19×17

「アイツらがあんな風にじゃれあってるの、珍しいと思わない? サンジくん」
「あー、ホントですね。何やってんでしょう?」
「見たまんまじゃないのぉ?」

食堂の丸窓から、ナミとサンジが並んでこっそり様子を伺っているのは、芝甲板で戯れている麦わらの船長とその相棒の剣士、計2名。
彼らは芝の上に胡座を掻いてこちらに背を向けてはいるが、何やらじゃれあって楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
すると剣士が船長のくちびるをビヨーンと引っ張って、ニヤニヤしながらイタズラを仕掛けていって。
船長は伸びたクチに文句を言っているのか、細い眉を吊り上げ剣士の腕を両手で掴むも、離して貰えず草履の足で蹴りまで入れた。
「ゾロでもあんなことするのねー。ルフィやウソップならわかるけど」
「キャラじゃないですね。キモッ」
ばちん!と剣士が指を離せば期待通り船長はひっくり返り、でも勢いよく起き上がると剣士をポカポカ殴った。

「暇なのねー」
「暇なんでしょうねー」
陽気もよく、波はおだやか。航海は順調だ。
大口を開けて笑う剣士に船長も釣られて腹を抱えて笑い出した。
今が大海賊時代で、彼らが海賊ではなく、傍らにあるのが刀じゃなくて戦い方も知らなければ、ごくごく普通の若者達の呑気な光景──。
「平和だわ~~。特に、あの二人が笑ってると」
「そうですねえ、今は束の間の平和です」
束の間の平穏な日々。いつまで続くやらわかるわけもないけれど。

「あれ?ナミさん、あの二人が急におとなしくなりましたよ?」
「あらホント。何見つめ合っちゃってんのかしら」
じぃ、と船長が剣士を見ている。
剣士も、隣の船長を見ている。
ぱちりぱちり船長が瞬きすると、芝に片手をついた剣士の顔がゆっくりと近寄っていって。
「ルフィの顔に虫でも止まってんじゃない?」
「クソ剣士なら箸で飛んでるハエも掴めそうですね」
「あはは! できるできる!」
「あーいや、でもルフィの方も……?」
船長までも少し剣士に肩を傾けるので、また数センチ二人の顔の距離が縮まった。
「サンジくん……」
「ナミさん?」
「近い! 近い近い近い!」
「すすすいませんっ」
「サンジくんのことじゃないわよ!!」
「!!?」

逸らされない、目と目。翠と黒の。
先にその目蓋を閉じたのは船長。
そのくちびるに触れたのは、剣士の──。

「キ、キ、キスしたーー!!」
ナミとサンジが同時に叫んだ。
「あれキスよね? サンジくんキスよね!?」
「確実にキスですよナミさぁぁん!お、おれ達も……ん~~っ」
「するかぁ!!!」
バッチーーン。
「強烈なナミさんも素敵だぁ~♡」
「あ、ほら見て、離れたわ」
「一体どういうつもりだあんのエロ剣士!?」
思わず丸窓にかじりつく目撃者のコック&航海士。
その後の二人を要注視、観察スタート。
船長→特有の「ししし」笑いで楽しそう?
剣士→頭に?マーク3つ浮かべて首を捻る
「なんでキスしたかわかってない感じ?」
「マリモはそうですね。ルフィはスキンシップの延長とか?」
「ありえるわ。あっ、なんかルフィがゾロの腹巻き引っ張ってるけど、あれは何?」
「もっかいやろう! のオネダリでは?」
「ゾロは牙剥いて抵抗してるわよ、さっきと立場逆転ね!」
「ま、時間の問題ですね」
「そうね時間の問題ね。……ほらほら!」
根負けした剣士が船長にチュッ、とキスした。
またルフィがしししっと笑って、剣士の苦虫を噛み潰したような顔にまた笑う。

「『ゾロもっかいもっかい~』」
「『もうダメだ! 離せルフィ!』」
「『いいじゃんかよーゾロのケチんぼー』」
「『そう言う問題じゃねェ!』」
「『ゾロのケーチケーチ! ケチマヌケ~』」
「『てめェ…! その勝負買ったぁ!!』」
サンナミの予想実況中継は満更外れていなかったのか、がばぁっと剣士が船長を押し倒してしまった。
剣士の噛みつくようなキスは文字通りの、ケモノのような荒々しさで、仕掛けたくせに船長のでっかい目は今にも落っこちそうなほど見開かれている。
「また形勢逆転ですナミさぁん!」
「でも負けず嫌いのルフィが黙っちゃいないわよ。やっちゃえやっちゃえー!」
「過激なナミさんも麗しい♡」
「や、やだゾロったら……舌入ってない!?」
「確実にインです!!!」
「ルフィ負けるなっ! 反撃よ!」
「いやいや経験ではゾロが上ですから、そう簡単には」
「でもあの暴れよう、舌噛まれちゃうんじゃない?」
「そんなもん百も承知でねちっこいディープかましてますよ、ありゃー」
「サンジくん、私達も勝負!」
「デ、デデディープキスのですかぁ!? よ、喜ん──」
「賭けるわよっ!! 私はルフィがゾロをはっ倒して逃げ出すに1000ベリー」
「そっちでしたか……。じゃあ、おれはゾロがこのまま襲っちまうに1000ベリー」
「いやん、サンジくんのエッチ♡」
「メ~ロリン♡ メ~ロリン♡」

いざ、勝負。


「ん、んんっ……こらこらゾ…っんー!」
クチの中で暴れまわるゾロの舌にルフィはその肩をドンドン叩いた。
ゾロは、ルフィのゴムくちびるとかゴムベロとか、甘ったるい口内がやったらツボにハマってしまい、仕返しのつもりがいつしか本気のキスに変わっていた。
もっともっと、貪りたい。
やがてルフィは海の中でもないのにだんだんとカラダのどっこにも力が入らなくなってきて、気付けばゾロを殴っていた手で必死にその背に掴まっていた。
「は…っ、ふぅ…ん…っ」
ゾロの手が何度もルフィの黒髪をすく。
そのくちびるが大満足して離れていったころ、二人の息はハァハァと忙しない。
その呼吸がやっと落ち着いて、
「納得したかよ、ルフィ」
「うん! すんげェチューしちまったな!!」
ゾロが笑顔のルフィを見下ろして、唾液で濡れたルフィの口許をごしごし親指で拭った。
「チュー…かぁ」
ゾロ、なんかズーン……。
「ほんじゃ次はおれの番だぞ~~♪」
「はぁ!?」
ヤル気満々のルフィにゾロがくるんとポジションチェンジ&押し倒されて、ルフィのヘッタクソなキスをさんざんお見舞いされるのは、僅かこの1秒後のことである。


「ドローね……」
「ドローですね」
サンナミの予想は外れてしまったので。
「ったくお金にならないんだから。あの二人使えな~い」
「辛辣なナミさんも美しい~♡ で、奴らどうします? ヤキ入れますか?」
「ほっときなさい! サンジくん、美味しいお紅茶でも入れてくださるぅ?」
「イエスんナミさぁ~~ん♡」
くるくるくるくる。

「束の間の平和くらい、多目に見てあげるわ」
「お優しいナミさんが大好きだぁあああ!!!」



(どっとはらい)
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