行方





錯覚?

催眠?

今目の前でおれが見ているこの人物が、ルフィ本人だというのか。どう見たってサンジの姿をしたこのキャプテンが……。
おれはルフィに呼び出され、遠く水平線に沈む最後の赤が見える前甲板に出て来ていた。反対側の空はもうすっかり暗い。
「さっきは、ごめんなさい」
金髪がさらりと流れ、そのつむじが見えた。
おれに頭を下げているのはサンジの姿のままのルフィ。胸の前には麦わらを持っている。
その声は、悪いことをしでかしてお母さんに謝っている時のような、子供のそれだった。
「ルフィ……」
「ゾロがどう思おうが、ゾロが決めることなのに」
「それは、お前のことを諦めるって言ったことか?」
言葉にしておれは心臓が痛むのを感じた。まだ諦め切れていない証拠だ、実に情けない。
ルフィがこくりと頷く。
「それと、助けてくれてありがとな! あと帽子も!」
そのサンジの顔はもう笑っていて。
「いや、おれが悪かったんだ……。お前を動揺させた」
動揺というおれの言葉に麦わら帽子を掴んだサンジの指先に力が籠もったような気がしたが、ルフィは「おれがドジった」とまた笑った。
「あの……」
その時、背後から声がしておれは振り向いた。
「よう、ビビ。どうした?」
ルフィがいつもの調子で声を掛ける。
おれはルフィの隣へ移ると、背後の手摺りに体を寄りかからせた。
「遅くなったから、夕食の用意を手伝えって、サンジさんが……」
ビビが何故かおずおずとそう切り出すのを、おれは何となくしっくりいかないものを感じて不審な目を向ける。
それを感じるのか、ビビはおれの方を見ようとはしなかった。
「まさかおれにじゃねェよな~!」
ルフィが麦わら帽子を金髪頭に乗せながら笑って言う。手伝いをして手伝いになった試しがない。
「いえ、ルフィさんに……」
「うえっ!」
余りに意外だったらしく、ルフィがサンジの切れ長の目を見開いた。
おれは何となく読めた気がした。
サンジが余計なお節介を妬くとすればそれは女の為。つまり今はビビの為。
ルフィがおれと離れるようにし向けている。
ようは今この場所で、ビビにはルフィが邪魔なのだ。
ルフィは困惑顔のまま食堂への階段を昇り、中へと消えていった。
それを確認してからビビがおれを振り返る。
「で、おれに何の用だ?」
おれはズバリと本題に入った。
ビビはそれをある程度予測していたのか、一度下唇を噛んで目を伏せたが、すぐに真っ直ぐにこちらを見る。
やはり一国を救おうとする責任感ある王女様だけあって覚悟が早い、とおれはそんなところに感心した。
「見てしまったんです。ナミさんと、Mr.ブシドーが言い争ってる所……。それから、聞いてしまいました、催眠のこと……」
「そうか……」
おれは正直そうとしか言いようがなかった。
しかし間違いなくビビはおれに何かを求めている目を向けてくる。おれはそれに答えなければならないのだと本能で感じた。
そんなビビの目が何かの確信を掴んだように強い光を宿すのを、おれは真摯に受け止めざるを得ない。
「これは私の見解なのですが、ナミさんは私に見せたいんじゃないかと思うんです。あなたたちの絆を、そして強さを。何があっても、どんな困難が訪れようとも乗り越えられるってことを。私の為に……」
おれの表情から感情を読み取ろうとするかのように、ビビはおれから決して目を逸らすことなく言い放った。
それに、おれはどうやって答えればいいというのか。
今言ったビビの言葉にではない、気持ちにだ。
ビビはきっと、それを証明して欲しいとおれに求めているのだろう。
「あんたはそれを見たいんだな?」
長い沈黙を守った後、おれはやっとそれだけ言った。
こくりと、ビビが頷く。大きな一重の黒い目を燻らせて。
「ナミさんにとってのあなたたちは仲間です。間違いなく信頼し、その強さを信じています。それはあの巨人島でルフィさんが現れた途端に危機への緊張が解けたことや、高熱を出しているにも拘わらずルフィさんを信じて山を登ったことでも充分解ります。……でも、私にとってあなた達が“仲間”なのかどうか……、“仲間”だと言っていいものかどうか……。だって、この先の道のりはやっぱり私一人の為にしては余りにも代償が大き過ぎて……私には正直重すぎる」
ビビの中の葛藤が、ゾロには解る。“仲間”でありたいのに、持ち前のその責任感の強さから大切な者達を危険には晒したくないのだ。
「ビビ……」
「でも! 見つけて下さい、答えを。私はもう、あんなナミさんの顔を見ていたくありません!」
同室だからこそ、おれたちに見せないナミの顔があるのだろう。
ビビは最後にそれだけ言うと、長い蒼の髪を波打たせながらおれに背を向け姿を消した。


「お、ゾロ!」
食堂へ行けば案の定、ルフィが何をするでもなく椅子に腰掛けテーブルに頬杖をついていた。
「何を手伝ってるって?」
おれは嫌みたっぷりにサンジであるルフィの後ろ姿にわざと聞こえるように言ってやった。
サンジが舌打ちするのが聞こえる。
「後は焼くだけだ! もう終わった」
サンジはパン生地をオーブンへ突っ込むとおれたちを振り返った。ルフィの唇がへの字に曲がっている。
「見たくねェツーショットだぜ」
ルフィの隣に座ったおれとルフィを交互に見ながら、サンジは目に映っているおれと自分とのツーショットに毒突いた。
「そいつはおれも見たくねェな」
おれが口の端を上げて笑って言うと、サンジがルフィの片眉を上げておれを一瞥し、意味ありげにニヤリと笑う。
「なァルフィ、おれとゾロがキスしたって言ったら、お前どうする?」
「なっ、てめェ……!」
伝えたことだとは言え、おれはその話題には触れて欲しくなかった。サンジの口を塞ぐため、立ち上がるとルフィの細い肩を掴む。
あの時のルフィの動揺を思い出せば当然のことだ。
「どういうつもりだ……」
サンジを睨み付けてみるが、当のサンジは何処吹く風。
「おれ知ってるぞ。キスしたんだろ?」
意外にもあっけらかんとルフィが言うので、おれは拍子抜けしてルフィを見やった。
「なんだ知ってたのかよ」
サンジが心の底から残念そうにルフィの眉根を寄せたので、これがルフィの姿に見えなければ一太刀くらいは浴びせていたかもしれない、と真剣におれは思った。
「ゾロ、おれのこと好きなんだってさ! でも諦めるんだって!」
「はぁ? 何だ、そりゃ」
「ルフィ……」
おれは頭を抱えた。これで当分、このネタでサンジにコケにされそうだ。
「仕方ねェんだ。ゾロにはおれと同じように夢があるからな! 世界一の剣豪になるんだ!」
自分のことのように嬉しそうに語るルフィに、おれは別の悲しみに捕らわれるのを感じていた。
ルフィにとって、やはりおれはそれだけのもの……。諦めると言えば、はいそうですか、で片付く程度なのだ。
先ほどのルフィのおれに対する怒りなど、今は微塵も感じない。
サンジはルフィの大きな目を細めて楽しそうに語るルフィを上から見下げると、ピクリと片眉を上げた。
てっきりバカにされるか呆れられるかすると思っていたおれは、今度はサンジの態度に拍子抜けする。
「お前、変な顔してるぞ」
サンジが自分の顔に向かって訳の分からないことを言った。
一瞬、ルフィが黙り込む。
「サンジの顔が?」
「おれの顔なわけねェだろ! お前の今の表情がだ!」
サンジが失敬だな! と付け加えて自分の今の顔を指すルフィに怒鳴りつけた。
おれにもサンジが何を言いたいのかさっぱりわからない。
煮え切らないルフィに焦れたかのようにサンジは短く溜息を吐くと、何の前触れもなくおれを振り返った。
「ま、いいや。諦めたんだろ? ゾロ。じゃあ、おれと遊ぼうぜ」
にっと笑ったルフィのその顔は、サンジの作るあの時のものと同じで……おれは無意識に身構える。
あの、キスされた時の、小悪魔的なルフィの笑み──。
「何する気だ……」
「だから、あのルフィだとできねェこと……」
「おまっ……、よせ!」
サンジは言うなり、エプロンを取り去るとルフィの赤い上着のボタンを外し始めたのだ。
「人前の方が燃えねェ? ……っておれだけど」
何考えてんだこいつは!!
おれは暑くもないのに汗が噴き出すのを感じる。
3つしかないボタンはあっという間に外され、その隙間からは健康的に焼けた肌が見え隠れしていて息を呑んだ。
おれはもう目の前のルフィからも目を逸らせたが、サンジの蒼い目でこの状況を見つめているだろうルフィにも顔を向けることは出来なかった。
おれが一歩後ずさったところで、ルフィの細い両腕がおれの腰に巻き付いてくる。
柔らかい頬がおれの胸に当たった。
「はなせ……」
それだけの言葉をようやく発し、そのルフィの体を押しやろうとした、その時。
バキッ!
骨が折れるようなすごい音がしたかと思うと、抱きついていた筈のルフィの体がおれの遙か前方へ飛んでいたのだ。
目の前には黄色い麦わら帽子。
「ルフィ!?」
「やめろよ!」
ルフィが自分の体をおれから引き剥がし、殴り飛ばしたらしい。
そりゃ確かに、目の前で自分と男がラブシーンを始めれば誰だって怒りたくもなるだろう。
おれは取り敢えず事が中断して安堵したものの、また自分の体が動かなかったことに失望した。
「って~~~~!! 何でルフィの体なのに痛ェんだ!?」
サンジがルフィの頬をさすりながら立ち上がる。実は自分の体であることをサンジは知る由もない。
ルフィが今にも噛みつきそうにサンジを睨み付けるが、サンジは尻をぱんぱん、と払うと煙草を一本取り出した。
そしてふっと鼻で笑う。
「ゾロ、お前バカか?」
「あぁ!?」
いきなり向けられた矛先とその台詞に、おれはさっきのサンジの行動も伴って、頭に来るまま刀の柄に手を掛けた。
「邪魔だ。二人とも散れ!」
「何だと、てめェ!? つくづくどういうつもりだ!」
サンジがしっしと厄介払いするかのようにおれたちを手で払うので、おれはマジでぶち切れ掛ける。
「行くぞ、ゾロ!」
「い、いいのかよ、こんな訳の分からねェ奴……。おれがここで斬っとく──」
「いいから、行くぞ!!」
おれは憤りを抑えられないままルフィに引っ張られ、食堂を後にしたのだった。



その後、おれはどうにかサンジへの怒りを抑えながら遅い食事を終え、時は遅い入浴タイムとなっていた。
あの後食堂を出てすぐ、ルフィはおれの手を離し、一言ボソリと言った。
「ゾロのバカ……」
どうしてこう、おれはバカバカ言われるのか。乾き掛けた頭をがしがし掻きながら見張り台に登ると星々を見上げた。
ふぅーと、長い溜息を吐いてみる。
答えはまだ見つからない。
「やっぱ、おれはバカだな……」
そう呟きながら手摺りに両手を掛けて遙か前方に顔を落とすと、下方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あっち~~~!!」
その声の主はサンジのもので、下を覗けば思った通り、湯上がりの熱い顔を麦わらのツバでバタバタ煽ぐサンジの姿が船首に向かうのが見える。
ルフィ……。
おれは右に左に上体を曲げているルフィを見て、小さく微笑んだ。
言ってみようか、お前のことを諦められないと。好きなのだと……。
また「そうか」で終わるのだろうか。
それでも、いいのかもしれない。
「ル……」
「ルフィ!」
おれが声を掛けようと手を挙げ掛けた時、後を追ってきた影がルフィに声を掛けた。
「ナミ! お前もあっちーのか?」
サンジの顔で脳天気な笑みを浮かべ、ルフィがにしししと笑っている。
おれの場所からは後ろ姿のせいもあって、ナミの表情までは伺い知れなかった。
ただ俯いているのが解る。
「ナミ?」
流石のルフィもそのナミの様子に不穏なものを感じたのか、少し首を傾げて見せた。
ナミの奴……。
おれは息を顰めてその成り行きを見守っていたが、後ろめたいものがないでもない。
しかしどうしても目を逸らすことが出来なかった。
一時して、ナミが顔を上げたのが解る。
ルフィはただじっと、サンジのその目でナミを見つめていた。
しかし今ナミの目に映っているのはルフィなのだ。
総てがルフィなのだ。
「ごめん……」
ここまで聞こえてくるのがやっとの、か細い声だった。
「何がだ?」
「とにかく、ごめん……」
そう言うと、ナミはそっとルフィに抱きついた。
「お?」
当惑してされるがままになっているルフィは、おれにはサンジに見えるがナミにはルフィだ。
おれはふたりに背を向けるとどっかりと狭い見張り台にへたり込んだ。
ナミの気持ちが、流れ込んで来たような気がして──。
ますますルフィを、諦められなくなった。



ナミが立ち去った後も船首を動こうとしないルフィに、おれは背後から近付くとそっとその肩を抱いた。
「ゾロ?」
「ああ」
「当たりだ」
ししし、とルフィが笑う。サンジの白いシャツの感触までがこんなにリアルなのに、これはルフィの体なのだ。
「体が冷えてる」
「うん……」
それでもルフィは動こうとしない。おれもそう言いながらこの腕を解けない。
「なぁ、ゾロ……」
「ん?」
穏やかなサンジのその声は、静かな海に溶けるかのようだった。
「今のおれにキスできるか?」
ルフィ?
まさかそんなことを聞かれるとは思ってもみなかったので、ルフィを抱く腕の力を少し弱めてしまう。
しかしおれはいっそその腕を解くと、サンジの体をくるりと自分に向かせた。
長い前髪から覗く片目は伏せ気味で、その唇はきつく結ばれている。
おれはゆっくり麦わら帽子を取り、そっとルフィに顔を寄せた。
その唇に唇を重ねる為に……。
「う~! ちょっと待った! やっぱダメだ!」
皮肉にも止めたのは言い出したルフィ本人だった。
「ルフィ……」
「だって、これサンジだし。やっぱダメだ」
ぴょんと後ろに跳ねると、ルフィはおれから1メートルほど離れてしまう。
麦わら帽子を被ってないサンジの金の髪が、月明かりにきらきら光っていた。きっと、まだ濡れている所為だろう。
「おれ、もっと強くなるし、ビビをちゃんと家につれてくし、悪い奴もやっつけてやるし……」
唐突にこれからのことを話し始めたルフィにおれは困惑しつつもひとつひとつに頷いて聞いてやる。
「ああ……」
「それから、ワンピースも見つけるし、シャンクスにも会うし、きっと海賊王にもなる!」
「そうだな」
「そんで、ゾロは誰にも負けないで大剣豪になるんだ!」
「ああ、約束したからな」
おれはにっと笑うルフィに微笑み返した。
そうしてルフィは、一度自分の足下を見、また顔を上げておれを見つめる。
「今そう思ってんのは、ゾロのこと好きなおれなんだ! おれは、諦めねェ! ゾロがそうしても、おれには無理だ! どこが好きかって聞かれても解んねェ……でもゾロが好きなんだ!!」
きっぱり言い切ったこのキャプテンは──。
やはりおれの良く知っている、おれの初めての仲間。
そして何が何でも守ってやりたい相手、でも。
それは出来ない。
「やっぱやめた」
おれは自分に向かって呟いた。
ルフィがじっとこっちを見ている。そのいつもの黒い目で。
「諦めるのはやめた!」
例え守ることが出来なくても、逆に自分や仲間の命を落とさせることになったとしても、もう諦めることはできない。
でもだからこそ、おれは誰も死なせないし負けない。
そして必ず、この海賊王との約束を果たそう。
ルフィが弾かれたようににしししと白い歯を出して笑った。
その笑顔がおれの前から消えなければいい。いや、消えないと信じられる。
だからこそ諦めることはしないのだ。
「あれ、ゾロ、背伸びたぞ?」
「違う。ルフィが縮んだんだ」
目の前にいるのは確かにルフィなのだから。
おれはすっと腕を伸ばし、ルフィの小さな顎を捕らえた。
ルフィの大きな目がおれを見上げる。
その目を見返してから、おれはすっとルフィとの距離を縮め、遠慮なくその唇を塞いだのだった。

甘く柔らかいその唇を。
そう、これが答え……。



食糧難4日目。
でっかい猫が海から顔を出した。流石のおれも、申し訳ないが食い物にしか見えない。
「4日振りのメシだァ!!!」
素早く刀を3本抜いた。
隣でルフィも目の色を変えている。
「だめっ!!!」
止めたのはビビ。なんでもアラバスタで海獣・海ねこは神聖な生き物なのだそうで。しかしそれも、アラバスタが近い証拠らしい。
おれは遠くにいくつもの帆船を認めた。“B・W”のマーク入りの、あれらもその証拠。
まもなく上陸だ。
そんな折り、おれは皆に一つの提案を出した。
“仲間”の印。
左腕に書かれた×印がそれだ。
「左腕のこれが、仲間の印だ!!」
キャプテンの一声に“仲間”達が一斉にその左腕を挙げる。
ビビの目が自分の左腕に巻かれたその包帯を見つめ、そっと右手で確かめるように重ねられたのをおれは見逃さなかった。
その目は“仲間”を見ている。そしてきっと、かつての“仲間”達を……。


島が見えてきた。
新たな戦いの場だ。それは自分への挑戦でもある。
「うまくやったか?」
振り向けば一番見たくなかった面……。
ニヤリとサンジが笑っておれの肩をぽんぽんと叩いた。
「何のことだ」
「とぼけるなよ」
そう言ってにやにや笑うサンジが前方のルフィを顎でくいくいと指す。
「ったく、余計なことしやがったくせによ」
「ナミさんの代わりに仕返しだ」
「何でおれが!!」
牙を剥いたおれにサンジは動じるでもなくわははははと豪快に笑うと、「解ってねェな」と言った。
「女ってのはな、浮気相手を恨むもんなんだ」
「おれは浮気相手じゃねェ!」
「そう言うが、ルフィだっておれを殴っただろ?」
「それは……っ」
確かにそうだが。
そういうもんなのか?
「お前、まさかそれでルフィの気持ちに気付いたとか言うんじゃ……」
「ああ、そうだが?」
おれは一瞬真っ白になった。
本当にバカなのか、おれは?
「さて、景気付けのドリンクでも用意すっかー!」と言いながらおれに背を向けたサンジの後ろ姿を呆然と見送っていると、またおれに声を掛ける輩がいた。
「見つけたのね、答え」
ナミがおれのやや右後方で立ち止まる。
おれはそれには答えずに振り返ると、ナミの横を通り過ぎた。そして船首に座っているルフィを見つめる。
それが答えだ。
「ごめんね……」
しかし背後から掛けられたナミの言葉に思わずナミを振り返った。
琥珀の瞳が、おれに微笑み掛けている。
「どういうこった」
顔を顰めたおれにナミはふふふと笑うと一歩おれに近寄り、小声で耳元に囁いた。
「ただのやきもちだったの。悔しかったから、意地悪しちゃった!」
そしてまた何事もなかったかような顔で立ち去ってしまう。
今、なんて言った?
やきもち??
「あ、あの女……、いつかぶった斬る……!!」
恐るべきは恋する女……、恋する魔女だ!
おれはがっくりと肩を落とした。
そんなおれに振り返ったルフィがぶんぶんと手を振っていて、こんな時でもやっぱり笑ってしまう。
ゆっくりとルフィに近付き、その瞳を覗き込んだ。
「ついでに、昨日抱いときゃよかった」
「なっ、何言ってんだ! それはまだダメだぞ!」
「まだ?」
にやりと笑うおれに、ルフィが真っ赤になるとそっぽを向く。
そして「メシ屋が先だ」と呟いた。
おれはくすりと笑うと振り返り、手摺りに背をつき甲板を見渡した。
船員たちが、思い思いに前を見つめている。
“仲間”達が……。
その顔は、おれが今まで見たどんな顔よりも晴れやかで、そして決意に満ちていた。



(END)

催眠はないよね(セルフツッコミ)。




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