新世界不文律

ルフィは冒険前のようにワクワクしていた。

エースが海へ出て3年。
2年ほど前に僅か数分の再会を果たしたが、ゆっくり会えるのは3年振りなのだ。
サニー号のソルジャードックシステム「メリー2号」で一人、モビー・ディック号に乗船したルフィは、迎えてくれたエースやその船長やそれはそれは大勢の仲間達に顔を輝かせた。

「エース~~!! 会いたかった!」
「あぁ、おれもだぜルフィ! よく来たなァ元気そうでよかった。ちっと背が伸びたか?」
「エースはもっと伸びてるじゃん」
「おうよ。おれァもう大人だ」
不遜な兄の面影は昔のままだが、確かに3年前よりグッと体格も立派になって貫禄がついた。何よりの変化は背中の刺青、四皇でありエースの船長“白ひげ”のマークが刻まれていること……。
エースは今この海賊団の一員で、伸び伸びとその実力を発揮しているのだ。

「“麦わら一味”の噂はおれらの耳にも届いてるぜ? 海軍や政府相手に派手にやらかしてんじゃねェか」
「それはあっちが悪ィんだもんよ」
「ハハハ、相変わらずめちゃくちゃだな。まぁそれでこそおれの弟だ!」
「おうっ! エースも今度おれの船に来いよ!」
「あぁ必ず」
それから、エースは船長と仲間達の紹介をそりゃもう嬉しそうに始めた。その一人一人がルフィに温かい言葉を寄越してくれる。
エースいい顔してんなぁ、とルフィはなんだか安心するのだ。
「ルフィ、新世界は今“白ひげ”の時代なんだぜ! おれは白ひげを海賊王にしたいと思ってるんだ」
「えー海賊王はおれがなるんだぞー!? でもまぁ今はいいや、よろしくな白ひげのおっさん! にしてもデケー」
「おっさん言うなっ。おれ達のオヤジだ!!」
ポカ、と弟の頭を殴ったエースに白ひげは地響きするような笑い声を上げ、ルフィの頭を指先だけでグリグリ撫でたが、ルフィは「オヤジ?」と首を傾げた。
エースの父ちゃんは亡き海賊王、ロジャーなのに??
白ひげはまたグラララと笑うと、
「坊主、覚えておけ。この船に乗ってんのは全員おれの愛する息子さ……」
愛と情に充ちた、護るものの声。
そしてそんな白ひげを見つめるクルー達の信頼しきった面差しをルフィは目の当たりにし、あぁそっかエースもそうなんだ、とすとんと納得した。
「エースは今コイツらと冒険できて楽しいんだな!」
「もちろん。かけがえのねェ家族だからな。……なぁルフィ、あっちで話さねェか?」
「ん?いいぞ?」
前甲板でルフィ歓迎の宴が始まったのを尻目に、ルフィはエースに連れられてみんなとは少し離れたデッキへ移動した。
兄と肩を並べ、海を眺めるのなんて本当の本当に久しぶりで……夢を語ったあの頃が蘇ってくるようだ。
「ルフィ、うちに来ねェか? 白ひげ海賊団に」
「へ……?」
「お前の仲間も一緒でいい」
「いやだ。おれは船長がいいんだ! ガキんころもそれでサボと3人で喧嘩したじゃんか」
「そうだったな……覚えてるよ。気にすんな、言ってみただけだ!」
「なーんだァ」
「この話しは終わり終わりーっと。で? ルフィの仲間はどんな奴らだ? 迷惑掛けてねェか? 不肖の弟を持つと兄ちゃん心配でよォ」
「失敬だな! その辺は安心していいぞ。それにもうすぐすっげー強ェ仲間を一人増やすつもりなんだ。剣士でめちゃくちゃカッコいいんだ!!」
「へぇ……どこの島の珍獣だ?」
「人間だぁー!」
「わははは! 冗談だよ。むしろ兄としてルフィには謝りてェと思ってた……。2年前の件、心配掛けてすまなかったな。まだお前は海賊にすらなってなかったのに……」
「いんや! うまく逃げられてよかった!!」
「あそこにいるマルコが助けてくれたんだぜ? とばっちり食ったおれの当時の仲間は無事逃がしたんだが、あと一歩のとこで海軍に囲まれちまって……そんときおれは空を飛んだんだ!」
「空ァ!?」
「マルコはよ、スゲー綺麗な青い炎の翼を持ってて、気付いたら雲の上さ。ありゃあ気分最高だったな~」
「いいなー! アイツ、バナナみたいな頭うまそうなのに……」
「おいルフィ! バナナでもパイナップルでもいいが食うなよ!?」
チラ、とこっちを向いたマルコと目が合い、二人は慌ててそっぽを向く。
「おれも乗せてくんねェかな……」
「ダ、ダメだぞっ!!」
「エース何ムキになってんだ?」
「ゴホゴホゴホッ。で~、それ以来おれは白ひげのナワバリでオヤジに守って貰ってるわけだ。みんなこんなおれを愛してくれる……。おれは初めて、生まれて来て良かったと思えた」
エースがすこし赤くなったそばかすほっぺを掻き掻き、あーでも!とルフィに向き直った。
「?」
「ルフィとサボと兄弟になれたことがいちばん最初の良かったことだな!」
ばんばん照れ隠しに背中を叩かれ、ルフィは噎せながらも「あったり前だ!」と返してやった。

「そういやエースも悪魔の実を食ったんだな」
「あぁ。メラメラの実、ロギア系だ。ルフィのゴムゴムの実はパラミシア系だっけか」
「うん。エースにはガキのころから勝てたことなかったのに……またスゲー強くなったんだろ!?」
「当然! まだまだルフィには越えさせてやれねェな~」
「ちぇ」
「そういや海軍にスモーカーっているだろう? 奴とは相性最悪でさっぱり決着がつかねェ。火と煙だからよ」
「おおケムリンかァ」
「ケムリン!? そいつァいい!」
ゲラゲラ笑うエースにルフィは「笑いすぎだ」とむすくれる。煙だからケムリン、それだけなんだけど?

しかし、ルフィの墓穴はここから掘られていくのである。

「ケムリンも強ェけどさ、ゾロもすげー強ェんだぞ!? 刀3本も使うんだ!」
「ゾロ……? G5の“隻眼の剣士”か? あれも相当強ェよなー、おれも何度か追い詰められたことがある」
「マジで!?ヘェ~!」
「なんで嬉しそうなんだよ……」
「き、気のせいだろ。ぴゅ~ぴゅ~♪」
「相変わらず嘘吐けねェなお前……。けどアイツ撒くのは簡単なんだ、勝手に右に反れてくから」
「あははっ。ゾロは方向音痴なんだよ」
「……やけに詳しくねェ? 実はおれァ、アイツには借りがある」
「借り!? なんでだ?」
「逃がして貰ったことがあるんだ。何を思ったか知らねェが『この島は管轄外だ』とか言ってよ……。ルフィ、ロロノアに目ェ付けられてんだって? お前とロロノアが一緒いるとこを見たって奴がいる。それもどっかの連れ込み宿から二人で出てきたって……。お前じゃねェよな?」
「へっ? あーうん。違うんじゃねェかな~~」
ぴゅ~♪ぴゅ~~♪
「ほんっと嘘吐けねェなお前は……! どう言うことか説明しろ!」
「どうって、だからっ……ゾロはおれんこと好きで、たまに連絡来て……っ」
「は?」
「2年前もだからおれ、体使って止めようと思って呼び出して──」
「はァァ!?」
「エ、エースうるせェ……」
「そ、それで、その、ロロノアと……ややややったのかァ!?」
ボッ、と真っ赤になったエースにもしかしてコッチ方面はおれのが上かな~?と暢気なことをルフィは考えながら、「そんときはやってねェ」と正直に答える。
「そんときは……? 他は!?」
「それは、えっとぉ~」
「ま、まさか、アイツがおれ逃がしたときもルフィが一枚噛んでたとか言うんじゃ……」
「や、あんときも結局最後までしなくて、おれはてっきりエースは自力で逃げたと思ってたんだ。そっかぁ、ゾロ約束守ってくれたんだ……!」
「喜んでんじゃねェー! もう二度とおれのためにロロノアに、その、だっ、抱かれるようなマネは……!」
「え、違うぞ!!」
「ルフィが抱いてんのかぁ!?」
「それも違う! おれがゾロに会うのは好きだからだ。好きだからえっちしてんだよ、エースは関係ねェ!」
「好きィィ!?」
メラメラメラァァ……!
「ぎゃああぁなんで怒るんだよー! つーかあぢィ! あちちち!」
「ルフィ…お前……仲間にしたい剣士…ってのは……」
「おうっ、ゾロだ♪」
「兄ちゃんは許さァァん!!」
「ええェ~~っ!?」


「おいおい、エースと弟が喧嘩始めたよい……。サッチ止めて来い」
「おれェ!? やだよォ。燃やされちまうよー。エースの教育係はマルコだろォ?」
「いつからだい……」
「ま、ま、ただの兄弟喧嘩じゃねェの。ほっとけほっとけ♪」
「……」
面白がるサッチにマルコは嘆息するも、早くも「どっちが勝つか」で賭けが始まっている。
麦わらは間違いなく万馬券だ。
オヤジに目配せすれば「適当な頃合いで海に放り込め」とニンマリ言われ、「了解」と頷いたマルコはいつだったか、弟の手配書を見せびらかしてにっこにこの愛嬌たっぷり笑顔を振り撒いていたエースを思い出し、
「その賭け、おれも1口乗るよい」
ふっと相好を崩すと、“弟”に賭けた。



(END)

このあとルフィは全く言うこと聞かなくて兄ちゃん根負けしてマルコ一人勝ちです(笑)

ルフィとゾロの関係は一応エース公認になりました☆
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