新世界不文律
深夜の前甲板の、その操舵席。
そこからくすくすと笑い声が聞こえてくる。
岩陰に停泊中のサニー号は静かなもので、夜風でも入れるかと食堂のドアを開けたサンジの元にその声は漏れ聞こえてきた。
「またうちの船長はこそこそと」
恋人と密談中のようである。
最近はごくたまにだが、ああやってルフィは恋人のロロノアと電伝虫で楽しそうに会話している。
そりゃあ? 遠恋中の彼氏の声を聞きたいのは当然の衝動だと恋マスターサンジは思うのだが。
「この間のドンパチはおんもしろかったよな~。大砲どーんどーん!つってよ!! ……うん、うん、なははは!」
この間のドンパチ、とは先日のロロノア軍とのアレだろうか。
ルフィはそりゃもう嬉しそうにロロノアと海を挟んでやりあっていた。
海賊と海軍。単純に敵同士。
そんな関係にあっても彼らの恋仲は途切れることがない。ばかりか、上陸すればふら~っといなくなっちまってこっちは大迷惑してるっつーの!!
「お気楽なもんだぜ全く。おーおー、あからさまに恋するモンの顔しやがって……。生意気な」
サンジはタバコを蒸かせながら煙と一緒にはーーっと長いため息を吐いた。
まぁちっとは羨ましいけどな、独り身としちゃあ……。
ちなみに会話はそんなに長くない。
通話を終えたのだろう、ルフィが「じゃあまたな~」と電伝虫をポッケに大事そうにしまった。
それから一目散に駆けて来た先は。
「あ、サンジやっぱまだ起きてたんだな! 食堂の灯りついてたから」
「おう、なんか飲むか?」
「飲む飲む!!」
バタバタと食堂に飛び込んだルフィがカウンターのスツールにちょこんと腰掛けた。
サンジはキッチンへ回るとよく冷えたドリンクをカウンターテーブルのルフィの前へ、すっと差し出してやる。
「いただきます!」
お行儀よく手を合わせ、ちゅるちゅるストローを吸い出したルフィにサンジは肩を竦め、過去一度だけ遭遇した密会現場を思い出していた。
抱かれたばかりのルフィは悔しいがちょっと色っぽかった。
ルフィとロロノアの付き合いは自分達より長いらしい。その頃から体の関係にあるのだと言っていた。
こんなガキがあの男に抱かれてるなんて……。
ルフィの赤いベストの胸元にサンジはなんとなく目が行き、またため息を吐いているとルフィがこてんと首を傾げた。
「サンジ? どした?」
「お前さ、あいつと別れる気はねェのか?」
直球で聞いてみた。
「あいつって? あぁ、ゾロのことか」
「そうだ。みんな反対してる。それは解ってんだろう? しかも仲間になんてぜってーダメだ。誰もうんとは言わなかったよな?」
「それはまぁ……」
サンジが目撃した翌日、サンジは正直に彼らのことをみんなに話したのだ。秘密にしておけることではない。もし、自分達の知らないところで船長がロロノアとトラブルでも起こしたら対処のしようがない。
そのこともサンジはよーく言って聞かせたつもりだ。けれどルフィときたら、
『おれは絶対ゾロを仲間に引き入れるんだ! 諦めるつもりはねェ!!』
と言い張ったから頭が痛い……。
ルフィとロロノアの恋仲を知ったときのナミさんの真っ青な顔は今でもサンジの心を痛める。
意外なことにロビンちゃんは「私は知っていてよ?」と恐ろしい暴露をした。彼女の能力はどこにでも自分の体の一部を咲かせることだから、二人の密会をどこかで見聞きしたのかもしれない。
ウソップは泡を吹いてぶっ倒れ、チョッパーは医者ー!と大焦り、フランキーは動揺で躍り出し、ブルックは「若気の至りでしょう」と呑気なものだったが、最後、我に返ったナミさんの制裁はそりゃもう恐ろしいものだった……(震え声)。
でもルフィは諦めちゃくれなかった。別れるつもりもないと言った。
なぜなら、大好きだから……。
いやいやお前、それって。それ、ただのワガママだからな!?
「まぁ燃え上がってる内は周りが何言っても無駄なもんなんだよな。あ、お前らのデートコースってどんなんだ?」
気を取り直し、サンジは質問を変えることにした。
「でーと? デザート?」
「違う! たまに会って何してんだよ、二人で」
「えっちしておわり」
「……はぁ?」
「あ、たまーにメシ奢ってくれる!」
「ルフィはそれで満足なのか……?」
恋人との貴重な時間をただヤるだけなんて、サンジにすれば考えられない。自分ならアレコレ……と妄想し始めて直ぐ様ストップ。
あああ彼女ほすぃ~~。
「ゾロの″好き″の表現はな、多分えっちすることなんだ。そりゃおれだってふつーに遊園地とかで遊びてェよ? けどまぁいいんだ! 会えるだけでおれは満足!!」
「そんっっなにあのロロノアってクソ剣士が好きなのかっ?」
「好きだ」
どきっぱり。
「お前らってどうやってその……両想いになったんだ?」
「それはなァ、うーん、おれゾロ大嫌いだったんだけども……」
「へェ。そうなのか。じゃあなんでまた」
「おれんことしつっこく追っかけてくっから逃げ回ってたんだけどさ、ある島で再会したとき、おれんこと海賊狩りから助けてくれたことがあって……」
「そんなことでほだされたのか?」
「まさか! 邪魔すんなって怒ったに決まってんじゃん」
「だよな。それから?」
「おれがそいつぶっ飛ばそうとしたら、また止めるんだよ」
「どっちの味方なんだ」
「それがよー、その海賊狩りの子供がおれの恩人の女の子で、そいつぶっ飛ばしたら後悔すんのはお前だぞ!って……だからおれのこと止めに来たって言うんだ!」
「ほう~。そういうのに弱ェよなァ、ルフィは」
「う、うん。ゾロって案外いいやつだなーと……」
「それで惚れたのか?」
「違う! ちっと見直しただけだ! だってゾロのやつ手が早ェんだっ」
ルフィが少しばかり赤くなった。続けて、
「会うとキスしたり、触ったりしてきやがって……好きだからって言うけど、なんつーか……」
「なるほど。信用しきれなかったと」
「そう! おればっかドキドキして腹立つんだよ!!」
「もうそれ惚れてたんだぜルフィ……」
「マジで!? で、でもちゃんと抵抗したぞ!?」
「抵抗したらやめてくれたんだろ?」
「あれ? そういやおれが誘ったとき『おれに惚れてねェから』ってヤらなかったぞ?」
「なんで誘ったんだよ……」
「色々あったんだそんとき」
「お前ってなにげに謎だらけだよな」
「何話していいかわかんねェもん。冒険すんのに必要ねェし」
「まぁな」
それにお互い様かもしれない、生い立ちに関しては。
「でもゾロは最初からおれんこと色々知ってたんだ。そんで初めて会った日に一目惚れしたって! おれまだ15だったんだぞ!?」
「そんな前からお前に目ェつけてたのかあいつ!」
それなりに長い片想いだったようである。そこだけは共感できる。
おれも片想い専門だから……(凹む)。
「なるほど。けどルフィ、これだけはおれにも言えるぜ。奴はお前の気持ちに気付いたとき、初めて抱く決心をしたんだろう」
「そっかァ、だからあの日はイヤだっつってもやめてくんなかったんだ……。でもこれで良かったって思ったんだよ。だってな! ゾロと何度か一緒に敵ぶっ飛ばしておれ解ったんだ、コイツとは呼吸っていうか、考えてること一緒っていうか、すんげー戦いやすいんだ! すんげー気持ちいいんだそれが!! ゾロに言ったら『おれもだ』って。おれめちゃくちゃ嬉しかった!!」
力説するルフィがキラキラと顔を輝かせる。相棒を見つけていたのだ、ルフィはその時点で無意識に。
「なんとなく解るよ。根本は似た者同士だったってことだな」
「うん! でな、いっぺんだけだけど二人きりで閉じ込められたことがあって、このままおれ達死ぬかもなーとか言ってよォ。でもゾロと一緒だからちっっとも怖くなかったんだ。ししし!」
「はは~ん、読めた。そこで結ばれたわけかァ」
「サ、サンジはなんでさっきから全部お見通しなんだ!?」
「恋愛におけるあらゆる状況と心情を経験上知っているからさ!!(どーん)」
ま、妄想も含むけどな……。
「へ~~。すんげーんだなぁサンジって。おれゾロだけだからなー」
「リスペクトしていいぜ☆」
「リス何?」
「ともかく……。ルフィはロロノアに運命感じちゃったわけね?」
「そうだ! おれの右腕はゾロしかいねェ!!」
「そうやってお前を信用させていつか一味もろとも一網打尽にする布石にしようと企んでる……」
「え?」
「とは、思わねェのか?」
「そんときはそんときだ。みんなはおれが守る!!」
「でもどうせお前はロロノアのことも諦めねェんだろ……」
「ほんっとよく解るよなァ~~」
「はいはい」
ルフィがおれ達を裏切ってロロノアの元へ走ることはない。それだけは絶対に。そのことだけは言い切れる。
だからまだ、我慢もできるわけだけれど。
「殺されんなよ、あいつに」
ただこれだけが心配だから……。
「ゾロには無理だと思うぞ?」
「どうしてそう言い切れる? おれ達は立場が違う。ロロノアがルフィを殺さなきゃならねェ状況に陥ったとしたら?」
「さぁ? 周りのやつら斬るんじゃねェ?」
「その自信はどっから来るんだ!?」
ルフィはじゅるるる、とドリンクを飲み干すと、ごちそうさま!と手を合わせて。
それからサンジが見たこともないようなキレイな笑顔を浮かべると、
「ゾロだから!!」
と、分けのわからないことをほざいたのだった。
何それ……。
「飲んだらもう寝ろ……」
「はーい」
よっ、とルフィがスツールから飛び降りる。それから、
「ありがとなサンジ。聞いてくれて」
「は? 喋らせたのはおれだろ」
「うんでも、それでも!」
「どういたしまして」
恋する船長の殊勝な言葉にサンジはニィ、と笑って応えた。
あんな男に夢中な船長を本当は嗜め諦めさせなきゃいけないのに。
おれァ、マジで甘ェよな……?
こりゃあナミさんには報告できない。
けれど幸せそうなルフィの笑顔は何物にも代えがたく──。
おやすみー!と言ってルフィがパタパタと食堂を出ていった。
「おれももうちっと仕込みやって寝るかァ」
この一味にあのロロノア・ゾロが加わるかどうか、それはまだまだ解らない先の話だ。
否、もしかしたら案外すぐなのかもしれない。
おれァ来て欲しくねェがな! あんなエロ剣士──!!
やれやれ、とサンジは肩を鳴らして。
再び静寂を取り戻したサニー号に、コックのジッポの音だけがカチンと響いた。
(おわり)
こんな感じの馴れ初めなのでした。いつかちゃんと初えっち編書きたいな~。
ええ、ただの私得ですけども( ´,_ゝ`)
実はラストも考えてあります。
そこからくすくすと笑い声が聞こえてくる。
岩陰に停泊中のサニー号は静かなもので、夜風でも入れるかと食堂のドアを開けたサンジの元にその声は漏れ聞こえてきた。
「またうちの船長はこそこそと」
恋人と密談中のようである。
最近はごくたまにだが、ああやってルフィは恋人のロロノアと電伝虫で楽しそうに会話している。
そりゃあ? 遠恋中の彼氏の声を聞きたいのは当然の衝動だと恋マスターサンジは思うのだが。
「この間のドンパチはおんもしろかったよな~。大砲どーんどーん!つってよ!! ……うん、うん、なははは!」
この間のドンパチ、とは先日のロロノア軍とのアレだろうか。
ルフィはそりゃもう嬉しそうにロロノアと海を挟んでやりあっていた。
海賊と海軍。単純に敵同士。
そんな関係にあっても彼らの恋仲は途切れることがない。ばかりか、上陸すればふら~っといなくなっちまってこっちは大迷惑してるっつーの!!
「お気楽なもんだぜ全く。おーおー、あからさまに恋するモンの顔しやがって……。生意気な」
サンジはタバコを蒸かせながら煙と一緒にはーーっと長いため息を吐いた。
まぁちっとは羨ましいけどな、独り身としちゃあ……。
ちなみに会話はそんなに長くない。
通話を終えたのだろう、ルフィが「じゃあまたな~」と電伝虫をポッケに大事そうにしまった。
それから一目散に駆けて来た先は。
「あ、サンジやっぱまだ起きてたんだな! 食堂の灯りついてたから」
「おう、なんか飲むか?」
「飲む飲む!!」
バタバタと食堂に飛び込んだルフィがカウンターのスツールにちょこんと腰掛けた。
サンジはキッチンへ回るとよく冷えたドリンクをカウンターテーブルのルフィの前へ、すっと差し出してやる。
「いただきます!」
お行儀よく手を合わせ、ちゅるちゅるストローを吸い出したルフィにサンジは肩を竦め、過去一度だけ遭遇した密会現場を思い出していた。
抱かれたばかりのルフィは悔しいがちょっと色っぽかった。
ルフィとロロノアの付き合いは自分達より長いらしい。その頃から体の関係にあるのだと言っていた。
こんなガキがあの男に抱かれてるなんて……。
ルフィの赤いベストの胸元にサンジはなんとなく目が行き、またため息を吐いているとルフィがこてんと首を傾げた。
「サンジ? どした?」
「お前さ、あいつと別れる気はねェのか?」
直球で聞いてみた。
「あいつって? あぁ、ゾロのことか」
「そうだ。みんな反対してる。それは解ってんだろう? しかも仲間になんてぜってーダメだ。誰もうんとは言わなかったよな?」
「それはまぁ……」
サンジが目撃した翌日、サンジは正直に彼らのことをみんなに話したのだ。秘密にしておけることではない。もし、自分達の知らないところで船長がロロノアとトラブルでも起こしたら対処のしようがない。
そのこともサンジはよーく言って聞かせたつもりだ。けれどルフィときたら、
『おれは絶対ゾロを仲間に引き入れるんだ! 諦めるつもりはねェ!!』
と言い張ったから頭が痛い……。
ルフィとロロノアの恋仲を知ったときのナミさんの真っ青な顔は今でもサンジの心を痛める。
意外なことにロビンちゃんは「私は知っていてよ?」と恐ろしい暴露をした。彼女の能力はどこにでも自分の体の一部を咲かせることだから、二人の密会をどこかで見聞きしたのかもしれない。
ウソップは泡を吹いてぶっ倒れ、チョッパーは医者ー!と大焦り、フランキーは動揺で躍り出し、ブルックは「若気の至りでしょう」と呑気なものだったが、最後、我に返ったナミさんの制裁はそりゃもう恐ろしいものだった……(震え声)。
でもルフィは諦めちゃくれなかった。別れるつもりもないと言った。
なぜなら、大好きだから……。
いやいやお前、それって。それ、ただのワガママだからな!?
「まぁ燃え上がってる内は周りが何言っても無駄なもんなんだよな。あ、お前らのデートコースってどんなんだ?」
気を取り直し、サンジは質問を変えることにした。
「でーと? デザート?」
「違う! たまに会って何してんだよ、二人で」
「えっちしておわり」
「……はぁ?」
「あ、たまーにメシ奢ってくれる!」
「ルフィはそれで満足なのか……?」
恋人との貴重な時間をただヤるだけなんて、サンジにすれば考えられない。自分ならアレコレ……と妄想し始めて直ぐ様ストップ。
あああ彼女ほすぃ~~。
「ゾロの″好き″の表現はな、多分えっちすることなんだ。そりゃおれだってふつーに遊園地とかで遊びてェよ? けどまぁいいんだ! 会えるだけでおれは満足!!」
「そんっっなにあのロロノアってクソ剣士が好きなのかっ?」
「好きだ」
どきっぱり。
「お前らってどうやってその……両想いになったんだ?」
「それはなァ、うーん、おれゾロ大嫌いだったんだけども……」
「へェ。そうなのか。じゃあなんでまた」
「おれんことしつっこく追っかけてくっから逃げ回ってたんだけどさ、ある島で再会したとき、おれんこと海賊狩りから助けてくれたことがあって……」
「そんなことでほだされたのか?」
「まさか! 邪魔すんなって怒ったに決まってんじゃん」
「だよな。それから?」
「おれがそいつぶっ飛ばそうとしたら、また止めるんだよ」
「どっちの味方なんだ」
「それがよー、その海賊狩りの子供がおれの恩人の女の子で、そいつぶっ飛ばしたら後悔すんのはお前だぞ!って……だからおれのこと止めに来たって言うんだ!」
「ほう~。そういうのに弱ェよなァ、ルフィは」
「う、うん。ゾロって案外いいやつだなーと……」
「それで惚れたのか?」
「違う! ちっと見直しただけだ! だってゾロのやつ手が早ェんだっ」
ルフィが少しばかり赤くなった。続けて、
「会うとキスしたり、触ったりしてきやがって……好きだからって言うけど、なんつーか……」
「なるほど。信用しきれなかったと」
「そう! おればっかドキドキして腹立つんだよ!!」
「もうそれ惚れてたんだぜルフィ……」
「マジで!? で、でもちゃんと抵抗したぞ!?」
「抵抗したらやめてくれたんだろ?」
「あれ? そういやおれが誘ったとき『おれに惚れてねェから』ってヤらなかったぞ?」
「なんで誘ったんだよ……」
「色々あったんだそんとき」
「お前ってなにげに謎だらけだよな」
「何話していいかわかんねェもん。冒険すんのに必要ねェし」
「まぁな」
それにお互い様かもしれない、生い立ちに関しては。
「でもゾロは最初からおれんこと色々知ってたんだ。そんで初めて会った日に一目惚れしたって! おれまだ15だったんだぞ!?」
「そんな前からお前に目ェつけてたのかあいつ!」
それなりに長い片想いだったようである。そこだけは共感できる。
おれも片想い専門だから……(凹む)。
「なるほど。けどルフィ、これだけはおれにも言えるぜ。奴はお前の気持ちに気付いたとき、初めて抱く決心をしたんだろう」
「そっかァ、だからあの日はイヤだっつってもやめてくんなかったんだ……。でもこれで良かったって思ったんだよ。だってな! ゾロと何度か一緒に敵ぶっ飛ばしておれ解ったんだ、コイツとは呼吸っていうか、考えてること一緒っていうか、すんげー戦いやすいんだ! すんげー気持ちいいんだそれが!! ゾロに言ったら『おれもだ』って。おれめちゃくちゃ嬉しかった!!」
力説するルフィがキラキラと顔を輝かせる。相棒を見つけていたのだ、ルフィはその時点で無意識に。
「なんとなく解るよ。根本は似た者同士だったってことだな」
「うん! でな、いっぺんだけだけど二人きりで閉じ込められたことがあって、このままおれ達死ぬかもなーとか言ってよォ。でもゾロと一緒だからちっっとも怖くなかったんだ。ししし!」
「はは~ん、読めた。そこで結ばれたわけかァ」
「サ、サンジはなんでさっきから全部お見通しなんだ!?」
「恋愛におけるあらゆる状況と心情を経験上知っているからさ!!(どーん)」
ま、妄想も含むけどな……。
「へ~~。すんげーんだなぁサンジって。おれゾロだけだからなー」
「リスペクトしていいぜ☆」
「リス何?」
「ともかく……。ルフィはロロノアに運命感じちゃったわけね?」
「そうだ! おれの右腕はゾロしかいねェ!!」
「そうやってお前を信用させていつか一味もろとも一網打尽にする布石にしようと企んでる……」
「え?」
「とは、思わねェのか?」
「そんときはそんときだ。みんなはおれが守る!!」
「でもどうせお前はロロノアのことも諦めねェんだろ……」
「ほんっとよく解るよなァ~~」
「はいはい」
ルフィがおれ達を裏切ってロロノアの元へ走ることはない。それだけは絶対に。そのことだけは言い切れる。
だからまだ、我慢もできるわけだけれど。
「殺されんなよ、あいつに」
ただこれだけが心配だから……。
「ゾロには無理だと思うぞ?」
「どうしてそう言い切れる? おれ達は立場が違う。ロロノアがルフィを殺さなきゃならねェ状況に陥ったとしたら?」
「さぁ? 周りのやつら斬るんじゃねェ?」
「その自信はどっから来るんだ!?」
ルフィはじゅるるる、とドリンクを飲み干すと、ごちそうさま!と手を合わせて。
それからサンジが見たこともないようなキレイな笑顔を浮かべると、
「ゾロだから!!」
と、分けのわからないことをほざいたのだった。
何それ……。
「飲んだらもう寝ろ……」
「はーい」
よっ、とルフィがスツールから飛び降りる。それから、
「ありがとなサンジ。聞いてくれて」
「は? 喋らせたのはおれだろ」
「うんでも、それでも!」
「どういたしまして」
恋する船長の殊勝な言葉にサンジはニィ、と笑って応えた。
あんな男に夢中な船長を本当は嗜め諦めさせなきゃいけないのに。
おれァ、マジで甘ェよな……?
こりゃあナミさんには報告できない。
けれど幸せそうなルフィの笑顔は何物にも代えがたく──。
おやすみー!と言ってルフィがパタパタと食堂を出ていった。
「おれももうちっと仕込みやって寝るかァ」
この一味にあのロロノア・ゾロが加わるかどうか、それはまだまだ解らない先の話だ。
否、もしかしたら案外すぐなのかもしれない。
おれァ来て欲しくねェがな! あんなエロ剣士──!!
やれやれ、とサンジは肩を鳴らして。
再び静寂を取り戻したサニー号に、コックのジッポの音だけがカチンと響いた。
(おわり)
こんな感じの馴れ初めなのでした。いつかちゃんと初えっち編書きたいな~。
ええ、ただの私得ですけども( ´,_ゝ`)
実はラストも考えてあります。