新世界不文律

初めてのセックスは17になった頃だった。
あれから1年──。

セミダブルの、ベッドの上。
ルフィは首筋のヨワイ部分を啄まれてざわざわと背筋が粟立つ。
「ん、ふぅ、ぁう~……んんっ!」
「声、抑えんなよ。今日は一人なんだろう?」
「あ、そか……あっ」
その背を男の大きな掌が辿りながらもう片方の手でチクビを弄られると、自分じゃないみたいな甘ったるい声が勝手に漏れた。
男の愛撫に慣れた体は顕著な反応を示す。なかなか制御しきれない。
「んっ、や、ぁあ……っ」
首筋を吸っていた精悍な顔が上がって、挑むように見据えてくる瞳はひとつ、右の綺麗な翡翠だけ──。
ルフィがよく見ようと男のシャープな頬に触れるも引き剥がされ、噛みつくように唇を塞がれた。
口の中を縦横無尽に貪る男の搾取はとまらない。
痛いくらいにチクビを摘む指先も、尻を鷲掴みする手も……。
つーかゾロの手って、最初っからすげー気持ちよかったんだよなぁ。
それはセックスだけじゃなくてただ触れるだけだとしても。
ルフィは海賊で男なのに、1ヶ月に1度はこの男に抱かれている。
長いと3ヶ月は会えないけれどそれでもこっそり逢瀬を重ねるようになって、もう1年……。
この海軍幹部大佐、ロロノア・ゾロと短くも濃密な時間を過ごしていた。

ゾロは、ルフィが惚れたのも寝たのも初めての男。

後にも先にも彼しか知らない。
なぜ同性で宿敵とも言えるゾロだったのか、“好きだから”以外考えてみたこともない。
「ゾロ、ゾロっ……あっん!」
中心を擦りあげられ眉根が寄った。
今夜はペースが早い。
いつもなら口でしてくれるのに……なんで最短コース??
今日の逢い引きは偶然だったのだ。
麦わらの一味が辿り着いた島でルフィが単独「メシー!」と飛び出した繁華街、迷子のゾロと遭遇して。
メシを奢って貰ってたらふく食って、もちろん宿屋へしけこんだのだけど。
常のゾロは、ルフィを抱いたらすぐに帰ってしまう。それは自分たちの関係上、仕方ないとルフィは割りきっている。
でも今日は──。
「ルフィ、さっきからくすぐってェぞ」
「ん?」
「脇とか腰とか……さわんな」
「だ、だってよぉ! お前……!」
「あァ?」
ルフィがガバッと起き上がると覆い被さっていたゾロも必然的に上体を起こした。
ルフィは上半身裸のゾロにぎゅーっと抱きついていって、
「ゾロ初めて脱いだじゃん!!」
どーん。
そうなのだ。時間の都合とかいざってときのことも考えて、ゾロは今まで制服を脱いだことがない。
キッチリカッチリあの白い軍服を着てセックスする。
脱ぐのはルフィに入れるとき、スラックスの前を寛げるだけ……。
「おれはすっぽんぽんにされるのに、思えば不公平だったよなー」
「さっき言ったろうが、今日は珍しく時間にも仕事にも追われてねェんだよ。この島に来る予定はなかったし、しかも無線の伝電虫をなくしちまった。お前に会ったのは偶然だがこうなったら一晩くらいゆっくりしていくさ」
「そ、そう……! 今夜は初の“お泊まり”なんだよなっ!!」
ひゃっほ~い。おれはついてる、ラッキー♪
だって今日は、だって今日は……!

おれの誕生日だから!!!(どどーん)

「ガキのお泊まり会かよ。ハハッ!」
ゾロがなんだか無邪気な顔して笑った。可愛くておおおーと感動する。
ルフィはさっきから浮かれまくっているのだ、ゾロの初めての素肌をさわさわ触ったら意外にすべすべで筋肉はカチカチ。触るのをやめらんなくてそんで怒られた。
もしかして、結構ゾロも浮かれてるか……?
「ゾロの体キレーすぎるもん。胸の傷とかかっこよすぎだ!」
左から右へ、広範囲に渡る袈裟懸けの縫い痕があったから。
「これがか? 敗けた証だぜ、むしろ弱い証拠だよ」
「んなことねェゾロは強い!! まだまだ、もっともっと強くなるぞ!?」
「敵から塩送られるってのは微妙だが……ありがとよ。いつか最強の敵が、ルフィ、お前になればいいと思ってる」
「うん!」
それは倒したいからじゃなくて、強いものと戦える喜び。
「ゾロと戦うの楽しいからな~」
「同感だ」
どちらからともなくちゅっと重なった唇からはアルコールの匂い、ふわりと舞って。
ゾロが頼んだルームサービスの酒類は、ゾロがあっという間に全部空けてしまった。
いつもなら部屋へ入れば突き飛ばされる勢いでベッドへ転がされ、ちゃっちゃか脱がされていいようにされるのに。
今日のゾロときたら「飲んでっからシャワー浴びてこい」と言ったんだ……! 奇跡か。
てなわけで、ルフィはゾロとお泊まり出来ることを知ったし、珍しく脱がされる前からすっぽんぽんなのだった。

「で、お前はいいから大人しく転がってろ」
「ケチ~。おれも触りてェのに」
「こんなチャンスは滅多にねェんだ。今夜は可能な限りお前を抱きてェ……」
「ふ、ふ~ん、そっか」
なんか照れるんだけど。けどそれ、朝までコース……? 思わず顔をひきつらせたがルフィは怖くて聞けそうにない。
その後のゾロは有言実行もいいとこだった。
何度も何度もルフィのナカへ所有の迸りを注ぎ込んで、出しまくって。ルフィなんかはもう何も出なくなって。
でもいいんだ。
シヤワセだから。
今日は特別な日だから、ゾロには絶対言わないけれど(こんな女の子みたいなこと)、誕生日に大好きな人と一緒にいられて最高だから……。
こんなに嬉しいプレゼントはない。
その悦びが、今のルフィの全てを支配していた。


「ゾロもう、おれ……っ、腹いっぱい、だと思うぞ……?」
何回出されたのか数えきれない。
満腹感なんかもちろんないけど、体のナカが熱くて重くて堪らない。
ルフィの発言をギブアップととったのか、ゾロはぎっちり押し込めた自身をギリギリまで引き抜くと、ぱん!と最奥を激しく突いた。
「あああ……!!」
いい加減、ぶっ壊れそう……。
ルフィがこんな弱音を吐くのは珍しい。
それでもゾロはぱんぱんと容赦ない抽挿で「やめてやらない」と腰で示唆し、もうぐっちゃぐちゃなルフィの腹んナカを抉り続けた。
「ルフィ、ルフィ……好きだぜ」
「ん、おれもっ、あんっ」
ゾロはこんなヤクザみたいなコワイ顔してて(失礼)好きとかアイシテルとか、惜し気もなく伝えてくれるから体の限界なんてすぐクリア出来るのだ。
……まるで麻薬? いや魔薬?
その魔薬ゾロがなぜだか、突然ファックを止めるとニヤニヤこんなことを言ってきた。

「お前、仲間にヤらしてねェよな?」
「は!? だ、誰がヤらすか!」
「初めて会ったときお前まだまだガキだったがよ、海に出りゃ色々あっても不思議じゃねェだろう? お前はおれが初めてじゃねェとおれは思ってたんだが……」
「は……はっいィー!?」
開いた口が塞がらない。ハッと我に返るとルフィはだんだん腹が立ってきた。
ハジメテのときと言えば80パーセントが奪われたようななし崩しな感じだった(2割は惚れた弱味)。あれでどうしたらゾロはルフィが初めてじゃないと思ったのか……。
ゾロがまたルフィの足を大きく開いて肉と肉がぬめる液体でひとつになった結合部、指先でつるつるいかがわしくなぞるから、ルフィはキュッと蕾を絞めつけた。
ゾロがクッ、と眉根を寄せる。
「気持ちいいだろうが、コラ。イクぞ?」
「だ、だって……!」
かあっとルフィはほっぺを赤くする。
「そんな顔したってエロいもんはエロいんだよ。けどやっと間違いだって気づいたぜ」
「ホ、ホントか?」
「ああ。お前ゴムだもんなァ、初めてでおれのぶちこんでも切れなかったし、何べんヤっても弛まねェし、さっきみてェにすっげ絞まりイイし……最高だってことに気づいた、ゴムアナル」
にんやり、笑った顔は全っったく悪気がないと解った。
「ゴム、アナ……ア……!」
ルフィの赤い顔が更にすごいことになって火を噴く。こんな露骨なことを言われたのは初めてだった。
「ななな、な……っ! バカゾロ……っエロ……! しねェ~~っ!!」
どっかーん。
「ルフィ!?」
ゴムゴムのバズーカでゾロを突き飛ばして、ルフィはマッハで赤ベストと半ジーパンを着込むと麦わらを被り、ゾロにあっかんべーして部屋を飛び出した。


「サイテー! バカ! 四刀流!! エロガエル!!!」
ルフィは思い付く限りの悪態を吐きながらドカドカとアーケードを歩いていた。
もう真っ暗で、飲み屋しか空いていない。メシは食ったからいいけど港がどっちか解らない。
「ちきしょう、サニーはどっちだ!?」
さっきまで全速力で走っていたのでハァハァまだ息が荒い。
なぜ走ってたかって、ちんこ勃ったままだったから……。
「あーあ、せっかく誕生日にゾロと一晩中イチャイチャしようと思ってたのにーーっ!!」
もうもう! なんでこんなに好きなんだよっ、あんな奴あんな奴!!
「ゾロなんか仲間なってくんねェし海軍だし会ったその日に好きとか言うし抱き締めやがったし方向音痴だし、ヤったらさっさと行っちまうし……!」
そうだよだから貴重な一夜だったんだよっ。こんにゃろう!!

『ロロノア大佐!!』

「ぅえ!?」
しかし、まさかの名前が飛び出て来てビクッとルフィは振り返った。
いつの間に入り込んでいたのだろう、アーケードから1本山間へ入った裏路地で。
確か、今、ロロノアって……?
思わずキョロキョロしてしまう。

『大佐ー! どーこですかぁ~? ぎゃははは一緒に飲みましょうよォ~』
『コラバカ、殺されるぞ!! つーかロロノア大佐は休暇中だろう!!』
ガガガー、ピィー!

「なんだなんだ? どこで喋ってんだ? つーかあの雑音どっかで聞き覚えが……」
人はいない。飲食店の裏口、ゴミポリバケツが整列しているだけだ。
通行人ならメインストリートを何人も行き交うのがここからでも見えるが、さっきの声はあまりに近かった。

『えー? 休暇中ならいいじゃないっすかぁ~。ロロさぁ~ん、至急応答願いま──』
『ヤメロォォー!! しまいにゃしばくぞ! ロロノア大佐はなぁ、恋人の誕生日だから休暇を取られたのだ……!!』
『えええ~~っ!?』

「えええ~~っ!?」
謎の声とルフィの声が重なった。
そしてやっと気付いた。
「ゾロのなくした電伝虫……!」
ルフィはカンだけでビンだらけのポリバケツをガチャガチャと漁って、そうして、まんまと電伝虫を発見したのだった。
「ゾロの奴、なくしたんじゃなくて故意に捨てたんだ……」
海軍マークの入った通信機をゴミ箱に捨てるなど、ゾロ以外ありえないから。
さっきの相手はさぞかし興ざめしたのだろう、あれからプッツリと通信は途絶えた。
「恋人の誕生日……? 恋人、て誰だ? おれか? おれだよなぁ!?」

ゾロはおれのために休みとってくれたんだ……!!

「そうだよ。こりゃどんなバッドタイミングだよ……ちっ」
「ゾロォ~~っ!!!」
ルフィが来た正反対の方向から現れたゾロが(さすがファンタジスタ)、今まで見たことないようなだらしない格好で息を切らせて立っていて、自分を追いかけてきてくれたのだと聞かなくても解ってルフィは満面の笑顔になった。
両手を広げながら、駆け寄る。
最後はぴょ~んとジャンプしてゾロにダーイブ!!
ガッチリと、ゾロが抱きとめてくれた。
「たくこのクソガキ、突然いなくなりやがって。泣くぞ」
「うはは、ごめんごめん」
何で怒ってたのかもう忘れちまったけど。
「ホテル戻るぞ。時間もったいねェ」
「でもおれにはたいっっへんユーイギな時間だった……!!」
ぐりぐりぐり。Yシャツ1枚のゾロの胸にデコを擦り付け、ぎゅーぎゅー抱きついて。
「てめェはホンット……ハァァ」
ゾロは深々ため息を吐きながらも、ただただ大事そうにルフィを抱き締めてくれた。



結局、ゾロは「おめでとう」の一言すらくれなかったのだけれど。
宣言通り、ルフィをめいっぱい抱いて、好きだのアイシテルだのをいっぱいいっぱい言って(甘々・笑)ルフィの全部を満たしてくれて。

それはそれは大満足な誕生日になった。

もちろんルフィは無断外泊、実は船長の誕生日すら知らされてなかった仲間達からこっぴどく叱られる羽目になるのだが……。
それはもう少しだけ、恋人同士の時間を“ユーイギ”に過ごしてからの話となる。



(END)

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