手に取るように解ってこそり笑む。ルフィは昔っからわかりやすい。
ゾロはこほんとひとつ、咳払いをした。
それからぎゅっとドラ○もんの丸い手を押しながら。
ドラ○もんの赤鼻に、口を近づけ……。

「わっ!!!」
「ぎゃああああああ!!」

ルフィがびっくりしてトランシーバーを放り出した。それからなぜか両耳を押さえて蹲る。
ぐるぐる目を回すルフィにゾロは耐え切れず大爆笑してしまった。してやったり。
けれどもいつまで経ってもルフィが蹲っているものだから、不審に思いそろそろと近寄っていった。
「ル、ルフィ?」
「……」
「おいって……」
「……」
「わ、悪ィ。そんなに驚いたか? 耳痛かったか?」
しゃがみこんで耳を押さえているルフィの手の甲を、ゾロは優しく撫でてみる。
「まーた引っ掛かったァ――っ!!!」
「!?!」
突如ルフィががばぁっと顔を上げたのだ。
「び、びっくりすんだろうが! またって何だよ!?」
「あの頃もおれ、なんべんも引っ掛かってたのに……! そんでムカついてやめたんだったよ、これでゾロと遊ぶの」
足元に落ちていたドラ○もんを拾って、うんうんと頷いた。
「……そうだっけか?」
知らなかった……。
「おれバカだよなー」
なははは、と陽気に笑うルフィにゾロはちょっともやもやしたものを感じながら、「まぁバカだからな」と苦笑した。




(おわり)
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