19×17
幽霊船の甲板で、歌うガイコツがティーカップ片手にこちらを見ていた。数分前の出来事だ。
「いいかルフィ、行かせてはやるが、絶対ェバカやるんじゃねェぞ」
いざゴーストシップへ出発!という矢先、ハズレくじを持った手とは反対の手で船長の細い手首を掴み、ゾロはクルー達の目の届かない所へルフィを引っ張って来るなりそう脅しをかけた。
ついでに目の前でバキッとくじを折ってみせる。
麦わら海賊団で唯一、船長への決断権を暗黙の了解で得ているのがこの相棒、ゾロである。
「ゾロが船長みたいだな……」
きゅっと眉を寄せたルフィが追い詰められた壁を背負いそんなことを言った。上目遣いに見上げてくるこの顔に弱いことは皆には内緒だが、さっきみたいな、動くガイコツを見付けた途端、
『行こう? すぐ行こう!?』
と顔を輝かせておねだりモード全開のわがまま船長には、皆が弱いという事実を仲間達は気付いているのかいないのか。
「あ! 解った! ホントはゾロも動くガイコツに会いてェんだろ!!」
「聞いてたか人の話し!!」
思わずゴチンッと拳骨を食らわせたらルフィが「イテェ!!」と頭を押さえた。
「ざけんなイテェわけねェだろ。お前に打撃が効くかよゴム人間が」
「ゾロ知らねェのか、それはゾロがおれんこと好きだってしょーこなんだぞ? 愛ある拳は効くんだ! おれのじいちゃんが言ってた!!」
「……で?」
「ダイジョーブ! おれもゾロ大好きだっ!!」
「んな心配してねェよ……」
「?」
ルフィがわからない顔して首をかしげた。そんなルフィにゾロは少々ため息を零しつつ、「つーか…」と視線を船長の胸元に落とした。ゾロの目線を追って、ルフィが俯く。
いつもと違うオレンジ色のベストのボタンが全部外され、生の肌が見え隠れしている。
ゾロがするっとルフィの素の胸に大きな掌を滑らせれば、ルフィが「うひゃひゃくすぐってェ!!」と豪快に笑って背筋をピンと伸ばした。
「最近お前、無防備すぎねェか?」
「なにが?」
……言ってもわかんねェか。
「とにかく頼むぞ船長。一人で暴走すんなよ?」
「おお! 解ってる解ってる!!」
「てめェの“解ってる”ほど信用できねェもんはねェよなァ……」
経験上。
またゾロはため息を吐いて、胸に当てていた手をルフィの顔の脇に着いた。そして何の前触れもなく、笑みの形をしたルフィの唇に自分のを重ね、ほどなくして離す。
「ゾロがちゅうした……」
「おう」
自分は少しばかりこの船長の鼻をあかしてやりたかったのかもしれない。ポカンとしたバカ面に、ゾロはとりあえず成功だと内心ほくそ笑んだ。
「び、びっくりすんじゃん!!」
真っ赤になるあたりも剣士の気分をよくさせる。
「ついでだ」
「つ、ついでか。…んじゃおれもお返しだ!!」
「は?」
けれども残念なのがこの後の展開だ。破天荒なルフィの行動など、常に冷静な判断でもって行動するゾロに予想できるはずないのだから……。
ゾロはルフィにぶつけるようなキスを見舞われ、唇の痛み耐えながら口を押さえた。
「あ~悪ィ悪ィ!」
「て、てめ…」
「なぁなぁ! もう行っていいか!?」
見ればたじたじうずうず体を揺すっているルフィ。子供かお前は(子供だけど)。
「どうすっかなァ」
「う゛~~…」
うずうずうず。たじたじたじ。
「ったく……、行けよ!!」
「ありがとう行ってくる!!」
言うなりどぴゅーんとルフィが駈け出した。
「早…」
しかし何を思ったのかピタッと足を止め、くるんとルフィは振り返って、
「ゾロ!!」
「あ!?」
「くじもありがとなーっ!!!」
天真爛漫に笑ってまたバタバタ甲板を走って行った。
取り残されたゾロはと言うと。
「畜生、なんでハズレたんだ?」
くじ引き……。
手の中の真っ二つに折られた木片(元くじ)を睨みつけ、思わずそうぼやいた。
我らが船長は今ごろ、サニー号の横につけた小舟に飛び移って嫌がるナミとそれを宥めるコックを急かしながら、ワクワク胸を膨らませていることだろう。
それが容易に想像つくから、ゾロはついついしかめた顔をふっと笑みに変えてしまうのだ。
「おれが一番甘ェのか……?」
認めたくはないが。
くじ引きが明らかに船長を行かせるための妥協策だったことなど本人にすらバレバレなのだから。
ゾロは自嘲し、自分も船長を見送るべく後を追うことにした。
運も実力の内と言う。
次のくじは絶対ェ当ててやる……。
(おわり)
ゾロなんか「ルフィの暴走を止める役」とか言って真っ先にくじ作っちゃって(※アニワンの話し)。そんなゾロの内面を妄想してみたお話でした。
「いいかルフィ、行かせてはやるが、絶対ェバカやるんじゃねェぞ」
いざゴーストシップへ出発!という矢先、ハズレくじを持った手とは反対の手で船長の細い手首を掴み、ゾロはクルー達の目の届かない所へルフィを引っ張って来るなりそう脅しをかけた。
ついでに目の前でバキッとくじを折ってみせる。
麦わら海賊団で唯一、船長への決断権を暗黙の了解で得ているのがこの相棒、ゾロである。
「ゾロが船長みたいだな……」
きゅっと眉を寄せたルフィが追い詰められた壁を背負いそんなことを言った。上目遣いに見上げてくるこの顔に弱いことは皆には内緒だが、さっきみたいな、動くガイコツを見付けた途端、
『行こう? すぐ行こう!?』
と顔を輝かせておねだりモード全開のわがまま船長には、皆が弱いという事実を仲間達は気付いているのかいないのか。
「あ! 解った! ホントはゾロも動くガイコツに会いてェんだろ!!」
「聞いてたか人の話し!!」
思わずゴチンッと拳骨を食らわせたらルフィが「イテェ!!」と頭を押さえた。
「ざけんなイテェわけねェだろ。お前に打撃が効くかよゴム人間が」
「ゾロ知らねェのか、それはゾロがおれんこと好きだってしょーこなんだぞ? 愛ある拳は効くんだ! おれのじいちゃんが言ってた!!」
「……で?」
「ダイジョーブ! おれもゾロ大好きだっ!!」
「んな心配してねェよ……」
「?」
ルフィがわからない顔して首をかしげた。そんなルフィにゾロは少々ため息を零しつつ、「つーか…」と視線を船長の胸元に落とした。ゾロの目線を追って、ルフィが俯く。
いつもと違うオレンジ色のベストのボタンが全部外され、生の肌が見え隠れしている。
ゾロがするっとルフィの素の胸に大きな掌を滑らせれば、ルフィが「うひゃひゃくすぐってェ!!」と豪快に笑って背筋をピンと伸ばした。
「最近お前、無防備すぎねェか?」
「なにが?」
……言ってもわかんねェか。
「とにかく頼むぞ船長。一人で暴走すんなよ?」
「おお! 解ってる解ってる!!」
「てめェの“解ってる”ほど信用できねェもんはねェよなァ……」
経験上。
またゾロはため息を吐いて、胸に当てていた手をルフィの顔の脇に着いた。そして何の前触れもなく、笑みの形をしたルフィの唇に自分のを重ね、ほどなくして離す。
「ゾロがちゅうした……」
「おう」
自分は少しばかりこの船長の鼻をあかしてやりたかったのかもしれない。ポカンとしたバカ面に、ゾロはとりあえず成功だと内心ほくそ笑んだ。
「び、びっくりすんじゃん!!」
真っ赤になるあたりも剣士の気分をよくさせる。
「ついでだ」
「つ、ついでか。…んじゃおれもお返しだ!!」
「は?」
けれども残念なのがこの後の展開だ。破天荒なルフィの行動など、常に冷静な判断でもって行動するゾロに予想できるはずないのだから……。
ゾロはルフィにぶつけるようなキスを見舞われ、唇の痛み耐えながら口を押さえた。
「あ~悪ィ悪ィ!」
「て、てめ…」
「なぁなぁ! もう行っていいか!?」
見ればたじたじうずうず体を揺すっているルフィ。子供かお前は(子供だけど)。
「どうすっかなァ」
「う゛~~…」
うずうずうず。たじたじたじ。
「ったく……、行けよ!!」
「ありがとう行ってくる!!」
言うなりどぴゅーんとルフィが駈け出した。
「早…」
しかし何を思ったのかピタッと足を止め、くるんとルフィは振り返って、
「ゾロ!!」
「あ!?」
「くじもありがとなーっ!!!」
天真爛漫に笑ってまたバタバタ甲板を走って行った。
取り残されたゾロはと言うと。
「畜生、なんでハズレたんだ?」
くじ引き……。
手の中の真っ二つに折られた木片(元くじ)を睨みつけ、思わずそうぼやいた。
我らが船長は今ごろ、サニー号の横につけた小舟に飛び移って嫌がるナミとそれを宥めるコックを急かしながら、ワクワク胸を膨らませていることだろう。
それが容易に想像つくから、ゾロはついついしかめた顔をふっと笑みに変えてしまうのだ。
「おれが一番甘ェのか……?」
認めたくはないが。
くじ引きが明らかに船長を行かせるための妥協策だったことなど本人にすらバレバレなのだから。
ゾロは自嘲し、自分も船長を見送るべく後を追うことにした。
運も実力の内と言う。
次のくじは絶対ェ当ててやる……。
(おわり)
ゾロなんか「ルフィの暴走を止める役」とか言って真っ先にくじ作っちゃって(※アニワンの話し)。そんなゾロの内面を妄想してみたお話でした。