19×17

「しししし! 久しぶりだな~ゾロ!!」
「そうだな。つーか、せっかく二人で船番してんのにここじゃなくてもいいんじゃねェか?」
「なんで!? 〝ここ〟でデキることってそーねェじゃん!!」
「そりゃな、ここは個室じゃねェし夜はほぼみんなここで寝るからな、女ども以外は」
「だろー? 風呂場はヤったし、展望台もヤったし、あちこちの倉庫はいつもの場所だし……、あ! 芝生でヤってねェ!」
「いや痛ェから。ちくちくすっから」
「そっか」
「それにこんなトコ、大の男が二人じゃ狭くねェか? まぁお前が比較的スペースを節約してるとは言え……。それに揺れるぞ。つーかぶっ壊れねェといいが……」
「壊れたらフランキーに直してもらやいーじゃん」
「怒られるのはおれだぜ。ここ、おれのボングなんだからよ……」

実は二人、麦わら海賊団2トップのルフィとゾロは、男部屋のゾロのボングにきゅっと引っ付いて横になっていたりする。しかもすっぽり毛布を被って、寒くもないのに。

「だって、ゾロの匂いがいっぱいすんだもんよ」
「匂い……?」
「おれしか知らねェといいんだけどなー」
「……知ってるわけねェだろ」
そんな理由でわざわざここを抱き合う場所に選ぶとは、この船長、何と言うか……。
横向きで向かい合っている相手をゾロは自分の腕の中にすっぽり収め、ルフィのまだあどけない顔を間近に眺めて思案してみた。
「ん?」
「お前って結構、健気だよな。一途っつーか、思いこんだらそれしか見えねェっつーか……」
思い込んだら一直線、それは前々からわかっていたことだったが、恋愛に関して某ラブコックでもあるまいし、自ら語る奴はこの麦わらの一味にはいない。少なくとも、自分などには。
だからクルーの恋愛観など知るわけがないのだ。もちろん、この船長のこともその女性遍歴(なさそうだけど)なども。

「それってどういう意味だ?」
大きな黒い目を瞬き、ルフィが小首を傾げた。
こんな仕種にさえ鼓動のリズムが狂うようになった自分の恋愛観さえ、ゾロは知りもしないというのに。
「お前がおれしか見てねェって意味だ。目で見るって意味じゃねェぞ、誰かをひたむきに想うって意味だ」
しかしこんな言い方をするとある一人の人物が浮かんでくる。ルフィの憧れであり目標の大海賊、赤髪の……いやいや、今は思い出さないでおこう。
「ゾロ? 急に難しい顔になったぞ? ゾロはいっつも考えてること言わねェし」
ぷくう、とルフィが頬を膨らませた。
「男のクセに膨れっ面すんな」
むにゅっと片手で顎とほっぺたを掴んでたしなめる。おーおー、〝男のクセに〟柔らかい。
自分がルフィに、体以外で求めることと言えば甘やかなことは何一つなくて、船長としての威厳だとか、仲間としての絆だとか、共に野望を果たすことだとか……誓いを守ることだとか。
それらはとても、困難で。
長い長い時間をかけて、一緒に過ごさなければなし得ない換えの利かない存在だということ――そういう関係だと、思ってきたのだけれど。
「ぶっちゃけお前の外見とのギャップにときたま揺るがされるおれはまだまだ修行が足りねェんだろうな」
「んん??」
「なんでもねェよ……」
そうこうしていて一向に手を出してこないゾロにじれたのか、ルフィが「時間もったいねェ」とゾロの首にぎゅうと抱き着いてきた。
「しよ」
「…あぁ」
スルのは当然のように、〝セックス〟。
男同士で、船長と船員で、相棒だけれど、相手の体や仕草に欲情するのは惚れ合っているから、そのくらいのことはもう解っていて、だから抗いはしない。

「好きだからな、ゾロ」
「……知ってる」
「んー。ゾロはめったに言ってくんねェけど、まぁいいよ。好き好き言うゾロって想像できねェし!」
ししし、とルフィがまた満面の笑みになった。

ゾロはあっけなく劣情を煽られてしまう己のスイッチを未だ把握できないけれど、それもまぁいい。
ルフィの布地の少ない赤ベストをなんなく剥ぎ取り、毛布の中でもごもごジーパンと下着を脱がせ、ボングの隅へと追いやった。
それから己もさっさと脱ぎ捨てて初めて熱い肌と肌をぴたりと合わせる。
股間を相手の同じ箇所に押し当てたら、ルフィが「ふあ」と可愛らしい声を上げた。
「ヤベッ。キモチいぃ。ゾロの、勃ってる」
「お前もだろ」
「だって今からゾロがおれにナニするか、もう知ってっから……」
体は、勝手に反応を示すのだ。

「ルフィ」
「ん?」
「――好きだぜ。これでいいか?」
「いいかとか悪いかとか……」
またぶう、とルフィが膨れてしまう。お怒り率高し。その怒りスイッチさえ、検知不可能なゾロだとは言え。
白くてすべすべした彼の裸体を前にずさんにならないほうがおかしいと、自分勝手な言い訳を許容できる大器な船長であることもまた知っていれば、オールクリアな気分になる。
残念ながら彼が万人を従わせる〝王の資質〟を備えているのは事実で、今はまだ温かく柔らかな土に包まれ眠る種だとしても、いずれ開花していく様を一等近くで見守り支えてやれるのは〝1人目〟である自分に他ならないと、こう見えて自負しているから。

ルフィ、おれは必ずお前を海賊王にしてやれる強い男になる。

「それまでおれを甘やかすなよ」
「はぇ? どこまでって?」
「おれを許すな。守んな。犠牲になんな。おれはまだまだこんなもんじゃねェ。だから過信だけしてろ、それからずっとそうやって……」
――おれだけを一途に想っていればいい。
「なに?」
「い、言えるかアホ。いやおれがアホだなこりゃ……」
これが己の恋愛観というものなら、一人よがりもいいところじゃないのか。
「おお!? ゾロがなんか赤くなってる。カワイー!!」
「か、かわいくねェ!! やっぱまだまだ修行が足りん……」

また「カワイー」とルフィが小うるさいので、ゾロはガバリとルフィの上に覆いかぶさって激しいくちづけで口を塞ぎながら、その体中をまさぐり始めた。
キスの合間にさっそく甘い呼気でゾロの名を呼ぶルフィの、上気した頬傷に指先を這わせれば、ひくんと揺れる細い肩がうっすら開いた視界に映る。
「ゾロ……ゾロ、……好きだぞ」
「それもだルフィ。おれを甘やかすんじゃねェよ」
「ん? どれ? …んぁっ」
さっきから質問しかさせてもらえない船長が、剣士の前に自ら体を拓く。
「これから覚悟しとけよ、色々と」

例えお前がおれの船長だろうと未来の海賊王だろうと、それはそれ。
敗けるつもりなど、これっぽっちもないのだから。



(勝手にやってろ的に終了)
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